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第11話 社交界当日と過去

 それからというものリーグレットは頑張った。

 彼女なりに必死に努力して、完全にアウェーなグループにも「友達になりませんか」と頼み込んだのだり……。

 講義でペアを組む際は小さな声で「一緒にやりませんか?」と訴えもした。

 ――が見事なまでの完敗。

 

 そんな彼女を学生達は笑い、まるで初めからそこに存在しない様に扱われたりと、もう死んでしまいたいとリーグレットは考えてしまう。

 そうして声をかけ続ける事数日……その日はあっという間に来てしまった。


 社交界当日だ。

(終わった……。昔の私ってどうやって友達作ってたんだっけ……ここまで酷くなかった気がするけど……)

 

 8歳の頃のリーグレットはここまで人見知りではなかったと自身でも記憶している。

 活発で、陽気で、友達を楽しませようと色々な話で盛り上げることが出来ていたはずなのだ。

 

 もしかしたらそれはリーグレット自身が作り出した存在しない記憶かもしれないが……。

 

 確かに存在したはずの記憶すら信じられなくなってしまいリーグレットはポロリと涙を流してしまう。

 そんな彼女は社交界が開催されるホールに入場する学生達に好奇の眼差しを向けてくることに気付きはしない。


「なにあの子……泣いてる?」

「見ちゃだめよ。きっと頭のおかしな子なんですわ」

「にしてもあのドレス……ふふ。流行というものが分かっておられないのかしら」

 

 リーグレットのドレスはというと、過去に一度だけ着たことのあるピンクのドレス、貧相な体故サイズは問題ないのだが、なにせ流行からかけ離れている。

 

 周りの学生は白や春をイメージした薄い青色のドレスを着ているというのに。

(ま、まだ終わったわけじゃないし、ここで友達作ればいいよね)

 

 リーグレットは涙を拭いて顔をブンブン振って仕上げに頬をパンと叩いて気合いを注入。

(女は愛嬌っていうんだし、笑顔でいないとだね)

 ニッと微笑み辺りに顔を向けたリーグレット。

 そんな彼女の情緒の変化に見ていた学生達は異様なものを見るように目を細めた。


「うわ。泣いてたかと思えば今度は笑顔になった」

「変人ですわ……早くいきましょ」


 そんな学生達の様子に気づかずリーグレットはホールへと歩みを進める。

 そこでようやく自分のドレスが周りと違っている事に気付くが、リーグレットはそれが流行とは思わず、みんなそういうドレスが好きなんだと思い込むばかりだ。

 

 クスクスと笑い声がホールへ続く煌びやかな廊下に小さく響く。

 それがリーグレットを嘲笑しているものだとは彼女は気付かない。

 

 ホールの中にリーグレットが入るとすぐに気付いたのはうっとりするようなクラシック音楽だ。

 どうやらこの社交界の為に他所から音楽団を招いているようで奥で演奏をしてくれているようだ。

 

 そしてその少し離れた場所には軽食でケーキやサンドイッチ、少しガッツリめのローストビーフやらチキンなどが並んでいた。

 

 ごくりとリーグレットは唾液を飲む。

 そういえばここ最近友人作りに焦り食事があまり喉を通らなかったと思い出したのだ。

(あとで食べようかな……良いよね? 食べても)


 中を少し歩いて思うのは、やはり人の団体だろうか。大体が2から6人ほどのグループを作っている。

 完全にアウェーである。

 ここにリーグレットを歓迎してくれる存在など1人たりもいない現実にフラッと血の気が引いてしまう。


(誰か、どこか! 私が入れそうな場所は)

 見渡してみるが、どこも完全にグループが出来上がってしまっているようで彼女が入り込む余地はどこにもありそうにない。

 

「はぁ……」


 こうなるとさっきの決心もどこへやら……。

 リーグレットはホールの端っこへ移動し壁にもたれ掛かるのみだ。

 

 懐からリーグレットの心の友、ゴレムリンを取り出す。

 彼女がこの学校に向かう際に急ぎ作った小型ゴーレムなのだが、この子が私の心の支えだ。

 それをギュッと胸に抱く。

 今は電源を切っているから反応はないが……。なんだかホッとするのだった。

 

 ***


 リーグレットがゴーレムを何故作るようになったかと言えば父と共にとある鉱山に入った時だ。

 そこは鉱石産業の盛んな場所で数多くの鉱山があるのだが、その時は行ったのは中でも古くから存在する場所だった。

 魔鉱石に鉄鉱石、オリハルコン、アダマンタイトなど、神話級の物まで採掘できるこの場所はリスタルテ領にとって神聖な場所でもあった。

 そんな奥に眠っていたのだゴーレムが。

 

 全長3mはあろうか巨体。

 その体はまるで騎士甲冑のようで、手には鉄塊のような大剣が握られていた。

 どうやら時の流れによって動力は完全に死んでいるようで動くことはなかったが、当時の幼いリーグレットにはそのゴーレムが眩く光り輝いて見えたのだ。


 時の流れによる外装の風化はなく、神々しく佇むゴーレム。

 彼女はそのゴーレムが気になって仕方なかった。

 どうやって動いて、どんな攻撃が出来て、なにを目的に生み出されたのか。全てを知り尽くしたかった。

 

 だが、ゴーレムは古代の魔導技術で動いていた為、現在では解読不可能だと父に言われ、かなり落ち込んだ。


 だが彼女はどうしても諦めきれなかった。

 知りたい。解明したい、あわよくば作り上げたい! そう思うようになった。

 

