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第27話 サリュースの嘘

「リーグレット・アイアンガルド……またあなたですの?」


 噴水広場の、噴水の縁に腰を下ろしていたサリュースが立ち上がり、もう飽き飽きだとうんざりしたような顔でリーグレットを捉えた。


 いつもであれば、こんな瞳で睨まれたリーグレットは小動物のようにびくりとするところであるが、今回は違う。

 まあ多少怖いので震えてはいるのだが……。

 そんな彼女は歩にして五歩分の距離を前にサリュースの前に立った。


「サリュースさん……あなたに話がありましゅ」


 噛んだ。噛んでしまった。

 それも仕方のないこと、リーグレットはこれまで畏まった話をするような環境で生きてこなかったのだから。

 そんな彼女は今、恥ずかしさと、恐ろしさで顔を真っ赤にしていた。


「話? おかしいですわね。ここには私のお友達が入ってこないように守らせてたはずですのに」


 確かにここに至る道中にサリュースの友人が番人の如く立ち塞がっていた。

 中にはリーグレットに暴力を振るったあの3人も含まれていたのだが、今のリーグレットは真面目なので寮からとある自作魔装具を持ち出していたのだ。


 ステルスコンパクト。

 一見ただのコンパクトにしか見えないそれは、中を開いて自分の姿を鏡に映せば姿を風景と同化させることができる優れものだ。

 

 アイデアはスコルプレオンという擬態が得意な南国の魔物から得たものなのだが、あまり面白味がないので棚の奥に仕舞われていたリーグレットの中でゴミと分類される魔装具だ。


 今回は2人きりで話す必要があったし、恐らく、いや必ずサリュースの周りには友人が居るだろうと考え持ち出したのだ。


「そ、そんなことより私の話を聞いてください」


 こほんと咳払いしてリーグレットは気を持ち直す。

 恥ずかしさで言葉を詰まらせている場合ではないのだ。

 ここでサリュースの本心を聞く、聞かなければいけないと心に誓ってきたのだから。

 だが――

 

「またお友達になりたいって言うのならお断りですわ。私愚図な人は嫌いなもので……失礼」


 リーグレットの横を通り過ぎようとした。

 やはり見向きもされない、だがそれは予想していたことだ。

 だからリーグレットは怯まないし臆する事なく横を通り過ぎようとするその瞬間に告げた。


「あなた……ですよね。サラマンダー事件の犯人」


 サリュースの足がピタリと止まった。

 リーグレットは彼女の顔に目を移すとそこにはえらく真剣な顔で真っ直ぐ見つめるサリュースの顔が見える。


「サラマンダーだけじゃありません。以前の剣術講義のマーダーグリズリーの件もそうです。あなたが呼び寄せたんですよね」

「わ、私が? 何を言ってますの? 私も被害者ですのよ? この世のどこに自分も被害に巻き込まれる犯人がいると言うのです。馬鹿馬鹿しい……失礼します!」



 ふん! とご立腹と言った様子で立ち去ろうとしたがリーグレットは逃さない。

 さらなる言葉でサリュースの心を釘付けにさせる。


「あなたに私の魔装具が取り付けてあります。そこから私の魔力を……感じ取れませんか?」

「!!?」


 サリュースは慌てて自分の服を見渡した。

 叩き、服を引っ張り、リーグレットの言葉を嘘であると言ってしまいたい様子であった。

 だが、それは落ちた。

 彼女のスカート、そこに取り付けてあったコインよりも小さな魔装具が。


 サリュースはそれを拾い上げると怒りを露わにしたようにリーグレットへ食詰め寄った。

 

「あ、あなたなんのつもり! こんな物仕掛けて! 嫌がらせですの!」

「誤魔化さないで答えてください。その魔装具から私の魔力が感じ取れませんか?」

「感じないわよ! 感じ取れるはずないでしょ! だってこれはただの部品――」


 サリュースがその言葉を言った時だ。

 この場に、現れるはずのない人物がもう1人現れたのは。


「ほぉ。それがただの部品にしか見えないか」

「アナンタ……クローク先生……」


 噴水広場に現れたのは魔法実技講師のアナンタ・クロークだった。

 彼女は真っ直ぐリーグレットとサリュースの元にやってきては、サリュースの持っていた豆粒代の魔装具を手に取り告げた。


「私にはこれが異様に魔力を発した物にしか見えないのだが?」

「なっ……」


 サリュースの顔が張り詰めた。

 アナンタには見えているのだ、魔力が。

 彼女は魔法師団の若手エースと呼ばれるだけあって魔力察知が可能な存在だ。

 今回、サリュースの事件関与の疑いを確実な物にするためにリーグレットがあらかじめ呼んでおいたのだ。

 

 そんな彼女がなぜこんな事に付き合ってくれるかといえば……。以前リーグレットがアナンタを吹き飛ばした講義の後、謝罪に向かうとリーグレットは正体に気づかれたというわけだ。

 曰く、自分を吹っ飛ばせる人間は魔導師ぐらいしか居ないと。


(今にして思えば、迂闊だったかもしれないけど……)

 だがアナンタはリーグレットの話を聞いて彼女の正体を隠してくれることを約束してくれたので問題はない。

 

 それにこと今回においては非常に心強い味方でもある。

 そんな彼女が魔装具の性能について言及してくれたのだから、それにサリュースは反論できるはずがない。


「リ、リーグレット・アイアンガルド……謀ったわね」

「いいえ。私はそんな人間ではありません」


 サリュースが後退り、リーグレットとアナンタから距離を取り始める。

 アナンタが腰に携えたレイピアを引き抜こうとしたがリーグレットはそれを手で止めた。

 

 アナンタはそれ以上何もせず、何も言わずレイピアから手を離し、この場をリーグレット……【鋼鉄の魔導師】マキア・リスタルテに委ねようとしてくれたのだ。


「私はあなたをこの場で捕まえようとは考えていません」


 リーグレットは一歩、サリュースとの空いた距離を詰めた。サリュースは逃げるようにさらに一歩と後方に引き下がろうとするが彼女は容赦なく歩み続ける。


「ただ教えて欲しいんです。あなた程の魔法の力がある人がなぜこんな事件を起こしたのか。周りからの評価が欲しいだけなら、あなたは既に十分優等生として認められているはずなのに、なぜ」

「だ、誰があなたなんかに……」


 サリュースの顔つきが変わった。

 鋭い目つき、それが攻撃的な物だとリーグレットは咄嗟に気付いていた。


「誰があなたなんかに話すものですかッ!!」


 サリュースが胸の内側に入れていた杖を取り出してリーグレットへ向けた。

 杖の先端から青く、小さな流動体が体動し始める。

 水魔法だ……。彼女はこの場で水魔法を放つつもりなようだった。


「リーグレットさん!」


 アナンタの慌てたような声が静かな噴水広場に響いた。

 今魔法を放とうとしているサリュースに対してリーグレットは丸越しで無防備だ。

 だが彼女はサリュースから目を離さない、逸らさない。

 ただ真っ直ぐ……強い眼差しを向けるのみだった。

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