第4話 リーグレット、警備に問い詰められます。
「で? どうしてこんな事を」
「あー、そのぉ……私、ここの生徒で……決して不審者じゃないのに、疑われて……つい」
警備たちに連行されたリーグレットは王立学園の校内にある警備隊詰め所の中にある暗い暗い部屋で、あの偉そうな男から聴取を受けさせられていた。
どうやらこの男は警備隊の隊長であるらしく、部下の警備は皆彼の言葉に従ってい動いていた。
リーグレットの目の前に座る警備隊長は机を上を指でトントンと叩いていて、その音がリーグレットの不安を掻き立ててくる。
「あのな? ついで人を殴り飛ばしたり催涙スプレーをぶっかけるんじゃない。どう考えてもお前は異常だぞ? 分かってんの?」
「は、はひぃ……」
「分かってんの?」で指を叩く強さが増して音が狭い部屋にカツンと響き渡りリーグレットがビクリと萎縮する。
そんな彼女の様子など気に求めず、警備隊長はリーグレットから取り上げた鎧の腕を持ち上げて眺める。
「にしても魔装具か……不審者の割に相当金がかかった武器を持ってるんだな」
魔装具――ゴーレム技術から派生した魔法を使えない人間のための魔法武器だ。
リーグレットがゴーレム製造の際に見つけた理論を元に片手間に組み上げた物なのだが、これが学会に認められて瞬く間に世に広まったのだ。
世の中には魔法を扱うための器官、魔導回路に異常をきたした人間が少なからず存在する。
かく言うリーグレットもそんな人間の1人なのだが、この武器はそんな彼女達の体内魔力を吸い上げ無属性魔法を扱えるようにしてくれるのだ。
だがまだ世に出て数年しかない為、かなりの贅沢品として扱われているらしい。
らしいと言うのも、リーグレットはただ公表しただけで売上のことなど一切興味が無かったのだ。
ただ知らないうちに知らない所からとんでもないお金が入ってくる事だけは彼女にとって最高とも言える収入源になっているのだが……。
今はそんな事どうでもいいだろう。
部屋の入り口には顔に包帯を巻いて泣きべそをかいてる、誇り高い警備の男がいた。
彼は正門でリーグレットが倒した男だ。
どうやら彼が倒された後すぐに応援を呼んだおかげでリーグレットをすぐに捕まえることができたのだろう。
そう考えると、この男はなかなかの胆力を持ち合わせていると見える。
リーグレットはそんな彼に手を合わせて「ごめんなさい」とジェスチャーで伝えるが……。プイっとそっぽをむかれてしまう。
「はぁ……」
「なにため息ついてるんだ」
「私……本当にここの生徒なのに皆さんに迷惑ばかりかけて申し訳ないなぁと……」
「えぇ……あれだけの事しといてそんな態度取れる? 二重人格なの? あいつの顔を見てみろよ……鼻の骨折ってるんだぞ?」
「面目次第もございません……」
(私はただ……学校に入りたかっただけなのに……)
「失礼します!」
その時、部屋の扉を盛大に開けて入ってくる警備員の男。そんな彼に警備隊長は苛ついた様子で振り返った。
「なんだ。今は犯罪者の聴取中だぞ、後にしろ」
「そ、それが……その子の従者という方がいらしてですね……」
「なに?」
警備隊長は少し考え「連れてこい」と言った。
そして部屋に入って来たのは……なんとリーグレットを馬車に乗せていた従者だった。
「あ、あなたは!」
「お嬢様! 探しましたよ。まさかもう学園に着いているなんて……しかも詰め所になんて……何をしでかしたんです?」
「あー……暴力を少々……」
うわぁ……と従者の男が顔を引き攣らせた。
まさかリーグレットのような気弱な少女から暴力という言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。
リーグレットは外の世界に疎い分、常識が欠落していることにようやく悟り始めた。
「旦那様からお嬢様は常識に欠けている部分が多くあるとはお聞きしていましたが……まさか暴力ですか……」
「す、すすす、すみましぇん!」
噛んでしまった。
今日1日でこれだけ多くの人と話したのは初めてだから舌が疲れているのかもしれない。
従者の男は警備隊長の前に立っては見事な角度で頭を下げた。
「申し訳ございません! お嬢様が多大なご迷惑をおかけしまして」
「お、おお。で、あんたは?」
「私はお嬢様……リーグレット・アイアンガルド様の執事をさせていただいてますバレンタインと申します。お嬢様は、お身体の病気で長くこの学園を休まれていてその……記憶も少々欠落しておられるのです……その所為か、度々考えられない問題を起こしてしまうのですよ……」
「まじかよ……社会マナーだけが吹っ飛ぶ記憶喪失とかどんだけだよ……」
あはは、とリーグレットは警備隊長に笑ってみせた。
今のバレンタインの発言はおそらく常識知らずなリーグレットを守るための物なのだろうが……別に記憶障害を患っているわけじゃない。
むしろ正常だ。
正常だからこそ今の度々考えられない行動という言葉に引っかかりを覚えてしまう。
(もしかして私……屋敷にいる時にもなにかやってたの?)
