第29話 集まる証拠
「そうだったんですか……サリュースさんのお母様がそんな……」
落ち着いたサリュースから聞いた話にリーグレットは考えさせられるものがあった。
自分の場合は父が背中を押してくれたから今ここに居られるのに対してサリュースはというと母の為にと利用されているこの対比がなんとも心苦しいものだと感じてしまう。
噴水の縁に腰掛けるサリュースの哀しげな表情。
どうして娘にこんな仕打ちができるのだろうか。
親であれば子供の背中を押してあげるべきなはず……。
(これが普通なの? いいや絶対にあり得ないよね)
そんな彼女に目を向けているとアナンタが「ふむ」と顎に手を当てて考え込んでいた。
「これで真犯人がアクラディーテ様だと確定したわけだが、そうなると困ったな。確たる証拠を押さえない限り捜査に踏み込ませてもらえないぞ」
「そうですね……犯人が貴族の当主となるとなんの証拠もなしに屋敷へ押しかける事が許されないですし……」
この国の法律では貴族当主を訴える為には確たる証拠を揃えた上で屋敷を押しかける必要がある。
過去に言われのない罪を貴族に来させる事案が多発した事による措置らしいのだが、それが今回は盾となってしまっているのだからなんとも言い難い。
「証拠を集めたっとしてもお母様は簡単にお認めにならないでしょう……それに恐らくお母様は……」
「まあ抵抗するだろうな。このような事件を企てるような方だ。まず間違いないだろう」
娘であるサリュースに引け目を感じている様子でアナンタがそう言った。
その点はリーグレットも危惧していて理由はさっきアナンタが言った通りのものだ。
「無理ですわ……お母様に勝てる人なんて……魔導師程の方でないと」
「そうだ……アクラディーテは現在王国で存在する魔法使いの中でも最強最高の魔女として名高い。過去には覇王龍を単独で撃破したという話まであるぐらいだからな」
覇王龍……。たしか昔何個かの国を焼いては崩壊させた巨大な黒龍の事だとリーグレットは記憶している。
そんなことを思い出しているとアナンタがチラリとリーグレットに目を向ける。
彼女はリーグレットなら……マキア・リスタルテなら倒せるのではないかと考えているのだろう。
相手は氷結の魔女と呼ばれる歴戦の魔法使いだ。
確かに魔導師であれば相手も容易いだろうが、魔導師はなに分忙しい人が多い。
(私はまあ……自由気ままなんだけど、だからってあまり戦いたくないなぁ……)
なにぶん戦闘経験が浅いのだ。
【鋼鉄の魔導師】の戦っている記録など存在しないものだからか、彼女は魔導師の中でも最弱と呼ばれ、序列も最下位として位置付けられている。
そんな事実に目を背けつつ、リーグレットは話題を逸らす事にした。
「まあ戦うかどうかは別としてまずは証拠ですね。一応手は打っていますが……」
「本当か!? なんと対応の早い……」
ガゼル達ブレイバーが何かを掴んでいればの話だが……。
そうしてリーグレット達は今場を解散することにした。
サリュースはというと、事件の共犯者であるからアナンタに生徒指導室へ誘導される運びとなった。
まだ学生達に事件の全貌を伝えるのは情報漏洩の点も鑑みて伏せておくとアナンタが言った。
リーグレットもそれには賛成だった。
ここでこちらの動きを察知されれば証拠品を破棄されるリスクがあるのだから。
噴水広場に1人残されたリーグレットは午後の講義を休む事にしてギルドへと向かう事を決めたのだった。
***
ギルドに足を運ぶとニヤニヤと笑ってテーブルで待つガゼルの姿がリーグレットの目に入った。
そんな彼の元へ向かうがバレンタインは冷ややかにガゼル睨み付けるのだった。
「その様子だと成果は出せたのでしょうか」
バレンタインはあまりギルドが好きでない様子。だからかこのように敵対心を抱くのは仕方ない事だとしても協力者なのだからもう少し優しくしてほしいとリーグレットは思う。
だがガゼルはそんなバレンタインの態度すら気に求めない様子でトントンと机をつついて彼女達に「まあ座れよ」と促した。
「それで、成果はあったんですか?」
席に座りながらリーグレットは再度問うと。
「あったりまえだろ? 俺を誰だと思ってやがる! 俺はブレイバーの中でも一番強かな男! そしてサイコォォにクールでイカしたナイスガイだぜ?」
とサムズアップを向けてくるのだが、意味が重複した言葉を並べているあたりこの男の知能レベルは猿並みだとリーグレットとバレンタインは苦笑いを浮かべた。
そんな2人の様子なぞ気にもせずガゼルは語り始める。
「お前の言った通りまあ出るわ出るわ。よくもまあ今までリリベルタが軍から目をつけられなかったか不思議なぐらいだぜ」
「勿体ぶらずに早く言いなさい」
「そう急かすなよバレンタイン。まずサラマンダーの卵についてだが、手に入れたのはアクラディーテ本人だってことが分かった。自国で手に入れていればバレずに済んだものを、あいつはユースタス連邦まで出張って手に入れたって記録が向こうの国で調べがついたぜ」
「ユースタス連邦……ですか」
王国から南、大陸を抜けた海の先にある小国だったはずだ。ガゼルの言う通り王国内であれば身分を隠し通せただろうが、外国となるとそうもいかない、なにせ法律が違うのだから。
サラマンダーの卵を持ち帰る、もしくは手に入れる為に迷宮へ向かう為の申請か何かが残っていたといった所だろう。
「それで? その書類は手に入ったんですか?」
「あたぼうよ! まあ相当苦労したみたいだがな。あとであいつに感謝しとけよ。こいつを手に入れるために1週間も治安官と親睦を深めたせいで懐がスッカラカンみたいだからな」
ガゼルは書類をテーブルに置いて後ろの席に親指を向けた。そこには大柄なスキンヘッドの男が白い歯を見せているのが見えた。
リーグレットは軽くお辞儀をしつつ後で報酬を上乗せしようと考える。
「あとは俺たちが王国国境警備隊からパクった通行名簿だな。ほれここ、ここにアクラディーテの名前があるだろ? 奴がユースタスに向かった事実がしっかり載ってる」
パクったと言った。つまりガゼル達は裏道でこの書類を手に入れた、もしくは盗んだと言うことだ。
リーグレットは今の発言に対して詮索しない事にした。
あくまで依頼主として立場をしっかりしておこうという考えた。
「そうなると、証人として国境警備隊を召還できますね。この証拠があれば嘘の証言などできようはずがございませんから」
「そう……だね。嘘なんてついたら即刻死刑だものね」
いくら名のある貴族から圧力を掛けられていたとしても死刑を前にしては正直にならざるを得ないだろう。
それ以前に、名簿にアクラディーテと記載されているあたり元より不正はしない毅然とした対応が国境警備隊から伺える。
「他にもホレホレ。こんなにあるぞ〜」
そう言ってガゼルはどこにしまっていたのか紙の束をテーブルの上に広げ始めた。
まさかこんなに収穫があるとはリーグレットも想像だにしていなかった為、「はは……」と愛想笑いを浮かべることしか出来ない。
(これは……報酬を上乗せしたほうがいいかも……)
そうしてリーグレットはガゼル達が集めた資料を片っ端から目を通していくのだった。
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