臨時メンバー加入 ⑤
「治癒魔法」レベル5で治せる怪我はどの程度なのか?
オーディールダンジョン四階に挑戦する前に確認しておくべきことで、昨夜ティトさんの解説付きで履修済みである。本来、教会の講習で人体組織を習ってから「治癒魔法」を発動するのだが、姉はそのまま適当に「治癒魔法」を使っていた。適当と言うのは語弊があるが、元々この世界の教育レベルと私たちの世界の教育レベルが違うので、そこはなんとかなっていたみたい。でも、レベルが上がっても姉の「治癒魔法」ってしょぼいなぁと思っていた。
「とりあえず、骨が折れたらお姉ちゃんが治せるし、打ち身も大丈夫なのよね?」
「た……たぶん」
「たぶんじゃ困るのよ! あ……困らないわ、ティトさんがいるし」
私の視線を受けて、ティトさんがぶるりと震える。今日も、彼はエルフの耳とキレイなご尊顔を長くてもっさりとした髪の毛で隠していた。
「だ、だだだ、大丈夫よ! お姉ちゃんが治してあげるっ。菊華ちゃんがゴブリンに骨を折られても、猪に突撃されて全身打撲になっても! あとあと、豚さんに斬られてもちょっとなら治してあげられるからっ!」
「その前に助けてよっ!」
なんで私だけ、そんな重傷にならないといけないの! 魔物に攻撃される前に助けて、お願いだから。
「もう……ダンジョンに行くのが不安になっちゃった……」
ブランは主人を置いて走っていってしまうし……シンシャは威勢はいいけど弱いし……フォレスはどうだろう? フォレスに縋るように顔を向けるとクルリと首を後ろに回し、私の視線を避けられてしまった。
「菊華ちゃん! 僕が守るから平気だよ」
小次郎の健気さが泣ける。ちなみに兄はそっと顔を背けた。あれは、自分のことで精一杯という意思表示か? まあ兄のレベルではここの四階はギリギリだもんね。
「……何を言っているのかわからんが、お前たちはまとめて俺が守るから心配はいらないぞ?」
レオンさんの頼もしいセリフにレーゲンの鳴き声が重なる。……いっけね、レオンさんたちのこと忘れてた。
あははは。
「本当に、草原だ……」
オーディールダンジョンは塔型ダンジョンであり、実は十階までは外階段で行ける。全冒険者が使用できる階段ではなく、低層階なんてやってられるかっと堂々と言える高ランク冒険者様用の階段です。
「レオン様々だわ~」
一階から地味に上がってきたとしたら、四階に挑戦している途中でダンジョン内で一泊するハメになるところだった。レオンさんは「一度は経験しておけ」と言うが……まだ橘家はそこまで冒険者としての覚悟はありません。
「なので、レオンさんには感謝です。拝んておこう」
橘家が手を合わせレオンさんに頭を下げているのを見て、慌ててティトさんが真似をする。あんたはいいのよ。
「四階はアオイでギリギリ倒せる魔物が出る。布陣を変えていくぞ」
先頭というか斥候としてフォレス。その後をブランとレーゲン。小次郎と兄が続いて、その後ろに姉。私とティトさんがその後ろで一番最後がレオンさん。ヴェルディは安定の小次郎の背中に負ぶわれていて、シンシャは遊撃扱い……迷子にだけはならないでね。
「ティトさん。私、ほとんど攻撃する術がありません。テイマーですが……従魔の子たちが自由すぎるので。だから、ティトさん。私と橘家最弱の姉を守ってくださいね! お願いしますよ! 何かあったら晩御飯抜きにしますからね!」
「え? ええーっ!」
杖を両手に持ち上半身を仰け反らせるティトさんには悪いが、私たちの護衛を頼みます。昨日食べて感激していた兄の料理をお預けにするという拷問を受けたくなければ、頑張れティトさん!
「キッカ、俺もいるんだが?」
「レオンさんは本当に危なくなったら手を出して。今回も姉のレベル上げが目的です。レオンさんだと一撃で瞬殺しちゃうでしょ?」
そうなのだ。どうも魔物が弱すぎるとレーゲンとレオンさんのコンビは手加減が難しいらしく、瀕死の状態に止めることができない。でもね、そうしたら姉のレベル上げの経験値が得られないでしょ? だから、今回もレオンさんはできるだけ見学なのである。
「大丈夫。兄手作りの晩御飯は食べれます」
「じゃあ、いい」
しまった! イケメン冒険者レオンさんがただの食いしん坊キャラに成り下がってしまった……。ティトさんといいレオンさんといい、この世界は残念なイケメン冒険者が多いなっ。
「何してんだキッカ。そろそろ魔物と出くわすぞ? ちゃんと警戒してろよ?」
兄に注意を受け、私も改めてナイフを手に持つ。……最初は狼……はブランみたいで気が引けるから猪……は足が早いんだっけ? とりあえず、まだ覚悟ができてないからゴブリンとか二足歩行系とはエンカウントしませんように。
「ワンッ!」
ブランが一声吠えてから前へ駆け出していく。その先には旋回飛行をするフォレスがいた。
「出たよ。僕、行くね!」
小次郎も魔法鞄からスラリと聖剣を抜いて駆け出していってしまった。その小次郎の姿を見慣れている橘家とレオンさんはいいけど、初見のティトさんは「え……」と絶句。
「ほら、俺たちも行くぞ。サクラもレベルを上げるんだろう?」
「ひいーっ」
私もティトさんの腕を引っ張りつつ走り出した。




