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第15話 リーグレットは友達が……

 サラマンダーを討伐した後のホールは、あの豪華絢爛な風貌から一転……骨組みが露わになり残った壁やら装飾は焼けて煤に塗れているか、溶けて新しいオブジェのようになっていた。

 

 そんなホール跡地を警備隊に封鎖されて立ち入り禁止となっていたのだが、リーグレットとサリュースは現場から少し離れた場所に立たされていた。

 それも警備隊長のグラハムの前にだ。


「またお前か……」


 呆れた顔で、さも嫌そうな顔でグラハムが挙動不審な様子で目が泳いでいるリーグレットを見る。

 そうは言われても自分は今回何もしていないのである。無実だ。

 

 だがこうしてグラハムの厄介になるのは三度目であり、流石に申し訳ない気持ちでリーグレットの小さな心はいっぱいだ。

 そんな彼女は意を決してグラハムに答えた、「グラハムさんとは不思議な縁がありますね」と。


「とんだ縁だよ……まあ今回の騒ぎはお前が発端でないことは既に明らかになっているからな。馬鹿なお坊ちゃんが持ち込んだ孵化しかけのサラマンダーを持ち込んだことが原因なんだろ?」


 リーグレットはグラハムの言葉に激しく頷く。

 彼女は今回は怒られる事はないと悟りホッとした。

 

「怒りはしないが用はある。それもお前達2人にだ」


 言われてリーグレットは隣のサリュースに顔を向ける。

 サリュースはこれから何をされるのかを知ったように凛とした眼差しで真っ直ぐグラハムを見つめていた。

 

「お前達2人は社交会で最後までホールに残っていたんだな?」

「ええ。そうですわ。サラマンダーが出現して燃えるホールを私の水魔法で抑えてましたので」

「ほう。お前の魔法でか……。どうりで四大精霊が現れた割にはホールの面影が残ったままなんだな。流石と言うべきか」


 ふふん。と胸を張ったサリュース。

 確かに彼女の魔法は素晴らしかった、あのタイダルウェイブがなければ今頃学生全員が灰となっていた事は間違いない。

 

 犠牲になった学生もいるにはいるが、大半が軽症で済んだのはサリュースの活躍があってこそだとリーグレットは隣で頷いた。

 

「ですが、サラマンダーを倒したのは私ではございません……倒したのはこのリーグレット・アイアンガルド嬢の従者ですわ」

「ほぇ?」

「ほう……」


 素っ頓狂な声を上げて目を点にしたリーグレット。

 興味深いと言った目で彼女を見つめるグラハム。

 

 両者の眼差しが交差すること数秒……リーグレットは自身の遅れた思考に理解が追いつくとアワアワと手を振り出した。


「わ、わわ私の従者じゃ――」


 ゴルディアスはリーグレットが作り上げたゴーレムだ。

 すなわち彼女の秘匿するべき真の力でもある。

 この学園で普通に過ごすためにはゴルディアスの存在は隠さなければならない。

 

 だが、あの場においてゴルディアスでしか対処のしようが無かったのも事実。

 であれば、リーグレットは必死にこの場を逃れるための言い訳を考えなければならず焦りに焦りまくる。

 

「お前の従者〜? バレンタインさんがか?」

「バレンタイン……? いえ……名は確か……ゴルディ――」


 サリュースがグラハムにゴルディアスの名を告げようとしたその瞬間、リーグレットは「あー! あー! あー!」とまるでカラスのように声を上げて誤魔化した。

 

 そんな彼女を2人は訝しげに見てくる。それもそうだ。

 突然奇声を上げ出せば誰だってそんな顔をするものだ。

 

「どうした? 気でも狂ったか?」


 年頃の乙女に対してなんて酷い言葉を吐くのだろうか。

 リーグレットは少し心を痛めたがすぐに答えた。

 

「わ、私を助けてくれたのは……そ、そうです! ギルドのお友達なんです!」

「ギルド? ギルドってあのブレイバーズギルドか?」


 グラハムが疑問を抱くのには理由がある。

 ブレイバーズギルド……。大陸全土に拠点を置く【勇気ある者の集い】という組織だ。

 

 主に魔物討伐に護衛依頼を生業とする職業なのだが……ギルドに属する人間の大半が素行に問題がある荒くれ者達なのだ。

 そんな荒くれ者が。この弱々しいリーグレットの友達?

