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第23話 1人でも楽しいもん

「で? どうしてあなたが私と食事を一緒にする事になりましたの?」


 学生食堂の真ん中の大きなテーブル席。

 リーグレットの目の前でプンスカ怒っているのはサリュースだ。

 

 なぜ怒っているかといえば彼女の昼食の席にリーグレットが無断で一緒したからだろう。

 そんな彼女をまるで邪魔者のように見てくる周りの学生たちにリーグレットの心臓の鼓動は早まるばかりだった。


「ダメ……ですか? わ、私どうしても……サリュースさんとお友達になりたくて……。それにサラマンダーを一緒に倒した仲じゃ……ないですか」


 最後の方はゴモゴモと発してしまったが、その言葉をサリュースが聞いた瞬間、彼女の目の色が変わった。

 

「ふざけないで下さい! 前にも言いましたけど、別にあなたがいなくても私1人でなんとかなったのです!」

「ひっ、ひぅ!」


 リーグレットの小さな悲鳴。

 何か地雷を踏んだのだろうか? サリュースはリーグレットに激しく言葉を浴びせかけるが、怯えて動かない彼女に息を切らしながらも我に返り、サリュースは席から立ち上がった。

 

「もういいです、失礼しますわ。行きましょう皆さん」


 サリュースは友人と一緒にリーグレットの前から去っていった。

 彼女の友人がリーグレットに振り返りあっかんべーと舌を出してくる。

 

 相当邪魔者……いや嫌われてしまているようだ。

 そんなポツンと残されたリーグレットだけになったテーブルに注文しておいたステーキが運ばれてきた。

 

 焼きたて熱々の塊肉をフォークで突き刺し塊ごと齧り付くと肉汁が溢れて口の周りを盛大に汚してしまう。

 咀嚼しながらリーグレットはポケットからゴレムリンを取り出し電源を入れ、廊下を右手に向かったサリュースに目を向ける。


 目的は達成された。

 リーグレットがサリュースに近づいたのは小型魔装具を彼女に取り付けるためだった。

 

 接近して彼女の体に粘着する小型魔道具を問題なく彼女の制服に取り付けることができたのだが。

 あわよくばお話がしたいな〜と期待もしていたのも事実。まあこの通り残念な結果に終わったのだが……。

 

 はぁと息を吐いてゴレムリンの首を捻りると目の部分が淡く光を放ち始めるのだった。


 ***


 今日の講義が全て終了した今、リーグレットは寮の自室でゴルディアスの改良作業に取り掛かっていた。

 そんな彼女をバレンタインは呆れた様子で見て言った。


「お嬢様、そうやってまた機械弄りばかりして……せっかくの学生なのですからご学友の1人でも作りませんと」

「分かってるよ……でも無理。私何もしてないのになんでか嫌われてるんだもん……私にはやっぱりゴルディアスしか理解してくれる人いないんだよ……」


 ゴーグル越しに輝いて見えるゴルディアスの装甲がリーグレットに語りかけてくるようだった。

 『リーグレットのことを僕は1番理解しているよ?』と。


「ゴルディアス〜大好き〜」


 抱きついて頬をすりすりしていると、バレンタインはドン引きしたようにリーグレットに軽蔑の眼差しを向けた。


「うわぁ……このお嬢様、とうと頭のネジが吹っ飛んで1人で会話し始めたよ……きしょ……」

「きしょいは酷いよ……」


 酷いが、この学園に来てからというもの暴言の類にはそれなりに耐性がついて来たように思える。

 バレンタインのお小言を受け流しつつリーグレットは作業に戻る。

 工具で装甲の損傷を整え屋敷から持ち込んだ鉱石で補強していくと、バレンタインは話し続ける。


「ですがお嬢様……このままお一人ですと婚約者の1人目 も捕まえられないまま卒業を迎えてしまいますよ? それではお父上が悲しみになられるじゃないですか」

「婚約者なんて先の話でしょ? まずは友人ってバレンタインも言ったじゃない」

「確かに言いましたが、学園に通う以上は婚約者も見つけて頂かないと……あなたはリスタルテ家の令嬢なのですよ? 学生の期間は婚約者を見つける期間でもあるというのに……それが2年しかないのですよ? 良いのですか?」

「う、うるさい! 私には無理ったら無理なの〜!」


 ドリルを手に取り電源を入れてバレンタインの声を鉄を削る音で掻き消そうとした。


「私は……後悔してほしくないのですよ……お嬢様に」

「え……なんて?」

「いいえ。これは独り言です。出過ぎた発言をお許し下さい」


 ドリルの音でよく聞こえなかったが、なにやら言葉を漏らしたバレンタインの表情が悲しげに見える。

 

 学園ってなに。婚約がなに。

(私は自由に生きたいだけだと言うのに……。こんな事なら貴族の子に生まれたくなかった。平民のようになんの責任もないまま自由に仕事が選べる人生を送りたかった)

 

 貴族の女に生まれた故になぜこうも縛り付けられなければいけないのかとリーグレットの胸の中でモヤモヤする気持ちを鉄を削る音で誤魔化そうと努め始める。

 そんな彼女からバレンタインは背中を向けて部屋の扉に手をかける。


「はぁ。では私はご夕食の支度に向かいますのでそれでは……」


 ガチャンと扉の閉まる音……。

 バレンタインが夕食の準備に向かったのを振り返り完全に出て行ったことを確認したリーグレットは手を止めてゴルディアスに向き合う。


「ねえゴルディアス……私は間違ってるのかな? 貴族として、いや1人の人間としておかしいのかな?」


 だがゴルディアスは返事を返してくれない。

 その鋼鉄の友達はただ静かに佇んでいた。

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