第19話 頼れる男? ガゼルさん
「うげぇ。久々に客かと思ったらお前かよ……」
ギルドの中のある酒場でリーグレットとバレンタインはガゼルと向かい合って座っていた。
このガゼルという男……リーグレットの正体を知る数少ない知り合いの1人。
そんな彼はリーグレットの顔を見るなりげんなりした顔を浮かべてはジョッキに入った酒を喉に流し込む。
「悪いですか?」
「悪いですか? じゃねぇんだよ。お前の依頼は確かに金払いは良い。十分以上だ。だ・け・ど! 内容がどれもイカれてんだよ!」
机を激しく叩いて怒鳴り散らかすガゼルにリーグレットは耳を塞ぎ「はい?」と返すと「お前まじか」とガゼルは顔を引き攣らせた。
「俺Cランク。お前の出す依頼の魔物全部BからAランク。お前、俺を何だと思ってんの? 無敵だと思ってんの? ねぇ?」
「でも全部達成してますよね? ならガゼルさんは無敵じゃ――」
「無敵じゃねぇわ! 生き残るために俺がどれだけ苦労したかわかってんのか? 魔物の弱点の見極めに消耗品の補充! Cランクの許容を遥かに超えてんだよ! えぇ!?」
「へぇ〜すごいですね。あっ店員さん。ミルクをください」
「はい〜」
ガゼルの苦労など露知らず、リーグレットは側を通りかかった店員に注文し始めた。
そんなリーグレットにガゼルは困惑してしまう。
「えー……」
リーグレットの中ではこうだ。
私、依頼人。ガゼル、ブレイバー。
その道のプロがどんなことをしているかなんて客には関係のない話だ。
そんな彼女が気にするべき点は達成か不達成かだけであって家庭に一切興味などない。
「お前とは何年もの付き合いだが、そこまで無関心だとは思いもしなかったぜ。まあいいがよ。で? 今日は何を取って来いってんだ?」
「違うよ? 今回は調べて欲しい事があるの」
「調べて欲しいことだ?」
ジョッキを煽るガゼル。
その表情はどこかホッとしたようだ。
それもそうだろう。今この場でリーグレットから無理難題を言われずに済んだのだから。
ガゼルはジョッキを机に置いて話を聞こうと真剣な顔をリーグレットに向けた。
貴族絡みの厄介ごとに巻き込まれる可能性が高く、ギルドでは貴族の話は受けない方がいいと言われているが、それはガゼル達ブレイバーを底辺職として見られているからだろう。
ブレイバーの大半はどうしようもない馬鹿なのは事実であり故に舐められているのは仕方のない事。
だがそんなブレイバーにだって仕事を選ぶ自由はある。
金を何かと誤魔化して払わない貴族の仕事を受けるかと言われればまず受けない。
それがギルドの常識だ。だがリーグレットはしっかり金を払うし、ブレイバーを敬ってくれるからブレイバー間でも彼女の来訪は大歓迎というわけだ。
「その話か、確か学園でサラマンダーが放たれた事件だろ? 前に警備隊がここまで来やがったからな。その時にも話したが俺は何も知らんぞ」
「ガゼルさんでも?」
「俺を情報屋かなにかと勘違いしてんのか? まあ俺はこの街にそれなりに長く居着いてるからな。噂話やら一見さんについては少しばかり覚えがあるんだが……そのサラマンダーの卵を持ち込んだ不審者は話で聞いただけで正体までは本当に知らねぇ」
「男の人か女の人ぐらいは分からないの?」
「って言われてもなぁ。いや……そう言えば……」
「やっぱり……知ってるじゃない……」
考え出したガゼルにリーグレットは小さく期待を寄せていると、彼は思い出したように語り始める。
「そうだそうだ。そのサラマンダーの卵を受け渡す現場を見た奴がいたんだったか。そいつが言うには……女らしいとかなんとか……」
「ハッキリしないね」
「仕方ないだろ直接見たわけじゃないんだし。背丈と体の幅からして女だってぐらいだとよ。まあガキなら男でもありえるかもしれんが」
「それ……どっちでも見れるって事じゃ――」
「だから言ったろ? なにもしらねぇって」
となれば無駄足だったかとリーグレットは肩を落とした。
(ガゼルさんなら何か知ってると思ったのに)
「てかよ? なんでお前までそいつを探してんだ? 警備隊に任せりゃいい話なのに」
「知り合いがね……警備隊にいるの。今回の事件の犯人を捕まえないと責任を問われるって……」
