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第12話 サラマンダー

 リーグレットが現実逃避をしている時だった。

 ホールの向こうの方に人だかりが盛り上がっていることに彼女は気づく。

 

 なにやら誰かが持ち込んだ物を見せ合っているようで、リーグレットは少し興味が湧いた。

 貴族の持ち込んだものなんて珍しいものに決まってるからだ。

 それにあわよくばそれを機にお近づきになれれば万々歳だ。


「さあ見てくれ! これが今回の社交会の為に用意した珍しいサラマンダーの卵だぜ!」

「「おお!」」


(サラマンダーの卵!? 見たい見たい!)

 人混みをかき分けてなんとかお目に掛かろうと試みたが――ダメだった。

 入る余地がないほどの人だかりで弾かれてしまう。

 そうだ。とリーグレットは奥でクラシックを演奏している音楽隊、その壇上に向かい、端っこに登って離れた場所から覗き込もうとした。


「お、おい」

「す、すみません。少しだけ、ほんのちょっとで良いんです」


 すぐ隣で演奏をしていた楽員に注意されたが、リーグレットは背伸びして人だかりの中心に目を移した。

 そこに居た金髪の流し髪の学生が両手に赤いマダラ模様の卵を抱えて周りのみんなに自慢していた。

 サラマンダー――ウンディーネ、シルフ、ノームに並ぶ四大精霊の1体だ。

 

 四大精霊は魔物の中でもかなりの上位種族として有名であるが希少種族だからか個体数が少ない。

 

 大陸での目撃例は7年前のノーム以来だったはず。

 にしてもどうしてあの学生がサラマンダーの卵なんて持っているのだろうか不思議でならない。


「ちょっとそれ危なくありませんこと? サラマンダーでしょ? ここで孵化でもしたら大変なことになるんじゃ……」

「それが大丈夫! これを持ってきてくれたブレイバーによれば卵の状態から孵化する為には最低でも3ヶ月必要でこいつはまだ生まれて1ヶ月らしいからな」


 ブレイバー――ブレイバーズギルド……勇気ある者の集う場所として色んな仕事を担っている職業。

 そんな彼らの中にサラマンダーの卵まで手に入れる強者までがいるのかとリーグレットは感心してしまう。

 

 彼女の知り合いにも1人だけブレイバーは居るが、彼には不可能だろう。何せ堅実な男なのだから。


「なら大丈夫ですのね。少し見ても構いませんこと?」

「ああ良いぜ」


 どうやらサラマンダーの持ち主である男は卵で女学生の注意を惹き人気者になる算段らしい。

(いいなぁ。私も何か珍しい物を用意しておけば人気者になれたのかも……)

 とリーグレットは考えたが、過去の二の舞になると思い立ち首を振った。


「おい、いい加減に――」


 さすがに長くお邪魔したせいで音楽隊の男がすごく恐ろしい顔でリーグレットに向いた。

 

「す、すみません。退きます!」


 そろそろ本格的に怒られそうなので退散する事にしたリーグレット。

(私も近くでサラマンダーの卵……見たかったなぁ。)

 本当を言えば本体を見たいのだが。

 

 なにせ絶え間なく体が発火する魔物なのだ。

 その原理、生態、なにを食べてそうなっているのか知り尽くしてゴーレムに応用できればとリーグレットは考えていた。

(燃えるゴーレム……かっこいい)


「まあ私には関係ないよね……あそこに割って入るだけの勇気もないし」


 トボトボと歩いていると、ドン!

 誰かとぶつかってしまった。


「す、すみません」

「ちょっとあなた! 一体どこを見て歩いてるんですの!」

「うひぃっ」


 怒られてしまい身を縮こめるリーグレット。

 恐る恐る顔を上げるとそこに立っていたのはサリュース・リリベルタだ。

 白い肩を出し、足元が動きやすそうなかなり大胆なデザインをしたドレスに身を包んでいて恐ろしく様になっている。彼女が同性であってもリーグレットは思わず見惚れてしまう程に。


「あら? あなた確か魔法基礎学と実践講義に居た……」

「リーグレット・アイアンガルド……です」

「そうそうリーグレット! テロリストのリーグレットじゃありませんの!」


 そう言われてリーグレットはキョトンとしてしまう。

(え、私ってみんなからテロリストって呼ばれてるの?)


「あなたこの間はよくもアナンタ先生の講義を台無しにしてくれましたわね! あの日私、氷結魔法を先生に披露しようとしましたのに」

「ご、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないんです……」

「悪気がないですって? 不意打ちで魔法をぶつけたあなたのどこが悪気がないって?」

「そ、それは……」


 言い淀む。

 側から見れば確かにそう取られてもおかしくない状況であった。

 それにアナンタという魔法師団の若手エースを吹っ飛ばせる学生なんて不意打ちでしかできないと思われて当然だろう。

 

「まあいいですわ。これ以上あなたに時間を割くのも勿体無いですし……それでは」


 サリュースがリーグレットから立ち去ろうとする。その時だった。


「きゃぁぁーー!!」

 

 サラマンダーで盛り上がっていた人達の方から火の柱が燃え上がった。

 炎は赤く、真紅だった。

 ゴォォ! と炎を噴出する轟音。

 火が天井を伝って広がっていく様子に学生たちは只事ではないと悟り悲鳴を上げて逃げ出していく。


「一体なにが……」

「わ、分かりません……」


 リーグレットとサリュースはいきなりの事に目をパチクリさせていた。

 ただ、この悲鳴と炎に間違いなく緊急事態が起こったと言うことだけは理解出来た。


「火……まさか魔法!?」

「魔法ですって!? この場所での魔法の使用は禁止されているはずですわよ!?」


 サリュースの言う通りこの場所での魔法の使用は禁止されている。

 故に入場する際には杖やら魔導書といった武具は全て警備隊に預けられる事になった。持ち込めるのはそれ以外の物……。

 

「まさか……とは思いましたけどこの魔力……紛れもないサラマンダーの力を感じます……」


 どうやらサリュースは魔物の魔力を感じ取ることが出来るらしかった。

 上位の魔法使いは魔力の流れを肌で感じ取ることができるらしいが、対してリーグレットは体質上、今は感知できない。


「そういえばあそこ……サラマンダーの卵ではしゃいでいたけど……まさか孵化したんじゃ!?」

「と、取り敢えず避難を! サラマンダーが目覚めたのであればこの建物は長く持ちませんわ!」


 サリュースがリーグレットの手を取って駆け出そうとした。が――リーグレットは少し悩んで足を止めていた。

 

「うーん……」

「どうしたの! 早く逃げるのよ! それとも怖くて腰が抜けたとか言うのではないでしょうね?」


 怖いけど、どうしても彼女には気になることがあった。


「丁度良い機会だしサラマンダー、見てみたいな……」

「あなた頭イカれてますの!!?」


 至極真っ当に怒られてしまった。

 だが今後一生観れるかどうか分からないのだから技術者として見ておきたいとリーグレットは考えたのだ。

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