臨時メンバー加入 ⑧
オーディールダンジョンでゴブリンの襲撃を見事退けた私たちは、レオンさんの命令でそのままダンジョンを出た。
……ん? まだ姉のレベル上げができてないし、手に入ったドロップ品は猪の肉とゴブリンの小さな魔石ぐらいなのに? どう計算しても、一泊分の宿代にもならないよ?
「まず、キッカ。その肉の魔物の種族名は?」
「へ?」
突然始まるレオンさんのクイズ大会。はて? 猪突猛進の猪の肉であることは間違いないけど、この世界での名前なんて知らないわよ。なんとなく、助けを求めて兄を見ると、兄も首を左右に振ってお手上げ状態。では、オタク知識を持つ姉へと促せば、姉はコクンと頷いて自信満々に答えた。
「ボアです!」
シーン……。
むっつりと黙るレオンさんと、あわあわと震える口元を両手で塞ぐティトさん。そして、レーゲンがバカにするように「クアアアッ」と鳴いた。
「よくわかった。お前たちは、本当に、本当~っに、知識がない! そのまま冒険者してたら、死ぬぞ!」
びゃっ、と橘家一同レオンさんの激に圧倒。そ……そんな、脅かさなくても、いいじゃない。
「あ、あのっ、魔物の名前と弱点と棲息場所とか、あの、あの、覚えておいたほうが……いいです」
ティトさんまで! そ、そうなのかな?
「どう思う? 正直、そんな知識のなさそうな冒険者なんて、あちこちにいそうだけど?」
「うう~ん。キッカ、でもそういう冒険者ってランクが低いとか? 俺たちは家を手に入れるためにランクを上げたいし……」
「あら、家購入の件なら、ティトさんの面倒を見るっていうサブマス直々の依頼を受けることで、ランクの問題はクリアになるんでしょう?」
姉の言葉に私と兄は、そういえばとファビオさんが出した依頼報酬を思い出す。
「じゃあ、別に魔物のこと勉強しなくてもいいか? ちょっとイヤだし」
苦労してランクを上げなくても、この陰気で気弱なハーフエルフのティトさんの面倒をしばらくみればいい。そうすれば、冒険者ギルドサブマスのお墨付きがもらえ、家を買うことができる……はず。ならば、わざわざグロイ図で魔物の弱点とか、耳慣れない魔物の名前とか覚える必要なんてない! しかも、家を買ってその街に定住すれば、魔物が出る街外に出ることもないし。どこに何の魔物がいるか知らなくても生きていけるわよ。
橘家が「なぁんだ」と呑気に胸を撫でおろしていると、ガツンとレオンさんが剣先を地面に叩きつける音が響いた。
「お前たち……本当に死にたいのか?」
「「「ひいいぃぃぃっ」」」
なんで? なんで、レオンさんが怒っているの? あと、ティトさんは関係ないから、いちいち私たちと一緒にビビらなくてもいいの。ちなみにさっきから小次郎は橘家としてのリアクションは取らず、どちらかというとレオンさん寄りの意見みたいだ。
「ゴブリンの知識はスラムで育つガキでも知っている。魔物のことを知らなければ、死に直結すると子どもでも理解しているからだ。この意味……わかるよな?」
レオンさんのドスの効いた低音ヴォイスに私たちは無言で必死に頷いた。ひぃぃーっ、怖い。
「お前たち……スタンピードに遭って国を出てきたのに、なんでそんなに呑気なんだ? 武器が扱えるのがコジローとアオイだけだし。キッカは攻撃できない。サクラは満足に逃げることもできない」
レオンさんの怒りのボルテージは下がりつつあるが、橘家に対する疑問はグイーンと上がっているような? これは、マズイ!
「はいはい! 反省しましたっ! 勉強しますっ。ちゃんと魔物のことも勉強して、地道にコツコツと魔物を退治して、堅実に冒険者ランクを上げていきます!」
なので、私たちが異世界からの召喚者で小次郎が「勇者」ということがバレませんように。そんな、私の祈りも知らずにレオンさんはその冷たい眼をわちゃわちゃと騒ぐブランたちに向ける。
「……キッカの従魔も教育が必要だな」
「クルルルッ」
「……ブランたちに教育ですか?」
なにそれ? ペットの躾みたいなもの?
結局、その日はそのまま宿まで帰った。
一人、オロオロとしていたティトさんだが、私たちのしょんぼりとした様子と、レーゲンによってビシバシと指導を入れられ不機嫌顔のブランたちを見て、一番側にいて安全と感じた小次郎にピッタリとくっついて離れない。
いや、そこは大人同士レオンさんと交友を深めなさいよっとツッコミたいけど、自分にも火の粉が降りかかりそうだから黙っておく。沈黙は金なのよ。
小次郎が困り顔でティトさんの相手をしてあげているから胸が痛むけれど、私たちは今夜、宿で繰り広げられるレオン先生の魔物講習で心がポッキリと折られている。ごめんよ……小次郎。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだよ」
「ここは、賄賂としてレオンさんに猪肉でご馳走を振る舞うべきでは?」
コソコソと悪企み中の兄妹。
「それはいいな。猪……ボタン鍋……じゃないか。うん、臭みもしっかりと取って食べ応えのある肉料理にしよう」
「……奴は甘味も好きですぜ」
「そうだったな。よし、卵とミルク……ふふふ、プリンでも作ってやるか」
「くくくくっ」
橘兄妹の思惑など知らず、いつものように無表情で街を歩くレオンさんに私はほくそ笑んだ。
「あれ? 菊華ちゃん。宿の前に誰かいるよ?」
小次郎が見つけたのは……うん、そうだよ。忘れてたけど、あの人たちだよ。