 グラハムにはそれがとんでもない嘘にしか思えなかった。


「なるほど……それなら確かにあの腕前も理解できます……」


 グラハムが疑いの眼差しをリーグレットに向けていると、思わぬ援護がサリュースから飛び出た。

 この人は女神か? とリーグレットは目を輝かせて彼女を見るのに対してサリュースは「ふむ」と考え込んでいる。


「だがそのブレイバーは……いないようだが?」


 グラハムが辺りを見渡すもゴルディアスの姿は見えない。それもそのはず、ゴルディアスはサラマンダーを討伐してすぐに窓から空を飛んで寮の部屋に帰ったのだ。

 

 幸いあの場で空飛ぶゴルディアスを気に掛ける学生は誰もいなかった。

 だからリーグレットはこのサリュースが作ってくれたチャンスを活かすために嘘をつくことにした。


「私の友達は忙しいのでもう行ってしまいました……確か……王国の外に用があるとかなんとか……」

「はあ? サラマンダーを倒してすぐに次の仕事だと? ブレイバーなのに働き者なんだな」

「あ、あはは……そうですね……いやぁ。少しぐらい休んでもいいんですけどね〜。なんて……」


 この嘘が通るか? 不安げにグラハムに目を向けるリーグレット。

 だが、この嘘をグラハムは信じたようで「変わったブレイバーもいたもんだ」と握っていたペンで後頭部を掻いている。

 そんな姿を見てホッと息を吐くリーグレットなのであった。


「当事者がいないのは残念だが……まあお前らが居るなら良いか。取り敢えず事件当時の状況を知りたい。なんせサラマンダーを持ち込んだお坊ちゃんは焼死してしまったからな。近くにいた学生達は意識不明だし」


(死んじゃったんだ……あの男の人……)

 まあサラマンダーから1番近くにいてあれほどの炎を防御する事なく浴びれば当然か。

 リーグレットがサラマンダー男が死んだという事実に言葉を失っているとサリュースがグラハムに答えた。


「事件当初。サラマンダーの卵を所持していたトロン・エインズワースはホールの真ん中で学友達と珍しい物を見せ合ってましたわ」

「トロン……エインズワース?」


 リーグレットが首を傾げているとグラハムが困った顔でトントンと指で頭を叩きながら補足してくれる。


「トロン・エインズワース。今回の事件の容疑者で伯爵家のお坊ちゃんだな」

「へ、へぇ……サリュースさん、よく知っていますね」

「同じ学年の学生はすべて頭の中に入ってますわ。当然です」


(当然なの? 私はまだグラハムとサリュースさんしか覚えていないよ?)


「ですが私が見たのはそれぐらいですわ。トロンさんが学友に卵を見せびらかして数分後事件に発展しましたので」

「なにか言ってたとかはないのか? 恨みがどうとか、殺してやるとか」


 それなら覚えているとリーグレットはグラハムに答える。


「言っていませんでした……ただ、あの卵はブレイバーズギルドの男がどうとか言ってました……卵が生まれて1ヶ月だから大丈夫とか」

「またギルドか……なるほどな」


 グラハムは私たちの証言をメモに取っていく。

 真面目な捜査らしくなってきた。


「その話が本当ならおかしいですわね。魔物の卵は孵化までに時間がかかります。強い個体になればなるほどその期間も長くなると言うもの。サラマンダーとあろう魔物が1ヶ月で……ありえません」


 これにはサリュースさんもグラハムも同じ考えなようで頷いた。


「だな。となればトロンのお坊ちゃんはブレイバーの男に騙された可能性があるな。貴族に恨みがあるブレイバーがサラマンダーの卵の孵化期間を偽り社交界に集まったお前達貴族を狙った……そう見るべきか」


 それは大いにあり得る話だ。

 なにせ貴族は下々のものから嫌われている節がある。

 現代の社会は平民も貴族もそれほど格差は無くなったものの、国の政治に軍事などには今も貴族が深く関わっている故に反感を持たれているというわけだ。

 

 リーグレットの実家――リスタルテも、鉱石業を生業としていて現地の鉱夫から嫌われているのだ。「俺たちの鉱山を横取りしやがって」と。

 そんなことを考えていると、グラハムがパタンとメモを閉じた。

 

「協力感謝する。これでお前達から聞きたいことは全部だ」

「も、もういいの?」

「ああ。ブレイバーズギルドの名が出ただけでかなり収穫だ。あとはエインズワースの屋敷に行ってそのブレイバーの風貌を聞き取るだけで事件は解決だ」

「な、なるほど」


 なんだか呆気ないと思いつつ、ここから先は自分の出る幕はないことをリーグレットは悟る。

 グラハムは軽い会釈をして2人から去っていく。

 

 廃墟に残されたリーグレットはサリュースと共に学校へ戻ろうとしたが、既に彼女はスタスタと前を歩き始めていた。

 リーグレットは彼女を追いかけた。


「あ、あの……」

「なんです?」

「なんでって、一緒に戻っちゃダメですか? ほ、ほら共に窮地を乗り越えた仲なんですし……。少しぐらい仲良くなっても良いんじゃないかなぁ……なんて」

「ふんっ。別に私はあなたと仲良くなる為に力を尽くしたつもりはありません。それに、今回はあなたのお友達がサラマンダーを倒しましたけど、あなたが助けを呼ばなくとも私だけでどうにかなったのです! なのであなたと仲良くする気はありませんわ」


 ガーン! と音が鳴った気がした。

 「では!」と強く言い残して去っていくサリュースの後ろ姿をリーグレットはただ見ることしかできなかった。

 

 なんだか怒っているようだったが、何故かはリーグレットには分からない。

(私……やっぱりどこかおかしいのかな……だからサリュースさん、私に怒ってるんだ)

 そう思い、リーグレットはトボトボと学校へ1人向かうのだった。

  

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