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第21話 リーグレットの疑問

「そういえばですけど、バルトレーンさんは……わ、私になにか用があって声を掛けたんですか?」

「ん? どうしてだい?」

「だって、前に私が事件を調べないからって嫌いになったんじゃ――」


 おずおずと視線だけでバルトレーンの姿を捉えながらリーグレットは聞いてみた。

 

「嫌い? そんなわけないじゃないか。考えすぎだよリーグレットさん」

「か、考えすぎ……ですか?」


 あっけらかんとバルトレーンから答えられリーグレットは困惑する。

 以前最後に見た彼の顔は呆れ……軽蔑を含んでいたように思えたのだが、気のせいだったのだろうか。

 もしかすると人慣れしていない所為で彼の顔がそう見えただけなのかもしれないとリーグレットは少しだけ安心した。

 

「それに聞いたよ聞いたよ〜。どうやら君、事件について調べ始めたらしいじゃないの」

「それをどこで……?」


 どこで聞いたのやら、自分の行動を監視されてるようで少し怖くなってきたリーグレットは訝しげにバルトレーンを見つめたが、バルトレーンときたら「まあそんな事どうでも良いじゃないの」と手を振って誤魔化した。

 

「そんなに気になって仕方ないのなら僕にも秘密の情報屋がついてるってだけ言っておこうかな」

「じょ、情報屋……ですか? それは帝国軍的な……あれですか?」

 

 帝国は巨大軍事国家だ。

 噂では群の中に最新鋭魔装具を装備した兵士も存在しているとリーグレットは聞いた事があるが――

(一般生徒の私を監視するほど軍も暇じゃないよね……考えすぎかな?)

 とすぐに思い違いだとリーグレットは考えた。

 ふと気になってリーグレットはバルトレーンの周りに目を映す。

 

「そういえばボルクさんは?」

「ん? ボルクかい? 残念だけど学校から出入り禁止が出されてね。君のとこの従者と同じさ」

「ってことはあの人は留学生じゃなかったんですね」

「まあね。留学生をそうポンポンと受け入れてくれるほどこの学校も懐は深くないてことかな? まあ友好を結んだとは言え他国の存在だしね。仕方ないでしょ」

「それも……そうですね」


 帝国と王国は何十年か前に友好条約を結んだ同盟国ではある。

 以前は戦争をしあうなど仲の悪さが目立っていたが、今ではこうして留学生を受け入れるぐらいまでに回復している現状。

 

 そうだとしてもこの学校は王国の未来の交換を育てるための機関なのだから誰彼構わず留学生を受け入れれば機密情報まで知られ尽くしてしまうというもの。

(それに今は警戒体制だもんね)


「こんな状況でも登校できるバルトレーンさんは余程学園から信頼されてるんですね」

「近からず遠からずとだけ答えておくよ。で? 事件の捜査はどうだい? 順調かな?」

「それが……あまり良くはなくて……。一応知り合いを頼って外から調べてみてはいるんですけど……」


 リーグレットは首を振って答えた。

 これがなかなか芳しくないのだ。

 ガゼル達ブレイバーを頼って、サラマンダーの卵を譲渡した不審者の捜索に当たってもらっているのだが、経過の報告が一切リーグレットに入ってこない。

 つまりまだ話せる情報が何一つないという事。


 ブレイバーは王国軍と違って裏の世界ともコネクションを持つ人材が豊富だと聞く。

 綺麗な仕事から汚い仕事までなんでもこん明日職業上、この手の調査にはうってつけだ。

 なのだが、そんな彼が手こずるほどの相手。

 それが今回の首謀者だということだろう。


「そうかい。なら君はこれからどうするつもりなのかな?」

「そうですね……事件の鍵は現場にあると推理小説でも言っていますし。ここは一度ホール跡地へ向かうのもアリかと思った所ですが……」

「うんうん。良いんじゃないかな? じゃあ行こっか」

「そうですね……ってバルトレーンさんも着いてくるんですか!?」

「え? ダメかな?」

「い、いやダメってことはないです、けど……」


 目をキラキラさせてくるバルトレーンにリーグレットは後ずさる。

 変に期待させてガッカリされても困ると正直に答えるべきだろうか。

 

