第33話 マキア。アクラディーテと対峙する。
老執事を下したリーグレットは彼にアクラディーテの居場所を聞くと素直に答えてくれた事に少し驚いた。
なぜ? と問うと魔法使いとして自分より強い物には服従と答えられた。
どうやら魔法使いの世界では、弱肉強食のルールがあるようだが、リーグレットは魔法使いの過程をすっ飛ばして魔導師になってしまったのでそんなルールなど知りもしなかった。
だが素直に答えてくれた事実だけはありがたかったので、彼女は心の中で魔法社会に感謝の言葉を捧げるのだった。
そんな彼女は老執事の言葉通り屋敷を進んでアクラディーテの居る部屋の前に立った。
リーグレットの身長3倍はあろうかという扉からして、まさしく主人の部屋といった雰囲気が醸し出されていた。
そんな扉を開くと中は驚くほど広い。まるで学園の体育館のようだった。
部屋には青い花瓶に誰かよく分からない銅像、そして本棚の数々
ほぇ〜。と見渡しながら部屋に入ると扉が1人でにバタンと閉まりリーグレットは驚き振り返ってしまう。
そんな彼女に大人の女性が声を掛けた。
「誰?」
その声に振り向くと、部屋の奥にあるデスクに腰掛ける黒い髪にキツそうな目をした女性がメガネを置いてリーグレットに目を向けていた。
その顔はどこかサリュースの面影を感じさせる……。
恐らく……いや間違いなくアクラディーテ本人だろうとリーグレットは考えた。
「おかしいわね。今日は客人が来るって予定にはなかったはずなのに……」
「突然の訪問申し訳ございません。私、サリュースさんの同級生の者なんですが……」
リーグレットがそう言うと、アクラディーテの目が一層険しくなった。
「サリュースの……同級生ですって?」
椅子から立ち、カツカツと靴の音を鳴らしてリーグレットに向かってくるアクラディーテの目には敵意が宿って見える。
杖を構える彼女にリーグレットは臆さず答えた。
「はい。あなたですよね? サリュースさんに学園の事件を起こさせた犯人は」
「ほぉ……。証拠でもあるのかしら? まさか、ないのにそんな言い掛かりをつける危険が分からない愚か者ではないでしょう?」
「そうですね……。証拠は勿論あります。それに証人も。なので私はあなたを糾弾するためにここに来たんです」
「糾弾? 学生のお前が? ぷっ、ははははは」
何が面白いのかアクラディーテが笑い出した。
だが隙がない。
笑いながらも彼女は魔力を練り続けているのをリーグレットは服の中にあるゴレムリンを通して感知していた。
「冗談は良しなさい。一回の学生風情がリリベルタ家当主であるこの私を糾弾できるとでも? 立場を弁えなさい」
キツい眼光を飛ばして彼女は手を叩いて「アングリー。アングリー」と恐らく先ほど戦った執事の名前を呼びだした。
そんな彼女にリーグレットは告げる。
「執事さんなら……来ませんよ?」
「はぁ? なんでお前がそんな事を――」
「彼は私が倒しましたから」
「!!?」
瞬間アクラディーテの顔が真剣そのものに変貌した。
「アングリーを下したですって? 馬鹿仰い。あれは王国の中でも上位の魔法使いなのよ? 魔法師団なんてふざけた魔法使いなんかじゃない。本物の魔法使い! 炎獄のアングリーなのよ?」
つまり実力はかなりの物だったのだろう。
だろうが……一切魔法を使わせず勝利してしまったため、リーグレットには彼の強さがさっぱりだった。
「ですが事実ですし……」
「……お前何者? ただの学生がアングリーを倒せるなんてあり得ないわ」
アクラディーテが杖を構える、いつでも魔法を放てると魔力を杖に集めている様子。
リーグレットが名乗りを上げてすぐに攻撃しようと考えてるようだ。
だが彼女はそんなのお構いなしに名乗る。
偽名なんかではない。正真正銘彼女自身の名前……この世界でたった5人しかいない内の1人である魔導師の名前を。
「私はマキア……。マキア・リスタルテ」
「マキア……リスタルテ!? 鋼鉄の魔導師!?」
アクラディーテの魔力が揺らいだ。
彼女の真名を聞いて動揺したのだろう、それもそのはず。彼女にとってマキアの存在は自身の経歴に泥を塗った忌まわしき存在なのだから。
