トラブル発生 ⑦
私と熊男改めてギルドマスター略してギルマスの一触即発の場面で、執務室の扉がババーンと開かれた。今度はなに? だれ?
部屋にいた全員で扉から現れた人物へ視線を向けると、慌て出す人が一人。
「うわわわっ。なんで、お前が? まだ帰ってくる予定じゃねぇだろっ」
ギルマスが顔色を悪くしつつ、扉からスタスタと入ってくる人を指差し叫ぶ。
「帰ってきますよ。案の定、ここは問題が勃発してるし、捌かないといけない書類は溜まっている。私がいない間、貴方は何をしていたのですか? ギルドマスター」
「へ? ……いや、ちゃんと日々仕事をだなぁ」
顔を明後日の方向へ向け、モゴモゴと言い訳を口にするギルマスに、私は無情にもトドメの一言を発する。へへへ、ざまあみろ。
「いいえ、ギルドマスターはあっちにいる迷惑な冒険者パーティーを野放しにして、この小次郎が怪我をしました。しかも、正当防衛として従魔を放った私を極悪人のように執務室へ連行し、ただいま尋問中です」
ふんっだ。顔を険しく歪めて睨んできても怖くないよーだ。許されるなら、舌を出して「ベロベロバー」としたいところだ。いい大人だからやらないけどさ。
「菊華ちゃん。あんまりギルドマスターさんに反抗すると……ランクアップできなくなっちゃうよ」
コソッと耳に囁かれた小次郎の助言に、今度は私の顔が青褪める。し、しまったあぁぁぁぁっ。
「どういうことですか、ギルドマスター? 私、あのパーティーにはペナルティとして講習を受けることとFランクの依頼を二〇件与えるよう指示を出しておきましたよね? ペナルティの期間中に暴力問題を起こしたら、即座に冒険者資格をはく奪することも伝えてありましたよね?」
「イダダダダッ」
熊のように体のデカイ男が耳を引っ張られて悲鳴を上げている。なんとなく見てはいけない気がして、小次郎の両目を手で塞いでみた。ん? 耳? ……扉から入ってきたのは細身な男性。輝く金髪は背中を覆うほどに長くストレートでサラサラ。白くて小さな顔にはバランス良く配置された目・鼻・口。瞳は鮮やかなエメラルドグリーンで睫毛バサバサ。凛とした美しさが眩しいが男の人である。その人の耳が……。
「尖っている?」
これはまさか! 久々のファンタジー要素!
「エルフ?」
獣人はノイス国の難民キャンプで一緒だったモーリッツさん一家でご対面済みだったが、ここに来て純粋なエルフ族が! ちなみに「ライゼ」のパーティーメンバーであるカルラさんはエルフと猫獣人とのハーフなので、エルフは初めてです!
途中入場の謎のエルフさんがギルマスをボコボコに指導したあと、場を仕切り直してお話合いとなりました。痛々しい顔になったギルマスの隣に、優雅にエルフさんが座り紅茶をひと口……あ、私たちにも紅茶ください。
「で、ギルマスの仕事もしないで何をしていたんですか?」
ギロリと睨まれてギルマスの首が引っ込む。レオンさんの話では、ここイルブロンの冒険者ギルドで一番偉いのは、このギルマスだということだが?
「あのぅ、俺たちは先日この街に移動してきた冒険者で、俺が兄の葵、こっちが妹の桜、こっちも妹の菊華で、この子が小次郎です」
挨拶は大事とばかりに、橘家はペコリと頭を下げた。釣られてレオンさんまで頭を下げているが、あんたはいいのよ。
「先日、こちらのレオンさんに案内されてオーディールダンジョンに行ったとき、そっちの冒険者二人から小次郎が暴行と暴言を受けまして……」
はい、ここでチャラ男たちがモゴモゴと反論してるいが、残念! 猿轡で何言っているかわかんないわ。
「そのときはレオンさんが止めてくれたんですが。……今日、依頼達成の手続き中に、また、小次郎にわざとぶつかってきて、因縁をつけられました」
「……アオイの話に嘘はない。俺が証人だ」
レオンさんが胸を張って主張するが、その右手が兄へ菓子を請求しているのは賄賂とみなされるかもしれないから、やめてください。
「ふうっ。申し訳ありません。こちらの不手際でご迷惑をおかけしました。先ほども申し上げた通り、こっちの冒険者パーティーは素行不良が問題になりペナルティが課されるはずでした。この熊男が職務怠慢してなければっ」
「イテテテテテッ」
こんどは頬をぎゅむと抓られているギルマス。しかし、同情はしない! やっぱり、あんたの怠慢が原因じゃないの。
「君……小次郎くんだっけ? 怖い思いをさせてごめんね。もし、怪我をしているようだったら治癒士を呼ぶけど」
「あ、大丈夫です」
美しい顔を悲しみに染めて見つめられた小次郎は、頬をポッと桜色に染めて返事をした。やだ、かわいい。
「ああ、すみません。私はここイルブロンの冒険者ギルドのサブギルドマスターを務めてます、ファビオです。よろしく。そして、この体がデカイだけで使いものにならないボンクラが我がギルドのギルドマスター、グレゴリオです」
エルフの美人さん改めサブギルドマスター略してサブマスは、隣に座るギルマスにドゴッと肘打ちを決める。とっても痛そうである。
「うぐっ……。グ、グレゴリオだ。……すまんかった」
私たち、この街に定住して大丈夫かな?




