第22話 疑問から不審へ
その後もリーグレットはバルトレーンとホールの焼け跡を捜索するもこれと言った手がかりはやはり出てこない。
なにせあの時はエーテルフルバスターでほとんど破壊し尽くしたのだから。
こんな事になるならもう少し加減して倒せば良かったとリーグレットは後悔が絶えなかった。
歩けど歩けど砕けた瓦礫にホールに置かれていたはずの溶けた装飾のばかり、中には完全に形を失ってはおらず磨けばまだ使えるぐらいの物もあった。
リーグレットはそんな装飾を見つめては眉を顰めた。
なんだか引っかかるのだ。
サリュースが魔法で相殺してくれたのだから当たり前の結果なのだが、さっき聞いたバルトレーンの話の所為で、頭の中で目の前の光景を異常だと突きつけてくる。
そんな装飾を眺めている時だった。
バルトレーンがリーグレットの真剣な様子に気付き彼女の背後から装飾を見つめだす。
「どうしたんだい? 何か見つけたとか?」
「いや……特に何も……でもこれ、綺麗に残ったものがたくさんあるな〜と見ていたんです」
バルトレーンにリーグレットは近くに落ちていた綺麗目な食器を拾い上げて見せた。
それを「ん〜?」と見つめるバルトレーン。
「確かに綺麗だねそれが?」
「おかしくないですか? さっきバルトレーンさんから聞いた話を加味して考えると、いくらサリュースさんが魔法が得意だとしてもここまで被害が抑えられるでしょうか?」
「うーん。確かにね。もう少し荒れてても良いはずだけど……もしかして何かに気づいた?」
「……いえ。これは私の想像なので……」
(サリュースさんが取ったあの時の動きは完璧だった)
サラマンダーの魔力を察知して、私のような馬鹿者まで逃がそうとしてくれた。
そして迷いなく水魔法の完全詠唱まで……。
(いいや。これは完璧なんかじゃない。完璧すぎるんだ)
これはまるで――
「まるで最初から何が起こるか分かっていたかのような……」
「へぇ……なかなか興味深いね」
バルトレーンの声にリーグレットはハッとした。
つい思った事が口に漏れていたことに驚いたのだ。
「ち、違うんです! わ、私は少しおかしいと思っただけで別にサリュースさんが犯人だと言ったわけでは――」
必死の弁明。だがバルトレーンは真剣な顔のままリーグレットに返す。
「でもそう感じ取れたって事は少なからず可能性はあるってことだろ?」
「……はい……」
冷静に返されてしまうと、リーグレットはそう頷くことしか出来なかった。
なぜならその可能性の方が高いからだ。
どう考えても完璧としかいえないのだ。
それのどこが問題かとえば問題などないのだが、その問題のなさが逆に異質に見えてくる。
サリュースは魔法師団でもなければ王国軍にもなっていないまだまだ未熟な学生の身だ。
いくら天才だとしてもミスのいくつかは出てきてもおかしくはない。
なにせ唐突な事件だったのだから……。
「……帰ります……」
「帰るって、もう良いのかい?」
バルトレーンを置いてリーグレットは寮へ向かって歩き出した。
「はい。もうここで知るべき事は全て知り尽くしました。すみません……また」
「あ、ああ、うん。またね……」
トボトボと歩くリーグレット。
その小さな背中をバルトレーンは小さく手を振って見送るのだった。
***
焼け跡から出たリーグレットが向かった先はブレイバーズギルドだ。
周りのチンピラ連中が彼女を見ては菓子を手渡そうとしていたが、考えることに集中していて彼らの好意に気づけなかった。
そんなギルドの中にリーグレットは入り、酒場に目を移すと空になったジョッキをテーブルの上に大量に転がして突っ伏しているガゼルを見つける事ができた。
リーグレットはそんなガゼルの背中を揺さぶる。
「ガゼルさん」
「あ、あぁん? んだよ。マッキーじゃないの。情報か? 無い無い。これと言った収穫はありませんぜ〜ヒック」
マッキー――ガゼルがリーグレットを呼ぶ時に使うニックネームだ。
元のマキアをいじってマッキーというわけだ。
そんなガゼルの口からとんでもない酒の匂いがリーグレットの鼻を刺激し、自然と指で鼻を摘んでいた。
(くさい……)
相当飲んでいることが分かる。
にしてもここまで投げやりな態度から察するに、予想通り成果はイマイチのようだ。
「その様子だとなにも見つからなかったんですね」
「え〜。そうですよ〜。俺とあろうものがたった1人の不審者を捕まえることも目撃情報も手に入れることができなかったんだからなぁ。これが飲まずにいられるかって話さ」
「す、すみません……」
難しい案件を依頼してしまったことについ謝ってしまうが、ガゼルは「なんでお前が謝るんだよ。ばーか」と突っ伏したまま手を振って言った。
リーグレットは彼の前の席に座り、店員にミルクを一つ注文した。
と同時、ガゼルは「ばっきゃろ〜!」と拳を頭上に振り上げた。
「諦められねぇよなぁ。せっかくのボーナスが転がり込んできたんだぞ〜? そうそう諦めてたまるかってんだ」
「やる気はまだあるみたいですね……ならガゼルさんにお願いしたい事があるんですが……」
「あぁん?」
ゴトッと店員が運んで置かれたミルクの入ったジョッキを掴み、ミルクを喉に流し込んだリーグレットはガゼルに言った。
「リリベルタ家について調べてくれませんか? エインズワース家との間柄、家族関係、それと娘サリュース・リリベルタについて全部……」
「ほう?」
ガゼルが真っ赤な顔を上げ、頬杖をついた。
「それはどういうこった? リリベルタって言ったらあの事件の英雄様じゃないの、なにお前? 同級生を疑ってんの?」
「今はなんとも……ですが私の予想が正しければ……」
「ふぅん……金……」
リーグレットはため息をこぼしつつ懐に入っていた小袋をテーブルの上に置いた。
「ここに銀貨60枚入ってます。足りますよね?」
「へっへっへ。毎度あり。んじゃ俺はそのお嬢様について調べりゃ良いってことだな?」
「はい。お願いしますね」
お願いしたリーグレットの顔は浮かないものだった。
彼女は信じたいのだ。
サリュース・リリベルタという少女を。
あの高潔で、魔法に対して真剣な学生を。
だが同時に状況が彼女を犯人であると示している点がいくつか見受けられるもの事実。
だからこれは答え合わせだ。
彼女が犯人であるか、もしくはリリベルタ家が悪事に手を染めているか。そのどちらかの。
(その為にも最後にやっておかなきゃいけない事が1つあるんだよね……)
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