第18話 リーグレットとブレイバーズギルド
グラハムの話によれば故トロン・エインズワースはブレイバーズギルドに珍しい魔物の素材、もしくは副産物の納品を数日前に依頼に出していたらしい。
それが社交界に持参するための依頼だという事は言わずもがな理解出来る。
そんな中、あるブレイバーがその依頼を受けようとしていた所に黒ずくめのフードで顔を隠した人物にサラマンダーの卵を手渡されたとのことだ。
そこからは話は単純で、受け取ったブレイバーがエインズワース家にサラマンダーの卵をそのまま納品したというわけだ。
もちろんグラハムはその謎の人物についても捜査をしたようだが、ブレイバー連中はその人物を知らないと首を振ったり、なんだったら受付もサラマンダー討伐の依頼を出していないと答える始末。
つまりギルド外の人物がサラマンダーの棲家へ向かい卵を回収して来たということ。
かなりの手練れだ。そんな腕の持ち主であるというのにこんなまどろっこしいやり口で殺害したとなると事件は、より理解できないものになる。
そんな事件を警備隊が解決するには荷が重いと思うのだが、事が学校の敷地内で起こってしまったので、外部のギルドに頼むわけにはいかない。
王国軍に頼もうにも警備隊自体が王国軍の一部だからかプライドが許さず自分たちで解決しろとのことらしい。
そして万が一解決できなかった時は警備隊の練度の低さを重く見て罪人送りと言われてしまったという……。
どうりで警備隊のみんなが目を真っ黒にしていたというわけだ。
「どうしろってんだ……俺たちは護衛技術やら捕縛術には自信あるが捜査技術なんて全く備わってないんだぞ……あーおしまいだぁ。俺たち全員おしまいだぁ」
グラハムの弱音にリーグレットは胸がキュッと締め付けられる。
彼にも守るべき部下がいて、家庭もあるだろう。
これは貴族を狙った殺人事件ではあるが、このままではグラハム達が不憫でならないとリーグレットは思った。
(力に……なるべきかな)
「良かったら私も手伝いましょうか?」
気付けばリーグレットはそう言ってしまっていた。
しまった! と急いでリーグレットは口を手で覆うが……諦めて手を離した。
「お前がか?」
グラハムの訝しげな目には信用がないと言った色を感じ取れた。
なにせ提案してきたのは捜査のプロではなくただの学生……それに彼からすればリーグレットは不良なのだからそういった目を向けるのも無理はない。
「わ、私の知り合いに1人だけ……ブレイバーの人がいるんです……その人はかなり古株でして……もしかするとなにか知ってるかも……」
「本当か!?」
バッと立ち上がったグラハムがリーグレットの肩を掴んでブンブン揺さぶった。
(う、うへぇ〜。目が回るよ〜)
目をグワングワンさせたリーグレットにグラハムはようやく気付き手を離した。
「おっと、すまんすまん。願ったり叶ったりな話だったもんでな」
解放されたリーグレットは乱れた髪を少し整える。
「気にしないでください。それにこの問題は学生である私にも関係してますので……」
「ありがとう……ありがとう。これまでお前のことイカれた女だとばかり思っていたが、こんなに良い奴だったんだなぁ」
「……ん? 今なんて?」
「気にするなよリーグレット! お前は最高の女だぜ!」
(なにかすごく失礼な事を言われたような気がする……)
***
リーグレットはグラハムと別れ、王都内にあるブレイバーズギルドへと向かっていた。
ブレイバーズギルドは王都の西側外壁近くにかまえられているのだが、まあ西側は治安が悪いのなんの。
スラム街が近くにあるからだろうが、それにしてもこの辺りはヒャッハー系な人種が多く目立つ。
そんな場所にお嬢様を1人で向かわせるわけには行かないとバレンタインも付き添ってはくれていたが……。
「あぁん!?」
「ひっひぃ!」
とナイフを舌舐めずりする大柄なモヒカンに一瞥されてはリーグレットの後ろに隠れている。
「バレンタイン……なんで私を盾にするの?」
「だ、だだだだって! っていうかお嬢様は怖くないのですか?」
「うん。慣れてるからね」
気弱なリーグレットがこの辺りの人物に慣れているのには理由がある。
それは彼女がゴーレムを作るために家族に内密で何度かこのギルドへ足を運んでいたからだ。
理由は単純で、素材集め……その大半をブレイバーに依頼しているのだが、何度か足を運ぶうちに向こう側もリーグレットを認知してくれたようだった。
確かにブレイバーはガラが悪いが、ただそれだけだ。
きっとそれは職業柄高圧的にならなければいけない場面が多いからだろう、いわゆる職業病というやつだ。
ある程度交流を深めたリーグレットは、彼らからお菓子を受け取ったり、素材について話が出来るほどには気軽な存在となっていた。
「慣れてるって……なんでこんなに恐ろしい人がたくさんの場所に――」
「んだとゴラァ!?」
「ひゃあ!!」
唐突にこだました野太い怒り声にバレンタインは完全に萎縮してしまった。
だがこの声はどうやら彼に向けられたものではないようだ。
道の先、目の前にある大きな建物――ブレイバーズギルドの中から発せられた声のようだ。