そんなアクラディーテは頬を緩める。
待っていた……この機会を。と言ったように。
「鋼鉄の魔導師……マキア・リスタルテ、会いたかったわ。私、あなたに思うところがたくさんありましてよ」
「たくさん……思うところ?」
リーグレットは首を傾げる。
(私、あなたに何か嫌がらせを働いたことなんてないはずなんだけど……)
もしかすると知らずのうちに何かしでかしたのかもしれない。
そうだとすると、この事件の発端は自身にあるのかもしれないとリーグレットは考え彼女の言葉に耳を傾ける。
「ええそうよ、私がなるはずだったのよ。新しい魔導師に……それなのにお前ときたら、突然出てきて8歳で魔導師になるですって? 魔法も使えないくせに……いったいどんな不正を働いて魔導師になったっていうのかしら!」
「不正って……そんな……」
そんな事一切していないし、記憶にもない。
確かにリーグレットは魔法が使えない身ではあるのだから、そう疑われても仕方がない。
だが少し調べれば彼女が魔導師になれた経緯も出てくるはずなのに、このような言い方をされるとムッとするものがあった。
「でも良い機会だわ。私お前のことが気に入らなくて気に入らなくて堪らなかったのよ。だからここでお前を倒せば私が魔導師になれる力があるって証明できるわよねぇッ!」
アクラディーテの構える杖から水が現出した。
それがリーグレットの元へ槍の如く放たれるとアクラディーテは勝利を確信したかのように高笑う。
「魔法も使えない癖に、丸腰でここに来た時点でお前は詰んでるのよ!」
「丸腰……」
水槍がリーグレットの眉間に激突した――ように思えたが、そのコンマ1ミリの所でアクラディーテの魔法が霧散した。水飛沫もあげず、弾ける事もなく消え失せたのだ。
アクラディーテは今起こった事実に目を丸くした。
いったい何が……。彼女の口からそんな言葉が漏れた。
「あなたが水魔法の使い手だと言うことは知っています。ですので私、備えてきたんです。決して丸腰なんかじゃありませんよ?」
そう言ってリーグレットの服からゴレムリンがフワリと飛び出した。
それを見たアクラディーテは目を細める。
「魔装具……いいえ、ゴーレムね……」
稼働するゴーレムはこの世界で1体しか存在しない。
それは彼女――マキアが作り上げ公表した自律型ゴーレムのみ。
そんな彼女が今、目の前にいて操っている魔装具は全てゴーレムであるとアクラディーテは見たのだろう。
「なるほど……対属性魔法か……」
「正解です。この子には火と水の2属性の対属性魔法の術式を組み込んでますので……」
「そっ。なら残念ね。私は水だけでなく氷も使えるのよ!」
アクラディーテは自身の体の周りに氷槍をいくつも展開し始めた。
リーグレットはそんな彼女から目を離さず、ゴレムリンを掴み首を押し込む。
ピーーッ!
部屋中に高音が鳴り響いた。
アクラディーテはそんな音になどに興味も示さず魔法を放つ。
「何したか知らないけれど、無駄よ! どうせここに来るのならご自慢のゴーレムを連れてくるべきだったわね! 最弱の魔導師!」
だが放たれた氷槍がリーグレットに当たることはなかった。
アクラディーテが放った瞬間――彼女のすぐ後ろにある窓を割って飛び込んできた鋼色の鎧が、彼女の魔法よりも早くリーグレットの元へ駆けつけたのだ。
それが全ての魔法を鎧がリーグレットを庇うように、その身で受けて砕いたのだ。
「連れて来ていますよ? 勿論じゃないですか」
リーグレットの前に鎧が音を立てて立ち上がる。
その姿はどこぞの騎士を彷彿とさせるリーグレットの――マキア・リスタルテ渾身の傑作ゴルディアスだ。
「この子は私の大事な友達なんです。仕事をする時はいつも一緒って決めてるんですから」
リーグレットは真剣な目でアクラディーテを睨む。
向こうは彼女に面白いと言った顔を向けていて、これからここで起こる戦いの激しさを予感させるのだった。
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