第16話 リーグレットと出逢い
聴取を終えてドレスから制服に着替えた私は校舎に戻ると周りの学生達が何やら騒ついていて落ちつかない様子だった。
リーグレットは近くの時計を見るとちょうど講義を終えた休憩時間のようで、皆どうやらホールで起きた惨事について話をしているようだ。
「聞いたか? ホールで大規模火災が起きたって」
「聞きましたわ。なんでもサラマンダーが現れたとか……恐ろしいですわ……」
「だが、もう落ち着いたってさ。なんでもリリベルタの娘が被害を抑えたらしい」
「リリベルタ? ってあの天才――魔導師に最も近いと呼ばれてるアクラディーテ・リリベルタのか!?」
(アクラディーテ・リリベルタ? サリュースさんのお母様は有名な人なんだ。どうりであれほどの魔法を扱えるわけだ……恐らくサリュースさんはお母様から魔法を伝授されていたんだね)
サラマンダーの炎を一時的とはいえ対抗する程の水魔法に扱えるだけの魔力量。
そして積み重ねられた魔法知識。
どちらが欠けていてもあれ程の魔法を使用することは不可能だ。
だが身内に高位の魔法使いがいると話は別だ。
恐らく親から魔法教育を受け、魔力増加の鍛錬を積んで来たのだとすればサリュースの腕にも納得できる。
そんなサリュースの活躍は噂話となり既に学生中に広まっているようだ。
なんでも王立学校の英雄だとか聖女だとか上級生から聞こえてくる。
リーグレットの話など一つも出てこない。
まあゴルディアスが戦ったのだから自分の話が出るはずないのだが、とリーグレットは少しだけガッカリする。
「見つけた」
騒ついた校舎の中に透き通ったような男の声がリーグレットの耳に入る。
とても綺麗な声だと思った。
そんな男の人に見つけてもらえる人はどんな人だろうか。リーグレットは気になり周りを見渡すが――
「君だよ君」
居ない……。にしてもここまで呼ばれて気づかないなんて、相当耳が悪いのか。
リーグレットは自分には関係ないと考え、バレンタインを探しに廊下を歩み出す。
「君だって」
リーグレットの肩にガシッと手が掴まれた。
「ひゃぁっ!?」
心臓が跳ね上がりぴょんと飛んだリーグレットは背後に振り返ると白髪の優男と燕尾服の黒髪男の2人が居た。
優男がどうやらさっきの声の主だったらしく、呼んでいたのはどうやらリーグレット自身のようだった。
「ご、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」
あまりの驚きように優男は目をキョトンもさせている。
まさかこんな跳ねるように驚かれるとは思いもしなかったのだろう。
「す、すす、すみません。私に声をかける人がいるだなんて……思わなくて」
「大袈裟だなぁ。友達の1人ぐらい居るだろうに」
そう言いながら優男はリーグレットの周りに目を向けた。きっと近くに友人がいると思っているのだろう。
だが残念……彼女に生きた友人は1人として存在しない。
「居ないですよ……私は相当変わり者みたいなので……」
「み、みたいだね」
どうやら理解してくれたようだが、改めて友人0という現実をリーグレットは目の当たりにして気が滅入る。
「で? あなたは?」
リーグレットが見上げながら問いかけた。
そんな彼女に優男は屈託のない笑顔を向けて答える。
「ああ。ごめんごめん。僕は帝国からの留学生としてここに来たバルトレーン・シュナウザー。こっちが僕の従者の」
「ボルクと申します」
「ど、どうも……」
バルトレーンとボルク。
バルトレーンは見た目からしてとっつきやすい印象だが、ボルクの方は、些か怖い印象を受ける。
吊り上がった目に黒い髪、閉じた瞳から時折覗かせる瞳は冷たい。
リーグレットからすればあまり関わりたく無いタイプの人間だ。
