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第26話 疑惑が確信に変わる時。サリュース・リリベルタ

 森の奥にある遺跡。

 ここは古代時代より存在するとされる迷宮と呼ばれており、中には外で徘徊する魔物よりも強力な魔物が蔓延っていると噂されている。

 

 だが、中へ入るための入り口は魔法陣で描かれた門で塞がれており、学会の調べによると古代の魔法で封印されているらかった。


 そんな遺跡に周りには学生達が息も絶え絶えな様子で辿り着いているのだが、中には大怪我をしていたりと只事ではない状況だった。


 そんな中に1人サリュースだけは毅然として学生達に呼びかける。


「これで全員ですの? 誰も森の中で逸れた方はいませんの?」

「あ、あぁ。これで……全員だ……」

「助かったわサリュースさん。まさかマーダーグリズリーが徒党を組んで現れるなんて……サリュースさんの魔法がなければどうなっていたことか……」

「なにを仰います。ここまで来れたのはあなたの実力あってこそよ。私はただほんの少しだけ手助けしただけですわ」


 どうやらマーダーグリズリーの襲撃を受けたのはリーグレットだけではなかったようで、周りの学生達は皆、サリュースが助け出したようだ。


 そんな学生達から称賛されるサリュースを離れた場所からリーグレットは眺めていた。

(みんなの話からサリュースさんが助けたのは事実。事実だけど……上手くいきすぎてる……)

 リーグレットはポケットに忍ばせておいたゴレムリンを取り出し首を右に捻る。


(それにやっぱりそうだ。サリュースさん全く気付けてない)

 リーグレットが以前彼女に取り付けた魔装具。

 それはゴレムリンを媒介にリーグレット自身の魔力を取り付けた魔装具から発するだけの物。

 

 ただそれだけの機能ではあるが、彼女は魔力を察知出来るほどの実力があるはずだった。

 であるのに、服に取り付けた魔装具の存在に気づかず今もなお彼女に取り付けられているのはおかしい。


(私がサリュースさんだったら自分の魔力とは別の魔力を察知した瞬間魔装具を外して破壊するんだけど……)

 誰だってそうだろう。

 誰が取り付けたか分からない物など気付いた瞬間に破棄するものだ。

 

 それにリーグレットは1日おきにゴレムリンの魔力転送の出力を上げてサリュースに気付いてもらうように仕向けていたのだが変わった様子はない。

 本当に気付いていないのだ。

 つまり……。 


(あの時サラマンダーの魔力だってすぐに気付いたのはおかしい)

 リーグレットの中でサリュースの存在は白から黒へと変わった瞬間だった。

 

 この称賛される現状も恐らく彼女が仕組んだ状況だろう、この場において得をしている存在は彼女だけなのだから。


(でもなんで……どうして……)

 実力ある彼女があぜこのような真似をするのかリーグレットには理解できなかった。

 普通に学生生活を送るだけでも彼女の実力は評価されていたはずだ。


(なにか焦ってる?)

 そうとしか思えなかった。

 証拠は今抑えられる……彼女は持っているはずだ。

 マーダーグリズリーを呼び寄せた笛を。

 だが、リーグレットは彼女を糾弾しようとはしなかった。

 

(一度ちゃんと話を聞かないと……)

 なにか理由があるはず。そう信じたかったのだ。

 でなければサラマンダーと対峙したあの時にリーグレットが見たサリュースの真剣な表情に説明がつかないのだから。


 ***


 剣術講義のマーダーグリズリー騒動から数日。

 学園は森の調査の為、当面の間現地実習の講義を見送る運びとなった。

 当然対応といえば当然なのだが、この状況にサリュースは焦りを感じていた。


(このままじゃ……成果が出せない)

 学園内にある噴水広場。学生達の疲れた心を癒す憩いの場として設けられたこの場所で1人、サリュースは噴水の水面に顔を向けて自分の顔と見つめ合っていた。

 その顔といったら酷く憔悴しているように見える。


(お母様の為にも私が成果を上げなくては)

 母は氷結の魔女。魔導師に最も近い存在として有名だ。

 なのだが、そう呼ばれ続けて15年経つ。

 15年……それは母には何かが足りず魔導師には相応しくないと言われ続けているのと同義だ。

 

 母はそんな状況に腹を立てていた。

 それもそうだろう……何度も学会に新作魔法を公表しては結果を出すことが出来ないのだから、周りから母を見る目は冷たくなるというもの。


 そんな母に追い討ちをかけるように8歳の子供が魔導師になったという。

 名をマキア・リスタルテ――【鋼鉄の魔導師】

 彼女の存在が母を狂わせた。

 周りの母を見る目を狂わせたのだ。

 子供に先を越された哀れな魔女。

 そう呼ばれているのをサリュースも耳にしたことがある。

 

 辛いものだ。自分の母が世間からそう揶揄されていることを知ったのは。

 魔導師に至る為に必要な素養は魔法技術、教え導く力、純然たる戦闘力の3つだ。

 母はこの内の2つは備ている。

 足りないのは教え導く力……。

 これは自身が育て上げた存在が世にどれだけ貢献したかによって判断される。


 だから母はサリュースに自身の開発した魔法の全てを叩き込んだのだ。

 半ば虐待めいた教えも中にはあった。

 教えを完璧にこなさなければ殴られたし、大事にしていたものは全て捨てられた。

 辛く苦しい毎日だった。

 だけどそれも母のためと思えば耐えられた。


 だけど……今回はそんな比じゃなかった。

 母から命じられたのは、学生を守れという単純な物。

 サリュースと言う母から育て導かれた存在が学生達を守ったと言う武勇があれば母は魔導師になれると考えたのだ。

 なのだが……守るための脅威は全て母が用意した存在。


 社交界でいくつかのグループが自らの立場を自慢する為の場を聞きつければその子供にサラマンダーの卵を渡すようブレイバーに仕向けたり、魔物を呼び寄せる笛をサリュースに渡して自作自演のピンチを演出するよう強要された。


 耐えられなかった。

 そんな事しなくとも自分は母の為なら実力で認めさせるだけの力があるというのに。


「どうして信じてくれないんですの…お母様……」


 気付けば言葉が出ていた。

 ハッとして周りを見渡すが誰もいないことに安堵する。

 誰も居ないのだから少しぐらい声に出して苦しみを紛らわせたくなった。


「助けて……だれか……助けて……」


 そんな時。

 広場に小さな足音が響いた。


「だれ!?」


 サリュースが顔を上げると広場に隣接する廊下から

 出てきた1人の少女が彼女の瞳に映った。

 それは自分と同じ色の学生制服に身を包んだ自同い歳とは思えないほど小さな少女。

 気弱そうで、今もビクビクしながらサリュースの元へ歩いてくるリーグレット・アイアンガルドだった。

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