 そこからはひたすら勉学に励んだ。

 古代に関する資料は完全に失われており、研究するのも一苦労だ。ましてや当時のリーグレットはまだ6歳。

 0からゴーレムを理解するのははっきり言って無理だと思われた。


 父にも難しすぎるからやめるように止められたが、止められると無性に挑戦してみたくなるのが子供の性だ。

 

 父の言葉を無視してリーグレットはゴーレムに必要だと思われる知識を学び続けた。

 使えもしない魔法に鉱石、体を流れる魔力についても。

 その努力は同年代の子供達をはるかに凌駕する程の知識をたった6の少女が身につけた。

 

 だがこれが苦痛だとも思わず、寧ろ楽しかったとリーグレットは記憶している。

 文字と記号、数字の羅列これらを0から頭に叩き込むのはかなりきつい物だったが、この理解出来ない知識の先にあのゴーレムが待っていると思うとリーグレットは俄然やる気になったのだ。


 そうして勉学に励み続け、ようやく試作ゴーレムが自作出来るようになったのはリーグレットが8歳の頃だ。

 掌サイズの小さなゴーレム。

 自分で動きお辞儀するだけのそれをリーグレットは、初等部でできた友達と魔力人形で遊ぶ為に作り上げたのだ。


 彼女の目論見通り、小さな自立するゴーレムは周りの目を惹き、数多くの友人ができた。

 嬉しかった。誇らしかった。努力が報われたような気がした。

 だが――その年の冬に事件が起きてしまう。

 友人の1人が彼女のゴーレムを自分が作り上げたと嘘をついて魔導学会へ提出したのだ。


 魔導学会……。

 魔導師が日夜魔法を研究する機関なのだが、そこで実力が認められると魔導師へと至ることが出来る。

 当時ゴーレムはまだ自作するまでの技術レベルはなかった。

 

 それが自作出来たとなると歳なんて関係なく魔導師になれるのは誰の目から見ても明らかだった。

 だが……現実はそう甘くはない。


 リーグレットを裏切った友友達は学会から理解できない専門用語、魔法の技術、素材、機能などの質問責めに苦しんでしまう。

 そんな講評会にリーグレットは現れた。

 彼女は友達が学会へゴーレムを持って行ってしまったと知ったからだ。

 裏切られたとはいえ、彼女は友達の力になりたかった。

 別にゴーレムなんていつでも作れるのだから成果ぐらいあげても良いと思っていたのだ。


 リーグレットはそんな友達の側に立ちゴーレムについてありとあらゆる質問に答えてみせた。

 開発者なのだから当然のことである。

 ただし、あくまで自分は友達の助手として立ち会ったと言葉を添えて……。


 だが魔導師の目は誤魔化せなかった。

 当たり前だ、肩や何一つ答えられない子供に、どんな質問にも即答で返してみせるリーグレット。

 そんな彼女が助手だと信じてもらうには無理があった。

 結果……。友達の嘘は公に晒されてしまった。


 リーグレットは賞賛されたが、心は曇っていた。

 なぜなら隣で俯く友達の顔が涙で濡れ、怒りの目を宿していたからだ。


「そんなに嬉しい? 私を馬鹿にして……そうやって自分が賢いって私達を馬鹿にしてたんでしょ!」


 その言葉をぶつけられた時……リーグレットの心が大きく砕けた。

 なぜ? なんで? どうして?

 自分はあなたの為にと思ってしたのに……。

 そう思うが言葉が出なかった。

 

 怖かったのだ。

 友達はその後もリーグレットへ罵詈雑言を吐き続けていた。

 それを見兼ねた魔導師達は友達を学会から退席させ、残されたリーグレットに言った。


「おめでとう。その知識、魔法技術、子供の身であれど放置するのは惜しい。是非この称号を受け取ってもらいたい」


 そう言って渡された杖の紋が入ったバッジ。

 これは魔導師しか持つことが許されない世の魔法使いがこぞって欲しがる名誉の証だ。

 それを8歳のリーグレットが受け取ってしまった。


「君はこれから【鋼鉄】と名乗るがいい。ようこそ魔の頂きへ。願う事ならこれから先、魔を導くものとして――」


 そこから先、なにやら物々しいことを言っていたような気がするがリーグレットは覚えていない。

 気が気ではなかったからだ。

 頭の中にあるのは友達の怒りに満ちた顔と言葉。

 ひどく胸が痛んでいた。


 魔導師となったリーグレットは翌日、学園へ顔を出すが、そこに自分の居場所はもうなくなっていた。

 誰もがリーグレットを住む世界の違う狂人、自分たちを蔑む異端として見てきたのだ。

 

 耐えられなかった、生きているのが辛かった。

 だから彼女は屋敷へ引きこもった。

 

 そこからはひたすら部屋に篭ってゴーレムを作り続ける毎日。

 魔導パーツを買い付け、組み上げ、新たな理論を構築し、出来上がった試作品を魔物相手に実験を行ったりした。

(私ら理想の友達を作るんだ……決して裏切ることのない完璧な友達を)

  

 そうして8年……結果はこの通り……友人0。

 これはリーグレットが望んだ結果なのだから悔いはない。悔いはないが……理解者が居ないのは心細いものだ。

 

 今の社交界で友人たちと笑顔で楽しんでいる学生たちをみて彼女は思う。

(私が本当に欲しい友達は人間なのに……)

 

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