トラブル発生 ⑥
私の偏見なのか? 「治癒士」って「治癒魔法」特化型だと思ってた! 嘘でしょ? 攻撃魔法も使えんの? 小次郎に絡むチンピラ冒険者の仲間であるもっさり紫前髪の猫背で陰鬱な小柄な男が、金髪チャラ男の命令にぶるぶると小刻みに震えだす。あれ? 攻撃してこないのかな?
「早くしろっ。火炎攻撃でも氷結魔法でも構わねぇ。こいつらを殺せっ」
「ひぃーっ、ブランー、助けてーっ」
ガバッと小次郎を庇いつつブランに助けを求める。手加減している場合ではない。火炎とか氷結とか、命に関わる大問題じゃない!
「菊華ーっ!」
兄が姉の頭を抑えつつこちらへ手を伸ばす。姉は、金髪チャラ男たちの顔を引っ掻こうと手をワキワキと動かしているけど、届く距離じゃないでしょ。まったく、橘家は女性の方が攻撃性が強い。そういえば……母も喧嘩っ早い人だった。
「ガウッ!」
ブランの吠える声と誰かのか細い悲鳴が重なったとき、聞いたことのない野太い声がその場を制した。
「なんの騒ぎだっ!」
ダンッと床を強く踏み鳴らす音が耳に刺さる。その人の発する威圧がビリビリと周りを刺激し、シーンと広いギルドの一階フロアが静寂に包まれた。
……ん? 助かったのかな? この場合攻撃魔法から逃れられた私たちが助かったのか、ブランたち従魔の攻撃を避けられたあいつらが助かったのか微妙なところだけど。
「また、お前らかっ。新人冒険者に絡むなと言ってんだろうがっ」
ゴツンと金髪チャラ男たちが殴られていく。魔法使いの紫髪の男だけは難を逃れられたみたいだが、かわいそうなぐらいに怯えていた。
熊みたいな救世主? の後ろからしょぼんとしたレオンさんが歩いてきた。……あの打ちひしがれたレオンさんでは、頼りにならない。ただのイケメンに成り下がっている。
「ん? 見ない顔だな。従魔まで暴れさせやがって。ちょっとお前ら、俺の部屋まで来い」
グイッと小次郎の襟首を掴んで持ち上げる熊男。おおーい、ちょっと待って!
「小次郎を返しなさい! 子どもに乱暴なことしないでよっ。こっちよりもあいつらを捕まえたら? ブランたちもこっちに戻ってきて」
ギロッと熊男を睨みその手から小次郎を取り戻す。小次郎は何が起きたのかわからない、きょとん顔である。ブランたちは足早にこちらへ戻り、ガルルルッと熊男に威嚇していた。
「……ちっ、躾がなってねぇぞ」
聞こえてますけど? なにこの男、ムカつく。怒りのボルテージが上がりまくる私の姿に、レオンさんはため息を吐いて熊男の正体を明かしてくれた。
「キッカ、落ち着け。こいつはこのイルブロンの冒険者ギルドのギルドマスターだ。とりあえず、ここで一番偉い」
「おいっ、言い方に悪意があるぞ」
ギルドマスター……一番偉い……。確か冒険者のランクを上げるにはそれぞれの達成条件のクリアと、ギルドマスターの承認が必要なはず。橘家が目指しているCランクには当然、この熊男に認められるのが必須条件……。しまった! やらかしてしまったああぁぁぁっ。
ぐぬぬっと苦悩している私に、レオンさんはいつもと変わらない声で「ほら、いくぞ」と腕を引っ張った。
熊男の俺の部屋とは、ギルドマスターの執務室であり、ペーペーの冒険者が入室できる部屋ではない。私だって入りたくなかったやい。
ドカリとソファーのど真ん中に足を広げて座るギルドマスターの向かい側に、私と小次郎、レオンさんが座る。私の後ろには兄と姉が立っているが姉は深くフードを被り顔は見せない。絶対に見せない。例え熊男に「見せろ」とせがまれても見せない。ギルドマスターが姉のストーカーにならないという保証はない! そして私たちの前にはブランたちがちょこんと座っている。いざというときには、その牙をむけ!
チンピラ冒険者は部屋の隅で正座です。後ろ手に縛られて武器を取り上げられて正座してますよ、ざまぁ。
「レオンの話だと、オーディールダンジョンの前でもこいつらに絡まれたって?」
ガシガシと短い髪を掻いて熊男が質問してくるから、答えてやる。兄が懇切丁寧に。こういう場面では兄が適任だ。
「ええ。今回と同様、小次郎にぶつかって文句を言ってきました。そのときはレオンさんが間に入ってくれましたが……」
そうよ、レオンさんが物理的に排除してくれたわよ。奴の手首の骨、折ったんじゃない? そこの紫髪くんが治してたみたいだけど。
「ふうーっ。こいつらはなぁ……自分より弱い新人の冒険者に絡んでは暴力沙汰になる厄介な奴らなんだ」
困った困ったと頭を左右に振る熊男、ちょっと待て、お前。
「それって、問題の多い冒険者パーティーをギルドでは把握しながら対処もせず、放っておいたってことですよね? そちらの職務怠慢でうちの小次郎が怪我させられたってことですよね?」
ドンッとテーブルを叩いて、ズズイッと熊男に顔を近づけ凄む私。だって、この熊男は、ギルド一階の騒ぎのとき「また」って言ったのよ。「またお前らか」って。それって知ってて放っておいた。問題を起こしてもペナルティもなしに放置していたってことでしょ?
「ああん? 小娘。誰に向かって口をきいてる?」
奇しくも金髪チャラ男たちと同じセリフを向けられた。ははあん、あんたも所詮、そいつらと同じレベルってことね! いいじゃん、やってやるわよ。私は腕まくりをして口撃をかまそうとした……その瞬間、バンッと執務室のドアがけたたましく開かれた!