そんな声と共になにやら歓喜の声までも湧き上がっている様子。
「か、帰りましょう……お嬢様……」
バレンタインがリーグレットの腕を引いた。
彼は完全にこの場所が苦手と認識したようだ。
「なに言ってるの? ここにはやるべき事があってきたんだから行かなくちゃ。怖いならここで待ってていいよ」
と言ってリーグレットは怯えるバレンタインを置いてギルドの中へ入って行く。
残されたバレンタインは辺りをキョロキョロと見渡すが、そこにはナイフを舐めてはニヤニヤと笑う狂人に、タバコをふかした集団がジロジロと彼を見ていた。
バレンタインの身なりがいいのだ。
この辺りの彼らからすればスリの標的でもある。
そんな彼らを見たバレンタインは背筋がゾゾゾと震え駆け出した。
「お、お嬢様……ま、待ってください!」
バレンタインがリーグレットに追いつくとリーグレットは半開きの扉を潜る。
中でどうやら喧嘩が起こっているらしく、周りのチンピラどもが酒を片手に大いに盛り上がっていた。
すごい人混みで奥で誰と誰が喧嘩をしているかわからない。
だが、目的は喧嘩ではない。
(ガゼルさんを探さなきゃ)
「おうおう! さっきの言葉もう一度言ってくれるか? ガゼルよ。 俺様の気間違いじゃなければジャイアンとオークって聞こえたような気がするんだが?」
「まじかよここ最近のジャイアントオークは言葉まで話すのかよ。まあオークらしく耳は遠いみたいだな。ジャイアンとオークのデカブツさん」
「今度はしっかりと聞こえたぞゴラァ!!」
リーグレットはギルド内を進もうとして足を止めた。
(えぇ……な、なんでガゼルさんがこの騒ぎの中心にいるの〜)
立ち尽くしあんぐりしているとバレンタインが「どうしたんですか?」とリーグレットの腕を引いて聞いた。
リーグレットはアレ、と奥で喧嘩する2人を指差す。
「あそこ……あそこにいる背の小さい方が私の知り合いなの……」
「アレって……あのなんとも小汚い男がですか?」
小汚い。
そう言われれば確かにまあ汚い。
30代中頃か40代の年齢のおじさんで無精髭を携え服はボロボロなのだ。
それに顔が赤いところから察するに昼間から酒を飲んでいたように見える。
「うん。あれが私の知り合いのガゼルさん。ギルドランクはCであまり評価は高くないんだけどね」
「Cですか、てっきりお嬢様の知り合いというからにはBかAを想像してました」
仮にも貴族令嬢だからそう思わせたのだろう。
「だけどあの人の実力は確かだよ。保証する」
「なぜそこまで信用されてるのですか? ただのチンピラでしょうに」
「それは……」
リーグレットは言い淀む。
これを正直に話して良いものかと。
なにせ彼女は曲がりなりにも伯爵家の令嬢である。
そんな彼女がここに1人で赴く理由……それを正直に話すべきかと。
もし話せば今後ここに足を運ぶ事を許してもらえない可能性だって考えられた。
故にリーグレットは汗を垂らして言葉を詰まらせたと言うわけだ。
「お嬢様……何か隠しておられますね?」
「ひぅ!?」
さっきの怯えはどこへ行ったのだろうか。
バレンタインがジロッとリーグレットを睨みだした。
反面、先ほどの余裕はどこかへ飛んで行ったリーグレットはそんなバレンタインの追求に子リスのように震え上がってしまう。
もう逃げることはできない……そう考えた彼女は口を開いた。
「ゴ、ゴーレムの……素材を……ね?」
その言葉を聞いたバレンタインは「あー……」と納得したように呆れた顔を浮かべた。
「どうりで屋敷の人間では手に入らない素材が転がってると思いましたよ……にしても素材っていうと鉱石だけじゃないのですか?」
「そうだね。基本鉱石がベースになるのは間違いないんだけど、それだと攻撃耐性しか付与出来ないの。ゴーレムは攻撃力もあってこそでしょ? そんな攻撃力を生み出すためには魔物の素材が必要なの」
「魔物ですか、それはゴブリンとかの?」
「そんな雑魚は私のゴルディスに相応しくないよ! シリアルマンティスの鎌にオーガの骨。あとはマーダースパイダーの糸――」
「ちょちょちょっと待ってください!? シリアルマンティス? オーガ? それにマーダースパイダーですって!? それはどれもBからAランク相当の魔物じゃないですか!」
「……? そうだね」
それぐらい強い個体でないと理想のゴーレムなど出来るわけがない。
リーグレットが目指すのは世界最強で最高のゴーレムなのだから。
「そんな魔物を誰が……まさか!」
「うん。そのまさかだよ」
バレンタインが気付いたと同時、奥の喧嘩がヒートアップしたようで喧騒がより激しさを増した。
周りのチンピラが歓喜し、ある者は悔しげに酒を放り投げ、またある者は隣の仲間と肩を組んで喜んでいた。
そう、巨体のジャイアントオークと呼ばれた男をガゼルが殴り飛ばしたのだ。
そんな彼を見ながらリーグレットはバレンタインに先ほどの答えを告げる。
「あの人、ガゼル・ユーティネスさんが全て取ってきてくれた物なんだよね」
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