「そうかい。そいつは世知辛いねぇ」
とガゼルは酒を一気に流し込み、最後の一滴を舌に落としてジョッキを叩きつけた。
「酒が切れちまったな……」
「お、お前! お嬢様が真面目に話をしてると言うのに――」
バレンタインがガゼルの態度に苛立ち立ち上がったのをリーグレットは「バレンタイン待って」と手で止める。
「お嬢様!?」
「ガゼルさん。お酒をいっぱい飲めるお金……欲しくないですか?」
「ほう……」
リーグレットの提案にニヤリと微笑むガゼル。
「あなたが事件の調査に協力してくれるなら今ここでボトル一本を奢ります。もし協力して解決に貢献してくれたらその時は――」
「乗った!」
「って……私まだ言い終えてないんだけど……」
報酬を告げる前に即答され、リーグレットは折角整えたキメ顔が崩れてしまった。
「報酬ならいつも通りでかまわねぇよ。それにお前は払いがいい。ここに居る奴らも全員お前の話なら首の骨が曲がるぐらいに頷いてくれるだろうぜ。なあ?」
「「「おうよ!」」」
話を盗み聞きしていたのだろう、酒場に入り浸るブレイバーの面々がガゼルの言葉にジョッキを掲げて答えた。
「わ、私の話ならって……大袈裟な」
「それだけお前は信用されてるってこった。で? 受けるのは俺だけで本当にいいか?」
周りのブレイバーの目が期待に満ちてリーグレットに視線を飛ばしている。
誰もが「俺にもたからせろ」と必死な様子であった。
リーグレットは考える。
(事件の捜査には人手が必要……だよね)
であれば人数を確保できるこの状況はありがたい。
そんな考え込むリーグレットにバレンタインが耳打ちする。
「お嬢様大丈夫なんですか? お金は……旦那様から持たされたお金はそう多くないでしょう」
確かに父から受け取った金額は少ない。
だが支払いなぞさほど問題でもないのだ。
「そっか。バレンタインは知らないんだったね」
「な、なにを……」
「ほら私、一応魔導師でしょ?」
「ええ。ですがそれが?」
魔導師はその地位故に魔法使いを教え導く役目が与えられている。
リーグレット以外の4人の魔導師は学校を開いていたり、弟子を取っていたりと様々だ。
なら彼女はどうなのか。
彼女はまだ子供で最近まで屋敷に引きこもっていた孤独な人間である。
弟子やら学校を開いているといった事実はない。
ないのだが……彼女には彼女にしか出来ない魔の導き方が存在する。それは――
「私、魔装具の特許で稼いでるからお父様よりお金あるんだよ?」
「なっ!?」
リーグレットは発明した魔装具を世に出す事で人々を導いているのだ。そこで得た多額の売り上げ。
これは父にも話していない事実だ。
それも仕方のない話。自分の子供に資産を超えられる親などこの貴族社会から見れば良い印象を与えないからだ。
子供の利益で楽する親。
向上心のない貴族。
虐待親。
などなど言われたいっ放題になるのがこの社会。
だからリーグレットは内緒にしていた。
彼女とて、稼ぐ為に特許を取っているわけではない。
魔導師は自身の研究成果を学会に提出しなければならないのだが、リーグレットはゴーレムの開発過程を提出している。その中身……いわばパーツである。
それを見た学会の人間が提案してくるのだ。
「特許を申請しませんか!? これは世の役に立ちます!」と……。
「だからお金は問題ないんだよ」
「そうですか……なら私からは何もいうことはありません……」
内緒話を見ていたガゼルは「済んだか?」と聞いた。
リーグレットは頷き店員を呼びつけ指を1本立てて注文する。
「すみません。ここにいる全員にお酒を1杯出してください」
その言葉を聞いたガゼルを始めとしたブレイバー全員が歓喜に湧いた。
「おっしゃ! これで当分の酒代は問題ねぇ!」
「嬢ちゃんの支払いはマジで多いからなぁ。いわばこれはボーナスだぜ、ボーナス!」
「み、みんな……」
まさかこれ程まで自分の存在が喜ばれるものとは思わず固まってしまうリーグレット。
そんな彼女にガゼルはそれは悪そうな笑みを浮かべて告げた。
「交渉成立だ。さあ何をすればいい? 鋼鉄の魔導師さんよ」
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