「ボルク、もっと柔らかく柔らかく。君のせいで彼女が怯えてしまったじゃないか」
「し、失礼しました」
バルトレーンから注意されたボルクは二へラァとかなりぎこちない笑顔を見せてきたが……かえって恐ろしく見える。
だが、こうして頑張る姿からして根は素直でいい人なのかもしれない。
「はは……で? なんの用ですか?」
「用もなにも、君……確か1学年だよね?」
「そうですが……」
「だったらさ? 君も出てたんだろ? 社交界。あの噂は本当かい? サラマンダーが出たって」
「あ……本当ですよ?」
噂話は彼の耳にも届いていたのかとリーグレットは気が重くなるが、そんな彼女の顔面……目と口からすぐ側の距離にバルトレーンは顔を覗き込んできた。
「ひっ!」
「君! あのホールから遅れて無傷で出てきたって事は警備隊から聴取を受けてたんだよね! だったらあの場所で何が怒ったか知ってるんだろ? ねぇ、ねぇ! 教えてくれないか!」
あまりにも強引……あまりにも無遠慮。
バルトレーンという男は興味関心が湧くと自制が効かないらしい事をリーグレットは悟る。
悟るが、このように詰め寄られることも、人と……ましてや男性とこんな密着する機会もなかった彼女は沸騰したように顔が赤くなりボンッと頭から湯気が爆発しかけた。
「ご主人様……恐れながら女性に対しての距離感がおかしいです。それでは胡散臭いナンパにしか見えませんよ」
「し、しまった。ごめんごめん。君が最後にホールから出てきたからさ、何か知ってると思って止まらなくなっちゃったんだ。怖がらせてごめんね?」
「は、はひゅぅ……」
バルトレーンが離れてくれて一先ず息を整えるリーグレットにボルクが語り始めた。
「お嬢様……ご主人様は日頃の刺激の少ない生活に嫌気がさしておられるのです。そんな時に刺激的な事件が起きて渦中の人間が目の前に現れた結果暴走してしまうのです……ご理解下さい……」
「な、なるほどです……」
「そゆこと〜」
ボルクが申し訳そうに語る反面、バルトレーンはひらひらと手を振っていた。
聞きたいのなら話しても良いはずだ。
なにせグラハムからは口止めをされていないし、ここまで噂が日おまっている状況なら今更話しても問題はないとリーグレットは考えた。
「いい……ですよ」
「やったね!」
バルトレーンは指をパチンと鳴らして喜んだ。
その時だった。
ぐぅぅぅ〜〜……。
「……」
「……」
リーグレットの腹が鳴り、ボルクとバルトレーン2人は固まったように動かず気まずい空気だけが流れた。
リーグレットは恥ずかしくなってしゃがみ込んだ。
顔は真っ赤で熱い。
(人の前で――ましてや男の人の前でお腹が鳴っちゃうなんて〜!)
死んでしまいたい気分だった。
こんな自分を嫁にもらいたいと思ってくれる人なんてこの先絶対出会う事はないんだとリーグレットは塞ぎ込む。
だが、彼女が腹を減らすのも無理はない。
魔力を失うと人間腹が減るのだ。
彼女はゴルディアスを操作するのに魔力の4割を持っていかれた……つまり腹ペコなのだ。
バルトレーンはボルクと顔を向き合わせ頷いた。
「お腹が空いてるんだね? ちょうど僕らも食事にしようと思ってたところなんだ。話ついでに一緒にどうかな?」
バルトレーンの提案にリーグレットは顔を上げる。
「いいんですか?」
「もちろん! その代わり聞きたいことが沢山あるからね〜」
家族以外の人と食事するなど何年ぶりだろうか。
リーグレットは先程の痴態よりも掴める人との交流のチャンスに目が眩みバルトレーンの提案に頷いた。
彼の差し出す手を掴みリーグレットは立ち上がる。
そして彼らと共に学生食堂へと向かうのだった。
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