「そうだ。こちらも紹介が遅れました。私はここの警備隊長を務めているグラハムです。今回は貴方の主人であるリーグレット嬢がここの学生だと言い張り私の部下と学生2人に暴行を加えましたので連行させて頂きました」
「左様ですか……」
横目でリーグレットを睨んだバレンタインの視線がまるでナイフのように彼女の胸に突き刺さる。
でも、だけどとリーグレットはグラハムに頑張って口を開いた。
「わ、私は本当にここの学生なん……です……寮長さんとの面会も約束してますし……」
「寮長と?」
グラハムがバレンタインに目を向けると、彼も「ええ。間違いありませんよ。本日15時面会の約束を取っています」と頷いてくれた。
グラハムは懐からメモ帳を取り出しパラパラとページを捲り、目に入った場所を指でなぞりだした。
「確かに15時に面会とあるな……」
グラハムの鋭い眼光が包帯を巻かれた警備の男に向かれた。この場の注目を集めた男の顔が青ざめていく。
グラハムは「少々お待ちください」と席を立ち警備の男に詰め寄った。
「おい。お前、彼女が寮長の面会相手だと知っていたか?」
「い、い、いえ! そんな事は知りませんでした!」
その言葉に少しムッとしたリーグレットは呟くように言葉を吐いた。
「私言ったのに……寮長さんに聞けば分かるって……」
その言葉をグラハムは聞き逃す事はなく、「ほぉ〜」と警備の男にもう一度顔を向ける。
「って言ってるが?」
「あ、ああ、い、いや、その……あのう……」
「言っていたんだな!」
檄が込められた強い声が部屋に響き渡った。
それを直接受けた警備の男は力無く「はい……確かに言ってました」と項垂れた。
(あの時の言葉……聞こえてたんだ……)
「はぁ。まったくそうなると話が変わってくるじゃないか」
頭を抱えたグラハムは部下の警備員の男の首根っこを掴んでリーグレットとバレンタインの前に放り投げるように膝を着かせ、グラハム自身も深く頭を下げた。
「申し訳ございませんでした! 私の部下が失礼を働いたようで要らぬ迷惑をおかけして」
「へ……」
リーグレットはどう反応すればいいか分からなかった。
なにせこうして情熱的に謝罪を受ける経験など皆無だったのだから。
だけど誠意は伝わった。伝わったが――
(私も、人に迷惑かけたし素直に受け取っていいか分かんないよ……)
と言うのが本音である。
「約束をしていたと言うのに確認を怠ったこちらの不得。今回はリーグレット嬢の問題を不問にさせて頂きます」
「い、いいんですか?」
「ああ。しっかりと確認しておけば被害者は出なかったんだ。お前は被害者だよ。ただ、暴力だけはこれからは慎むように」
帰っていいぞ。と言われリーグレットとバレンタインは部屋を後にした。
なにやら部屋の方からとんでもない打撃音と男の悲鳴が聞こえてくる。リーグレットが振り返ろうとするとバレンタインに顔を前方に固定されてしまった。
「参りましょうお嬢様」
「で、でも……」
「罪は許されました。ですが後ほど暴行を加えた事は事実、後ほど私の方から学生様には謝罪に向かわせて頂きますよ」
「はい……ごめんなさい……」
バレンタインは決して悪気があってそう言ったわけじゃないが、今のリーグレットには「お前のせいでえらい迷惑を被ったじゃないか」と言った意味に聞こえてしまいシュンと反省するのだった。
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