第24話 リーグレットイジメにあう
朝の学園。
次脳講義へと向かう道中の廊下にてリーグレットは歩きながらゴレムリンの首をまた右に捻り回しつつ周りに目を向ける。
昨日よりも周りの学生たちが友人たちと楽しそうに談笑していたり、恋仲だろうか、周りの目を気にせずイチャついている姿がなんだか気になり胸がズキリと痛んだ。
「はぁ」とため息が知らずのうちに漏れ出て、トボトボ歩いていると。
「リーグレット・アイアンガルド」
背後から声を掛けられリーグレットは振り返る。
そこには同学年の女学生が3人並んでいた。
絵に描いたようなご令嬢といった見た目であり、特に真ん中の人は金髪で縦ロールと一際目立っていた。
「あなた? サリュース様のなんなのです」
そんな金髪縦ロールがリーグレットにツカツカと歩み寄ってはドンと胸をつき飛ばした。
「いっ……!」
「昨日のアレ……サリュース様に取り入ろうとしたアレはなんなの?」
「昨日のアレ?」
「昼食の時の事です! あなたのせいでサリュース様が機嫌を損ねて私たちとも言葉を交わしてくれなかったじゃないの」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
突然の敵意に驚くあまり反射的に口にしたのは謝罪の言葉。顔を合わせるのも怖かったのでリーグレットは頭を下げて彼女たちの姿を見ないように努めた。
だが、そんな彼女の態度は3人の気分を逆撫でしたようで、リーグレットの髪を掴んで引き上げ――
「いたっ」
パシン!
彼女の頬を叩いた。
その衝撃に尻餅をつくリーグレット。
ヒリヒリと痛む頬を押さえつつ彼女達が迫る姿を見上げると、3人は足をあげて靴の裏をリーグレットに向けていた。
「何がごめんなさいよ。謝罪するのならそれ相応の態度ってものがあるでしょっ!」
「そうよ! あなたデリカシーに欠けるんじゃないの?」
そして3人は無防備な彼女を蹴り続ける。
リーグレットは腕で顔を守り、身を縮めて耐える。
泣きたい。逃げてしまいたい。
学園は思っていたほど華やかなものでも楽しいものでもなかった。こんな事なら復学するんじゃなかったと涙を流して後悔し始めるが。
後悔したところでこの暴力は止まってくれないだろう。
だからリーグレットはひたすらに謝り続けるのだが、そんな彼女の反応が3人の愉悦感を刺激してしまったらしい。
「はは。ははは! 気に入らない! 気に入らないわ! 田舎娘の癖に馬鹿にして!」
「真面目に課題も提出さないあなたが何故ここにいるのか! 私にも理解できませんわ!」
「ウザいのよ! 目障りなの! 勉強する気がないのなら一生家から出てこなければ良いのに!」
辛い現実に嗚咽を漏らし始めていた時だった。
廊下に男の声が響き渡ったのは。
「やめないか!」
リーグレットの肩を蹴ろうとした女学生の足が一斉に止まる。リーグレットは顔を上げると廊下の先にはバルトレーンが険しい顔をして彼女達の元へやって来た。
「彼女が何をしたっていうんだ」
バルトレーンがリーグレットと女学生の間に立って彼女達に向き合った。すると彼女達は途端ソワソワし始める。
「シュナウザー様……これは……その」
「躾です! そう躾! この生意気な女がサリュース様に生意気を働こうとするものですから躾けてあげてたまでですわ」
「躾……へぇ。この国の貴族は暴力で人を躾ける風習があるって事かい?」
「い、いえ……それは……」
バルトレーンの言葉に躾と言い張った女学生の顔が引き攣った。
そんな彼女に一歩距離を詰めたバルトレーンは続ける。
「そんな野蛮な国だとは思わなかったなぁ。へぇ躾ねぇ……本国に帰った時にそういう風習があるみたいだということを報告しないとだ」
「そ、それは!」
「なんだい? 違いのかい? ならなぜ彼女に手を上げていたのかな?」
詰め寄るバルトレーンに彼女達は後ずさる。
帝国からの留学生という立場上、ここで得た学びを母国へ報告する義務があるのだろう。
今の一幕も学びと称して本国へ報告した暁には王国は暴力で人を教育する風習が今もある野蛮な国として認識されてしまうはず。そしてそれは彼女達も周知しているようであった。
であればこの状況を知った教師陣は彼女達をタダでは済まさないだろう。
「ん? どうしたの? 何か言わないと」
「こ、これは躾じゃなくて……」
「躾じゃなくて?」
「私たちのただの暴力です!」
そう言い残して彼女達はリーグレットの前から走り去った。
そんな後ろ姿をバルトレーンはやれやれと肩をすくめながら眺めてへたり込むリーグレットに手を差し伸ばす。
「大丈夫かい? 君も君だよ。なんでやり返さないのさ」
「あまりに急な事だったから動転してな……ありがとう」
そのお手を取り立ち上がる。
パンパンと服についた埃を払うと、バルトレーンがハンカチを手渡してきた。
「君も女の子なんだから体には気をつけないと」
リーグレットは立たされると今度は顔をハンカチで拭われた。
されるがままに頬を拭かれた彼女はバルトレーンのお手を払いのける。
あまり顔を見られては涙に気づかれると思ったからだ。
「も、もう大丈夫です!」
「はいはい。にしても君は随分と嫌われてるみたいだね〜。サリュースさんになにかしたのかい」
「ただお話をしただけです……」
「ふ〜ん。ただそれだけでねぇ」
「…………」
彼女は嘘ではないと目で訴えた。
そんな意思を宿した彼女の目を見たバルトレーンは「落ち着いて」と手で収める。
「分かってるよ。まあここ最近のサリュースさん周りはいい話を聞かないからね。君の話を疑いはしないよ」
「どういう……ことですか?」
リーグレットは高速で涙を袖で拭いバルトレーンに顔と向き合った。
「事件から日が経つにつれて、彼女の評価が鰻登りなんだよ。真の貴族は彼女のことを言うんだ〜とか、彼女に話しかけるためには相応の実力が必要だとかね」
「そ、それは凄いですね……」
そんな彼女に食事の席を一緒にしようとしたのなら、確かに彼女達からすれば鬱陶しい存在に違いないとリーグレットは考えた。
バルトレーンが思い出したようにリーグレットに顔を向けて言った。
「リーグレットさん次の講義は?」
「あっ!」
近くの時計に目を向けると開講まで残り2分を切っていた。リーグレットは急ぎ講義の開かれるグラウンドへ駆け出す。
「すみません! 急ぎますのでこれで!」
「うん、またね。リーグレットさん」
バルトレーンを置いて駆け出したリーグレットは走りながら眉を顰める。
(バルトレーンさん、なんでこんな所に?)
助けに来るタイミングも良かった、もしかしたら見張られていたのかもしれない……と思いつつも今はそんなことより講義への遅刻が優先され彼女はひたすら走るのだった。
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