 だがこのバルトレーンの笑顔……。断られるとは一切考えていないように見える。

 それにあの焼け跡から手がかりを探すとなると人では少しでも多い方がいい。

 

(頼っても……いいのかな)

 友達でもないのに……。そう一抹の不安を抱えながらリーグレットはバルトレーンに言った。

 

「わ、分かり、ました。そのかわり……手伝ってもらっても――」

「うんうん。もちろん了解だよ。僕は君のそんな姿が見たくてついていくんだからね」


 なんとも怪しい笑顔を向けられながらリーグレットは思い息を吐きつつ彼と共に事件の現場――社交界ホール跡地へと向かうのだった。


 ***


 ホール跡地。

 警備隊の現場検証も終わった後も、黄色い立ち入り禁止のテープだけが貼られたこの場所は事件当時のまま残されていた。

 

 恐らく解決まではこのままにされるのだろう。

 焼け尽きた瓦礫に、煌びやかであったはずの装飾は煤に塗れて事件の被害を残酷に物語っている。

 

 そんな場所にリーグレットとバルトレーンは足を踏み入れるとジャリッと煤と瓦礫と砂利の感触が足の裏に伝わってくるのだった。


「ここが事件の現場か……サラマンダーの炎は国を一つ焼き尽くすほどだって聞いたことはあるけど……」

「今回出現したのが生まれたてのサラマンダーだったから……この程度で済んだんでしょうね」


 あとはサリュースの活躍があってこそだろう。

 彼女があの場に居なければ被害はもっと出ていたはずだとリーグレットは考えた。

 

「それはそうだろうね。にしてもここまで焼き尽くせる炎か……サリュースさんは相当すごい魔法を使って押さえ込んでたんだろうね」

「確か……タイダルウェイブと言ってましたね」


 リーグレットは基本魔法の大半を記憶しているが彼女の扱うタイダルウェイブはあの場で初めて見るものであった。

 

「タイダルウェイブね。それはまた準備に時間のかかりそうな魔法だ」


 だがバルトレーンは知っていたようで顎に手を置き考え込む。

 

「へ? 準備に時間がかかる?」

「おや? 君でも知らないことがあったんだね」


(君でもって……バルトレーンさんは私の何を知ってるっていうのかな? 私はただの生徒なのに……)


「タイダルウェイブは最近開発された水属性最高位の魔法の一つだよ。現代でも完全詠唱でしか発動できないとされるものだ。へぇ……サリュースさんがそんな魔法をねぇ」

「凄かったですよ。手から水がブワーって出てホールが海みたいになって! でもサラマンダーの炎は消せなかったですけど……」

「へぇ〜。それは僕も見てみたかったなぁ」


 少しガッカリした様子のバルトレーン。

 そんな彼は「あれ?」と唐突に首を傾げだした。 


「サリュースさんは迷いなくタイダルウェイブを使ったんだよね?」

「はい……そうですけど……」

「いきなり現れたサラマンダーなんて、どれぐらいの水魔法で対応すればいいのかなんて分からないはずだよ? しかも魔力消費が激しい水属性上位魔法を迷いなく……しかも完全詠唱ができるだけの胆力があるだなんて……」

「ん? 普通はできないんですか?」


 リーグレットは魔法が使えない故に感覚的な事は理解できていない。頭の中にあるのは公式と可能か不可能かだけだ……故にバルトレーンに聞いた。

 

「出来ないというよりは慣れてないとできなよねって話。例えばいきなり正体不明の敵が現れたとして、君はそいつの弱点を正確に捉えて、どれぐらいの魔法で対応すればいいのかを迷いなく、しかも正確に対処できるかい?」

「そう言われると……難しいかもです」


(私なら怖くて数秒は固まっちゃうかも……それにそんなすぐに完璧な答えなんて出せないよ……せめて3秒ぐらいあればいけるけど)

 ギルドの高ランクブレイバーなら経験も豊富な分可能だろうが、学生の身では確実に不可能だろう。


「それをサリュースさんはやってのけたってわけだよ」


 バルトレーンは興味深いと笑ってそう呟いた。

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