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第28話 それでも友達になりたい

 サリュースが水魔法を放とうと魔力を杖の先に集中させているのをリーグレットはジッと見つめていた。


「そこを退きなさい! 本当に撃ちますわよ」


 先端の水が鋭利な形を形成しリーグレットへ穿たれようとしているのだが、彼女は一歩も退く事はない。

 むしろ逆にサリュースへ距離を詰め始めた。


「と、止まりなさい!」

「止まりません」

 

 サリュースの手が震えていた。

 恐らく彼女は人に向けて魔法を放つ覚悟が決まっていないのだろう。

 そんな彼女がこんな事件を起こすなんて考えられないとリーグレットは進み続ける。

 

「私……本気ですのよ。確かにあなたの言う通り私がやったわ! ええやりましたの! サラマンダーで同級生を殺して、マーダーグリズリーを森に呼び寄せました! 全ては私が評価されるために!」


 訴えるような叫び、だけどどこか悲鳴のようなものを感じる。


「そんな私が今更もう1人殺すことぐらい……」


 水が完全に弾丸の形を成して回転し始める。

 高度な魔法技術だ。

 これ程まで圧縮された水魔法を放てば確実にリーグレットは穿たれ脳天に風穴を開けることだろう。

 だが不思議と恐ろしくはない。

 リーグレットは確信していたからだ。


「できませんよね」

「…………!?」


 サリュースの顔が強張った。

 そう……出来るはずがないのだ。

 サリュースはこれまで事件に深く関わっていた人物である事は確かだが、そのどれもが犠牲者を減らすように努めてもいた。

 それが彼女を怪しく見せたのは事実ではある。

 だが同時に理解できない部分も出てくる。


「サリュースさんは魔法で人を殺したくないんですよね」

「違います!! 私はもう既に人を殺してますのよ? もうこの手を汚す事になんか慣れて――」

「いいえ違いません。ならなぜサラマンダーから私を逃がそうとしてくれたんですか? 誰にも疑われずにことを成せばバレずに済んだものを、あなたの一番近くにいた私を逃がそうとしたのはなんでですか!」

「だ、黙りなさい!」


 サリュースの杖が額近くになる程、進んだリーグレットは立ち止まった。

 彼女が今魔法を穿てば即死する距離にリーグレットは立っている。

 ここからだとサリュースの顔がよく見えた。

 怯えた目、震える杖を握り締める手。

 リーグレットはそんなサリュースに言葉を紡ぐ。


「あなたは魔法をこよなく愛しているはずです。そんな大好きな魔法をこんな人を殺す為に使う事に引け目を感じているんですよね。だってそうでしょ? あなたがこれ程まで魔法の技術を磨いてこれたのは才能じゃない。魔法が大好きだったから。向き合ってこれたから身につけた力のはずです!」

「私は……私は……」

「隠さないで真実を教えてください! 一体何があなたをそこまで追い込んだと言うんですか」

「あなたに……あなたに話したとして……私の何が分かるっていうのッ!!」

「分かりません!」


 サリュースはリーグレットの叫びに驚き目を見開いた。

 それもそうだろう、彼女がここまで大きな声を出した事はなかったはずだ。

 そんな彼女が今、誰よりも大きな声で、芯に力ある言葉をサリュースにぶつけたのだ。

 

「分からないから今こうして聞いてるんです……。話してくれなきゃ分かる話もわからないままなんです! でも一つはっきりと分かっているのは、あなたが魔法を愛していることだけ。同じなんです……私も大好きな事があるので」

「大好きな……もの?」

「はい……それが好きで好きで気づけば凄いところまで登ってしまうほどに……。サリュースさんも同じなんですよね? きっかけはどうであれ、好きなものに打ち込むうちにここまでの力が身に付いたんですよね」

「あっ……あぁ……」


 サリュースは杖を落とし膝をついた。

 同時に彼女が展開していた水魔法は地面に落ちると水をこぼしたように地面に広がり水溜りを作る。

 そんな彼女が……凛として強かった彼女が嗚咽を漏らし始める。


「そうよ……私は魔法が好き……大好きなの。お母様から教えてもらったこの魔法が大好き。勉強して知識を蓄える度新しいアイデアを試したいって思うようになった。見たこともない魔法を作ってみたいと思った。それぐらい大好きなの! こんな事……したくなかったのに……」


 彼女の口からでたこの言葉は心の叫びなのだろう。

 リーグレットは膝をつきサリュースの背中に手を置いた。その背中は震えていて、とても辛そうに見える。

 

 そんな彼女を励ます気の利いた言葉なんてリーグレットには考えつかない。

 ただ、今ここで言えることは――


「分かってますよ。あなたが魔法を愛してるからこそ悪事に手を染めたくないことも。それどころか守る為に全力を尽くしてしまう不器用なところも。全部分かってますよ」

「なんで……なんでそんな事が言えるのです……」

「それは……」


 ここで口にするべきではないのだろう。

 だけど、リーグレットは気の利かない娘であった為頬を赤くしながらその言葉をサリュースに呟いてしまう。


「と、友達になりたいと思った人ですから……理解しようと頑張ったんですよ……」


 場違いな発言だろう。

 このような場において掛けるべき言葉は他にもっとあるはずだ。

 だが、そんな馬鹿正直なリーグレットの言葉はサリュースの悲しみを砕いたようで、プッと彼女は笑いを溢した。


「友達になりたいだなんて……あなた私からずっと嫌味を言われてたのに、なんでそんなこと言えるのかしら」

「い、いいじゃないですか。ずっと言ってますよね。サラマンダーの炎を一緒に潜り抜けた仲だからって……」

「ええ、ええ。言ってましたわね、ふふふ。あはは」

「な、なにがおかしいんですか!?」

「いえ。だってさっき迄は凛としていらっしゃったのに……ぷっ。友達になりたいだなんて……あははは。おかしいですわよ」


 ツボに入ったのだろうか、サリュースは声を大にして笑い始めた。リーグレットは少し恥ずかしく頬を膨らませたが、そんなサリュースの笑顔を見て、まあいいかと思うのだった。

 そんな時、アナンタがリーグレットの側にやってきて耳打ちする。


「いいんですか? これで」

「はい。本当の黒幕はサリュースさんではありません。戦うのならその人とです」


 そうしてリーグレットはサリュースが落ち着いてから、事件に関する話を聞く事になった。

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