第17話 リーグレットの違和感
「へ〜。中でそんな事がね〜」
学生達で賑わう食堂の一角で、バルトレーンはリーグレットの話をニコニコしながらそれはそれは楽しそうに聞いていて、ボルクの方はというと瞳を閉じてコクコクと頷いていた。
2人に話し終えたリーグレットはホッとしつつテーブルに並んだ料理の数々を口に運んでいく。
「にしても孵化まで2ヶ月のサラマンダーが突然孵るだなんて、不思議な話だね」
「ほうなんれふよれ。そほはふひひれ」
瞳を閉じていたボルクが片目を小さく開いた。
その目は鋭くリーグレットに向けられている。
「食べながら話をするのは淑女としてどうかと思いますよ」
その瞳の鋭さにリーグレットはギョッとし頬張っていた食べ物を一気に飲み込んで詰まらせてしまう。
「ん! んんッ!!」
「ほらみなさい。どうぞ、水です」
ボルクから水の入ったコップを受け取ったリーグレットは喉に流し込んで事なきを得るが、ボルクは呆れたと言わんばかりに首を振った。
そんな光景をバルトレーンは面白そうに眺めていた。
「あ、ありがとうございます……」
「はぁ……次からは気をつけてくださいね」
「はぃ……」
まるでお母さんのようにボルクはリーグレットの口の周りについた汚れをハンカチで拭いだした。
されるがままのリーグレットにバルトレーンがはっはっはと笑いながら手を合わせる。
「ごめんごめん。まあ事件からここまでぶっ続けだったわけだしね、お腹が空くのも無理ないよ。で、さっきはなんて?」
ボルクのハンカチから解放されたリーグレットは「ぷはっ」と息を吐いた。
「いえ。サラマンダーが孵化した事が私にも疑問なんですよね……グラハムさんの話では貴族に恨みを持ったブレイバーが孵化予定日を偽って譲渡したのではないかと言ってましたけど……」
「なるほどね。確かに一理あるけど、それがなんで疑問なんだい?」
「普通に考えてみたら、貴族を殺す場として社交界を選ぶでしょうか? それより前、手渡す時に殺せば公にならずに済んだはずなのに」
「確かに。今回は亡くなったトロン・エインズワースがブレイバーから貰ったと明かしてる訳だしね。見つかるのも時間の問題だ」
バルトレーンの言う通り、わざわざ目立つように殺してしまった事で自分の身を晒した。
それはつまりすぐに特定されて捕まるリスクが高く、あまりにも杜撰な計画といえる。
暗殺をするのであればそのようなことをせずともいくらでも手にかける場面はあったはずだ。
仮に、仮にだ。
反貴族として歴史に名を残すにしても、地味であり、褒められたやり口でもなく、回りくどすぎる。
「ですけど、今ある情報だけでならブレイバーが犯人だと答えに行き着くのも仕方のない話なんですけどね」
ニッとリーグレットは笑ってミートボールを口に突っ込んだ。
「まあ、そうなるよね。で? 君はこのままでいいと思うのかい?」
「このままって?」
リーグレットはフォークで肉を突き刺した手を止めた。
「疑問が残ったままでいいのかって話さ。君は解明したくないのかい? 真実を」
「真実? もうこの事件は解決されたも同然ですよ……ね?」
と言ってリーグレットは肉を頬張る。
少し冷めて弾力が増して硬くなった肉は食べられないことはないのだが、美味いかと言われるとなんとも微妙だ。
むぐむぐと咀嚼しているとバルトレーンが席を立った。
「そうかい、それは残念だ」
「え……」
リーグレットはそんな彼に目を向けると、机に金貨が一枚置かれた。
「これは話のお礼だよ。てっきり君みたいな子はもっと答えを追求すると思ったんだけど……どうやら僕の勘違いだったみたいだ。残念だよ」
バルトレーンはボルクを引き連れこの場を去っていく。
そんな後ろ姿をリーグレットは見つつ、テーブルの上に残された冷めた料理と金貨を前に暫く考え込むのだった。
***
事件から数日。
リーグレットはバルトレーンの最後の言葉が頭から離れずモヤモヤして仕方なかった。
別に事件の顛末なんてどうだっていい。
良いはずなのだが、勝手に期待を裏切られた気がして、行動せずにはいられなかったのだ。
それに確かに彼の言う通り疑問もあった。
だからかリーグレットは顛末を聞きに警備隊の詰め所へと足を運んでいた。
「ご、ごめんください……」
ゆっくり扉を開いて中を覗き込んだその先、警備隊員が一斉にリーグレットへ顔を向けた。
「ひぃっ!?」
あまりにも同時に振り向かれたものだからリーグレットは怖くなり顔を引っ込めてしまう。
そんな彼女に警備隊の1人がため息を吐いた。
「またあんたかよ……」
「今度は何やらかしたんだ?」
「真っ当に生きろよ。学生だろ?」
と笑いが起こり彼らはリーグレットを中へと案内してくれた。
彼女が詰め所に世話になってまだ2回だが、その2回のうちに隊員達と少しばかり仲が縮まっていたようだ。
なにせこのような場所に学生が来るなど早々ないことだ。
それがこの数日で。同じ人間が。3度もやって来るとなると警備隊の面々からしたら最早顔馴染み同然だろう。
そんな警備隊の1人がリーグレットに聞いた。
「で? 本当は何しに来たんだ?」
「あ、あのぅ、この間のサラマンダー放火殺人事件の顛末を聞きに……」
「あー……あの事件な……その件に一番詳しい隊長なら奥にいるぜ」
と言って警備隊員は気怠げに親指を後ろの扉に向けた。
(この反応……まだ解決していないのかな?)
そう思えるほど隊員達の顔はリーグレットには曇って見えた。
彼女は促されるまま奥の部屋に入ると中ではグラハムが散らばった書類を前に頭を抱えていた。
「お邪魔します……」
と挨拶するが、「あー……アホ令嬢か」と力無く答えられてしまい「あうっ」とビクついてしまう。
グラハムの目の下にはすごいクマができていて、相当寝ていないのではないかと思われた。
「事件の結果を聞きに来たのか?」
「はい。犯人は捕まったんでしょうか?」
リーグレットは近くに置かれていた椅子にちょこんと座った。そんなリーグレットを見てグラハムは深い息を吐く。
「犯人……犯人ねぇ……」
「ん?」
リーグレットは首を傾げる。
「ああ。確かにブレイバーの1人がトロン・エインズワースにサラマンダーの卵を譲渡した事実は認められた。認められたが、どうやらそのブレイバー……自分で取ってきたわけじゃなく誰かから譲り受けたみたいなんだ」
「と、と言うことは……犯人は別にいるってことですか?」
「そうなるな」
事件はリーグレットが思っているより厄介な事になっているらしい。
グラハムの周りに散らばる捜査資料にリーグレットは目を移すが、それはギルドに立ち入った人物の名簿にトロン・エインズワースに恨みを持つであろう人物の名簿だった。
だがそのどの人物に斜線が引かれているあたり、調べ終え、無実が証明されたのだろう。
「あまりよくない状況なんです?」
「良くない……ああ良くないね。なにせ皆目見当もつかない状態だ……ムカつく事にブレイバーはサラマンダーの卵を持ってた奴の姿をよく覚えていなかったらしいからな」
グラハムは机の上の資料を一気にまとめてはぐしゃぐしゃにして頭上に放り投げた。紙がカサカサと落ちてくる。
あのグラハムがここまで自暴自棄になった姿にリーグレットは少しばかり怖くなってしまうのだった。
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