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迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~  作者: 沢野 りお
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

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レッツ ダンジョン! ⑩

レベルが上がってもピコーンと通知音は鳴らないらしい。

でも鳴ったよ? ピコーンと。そもそも、レベルが低いから上がったとしても特に変わらないと思うが、地道に努力した結果のようで単純に嬉しい。真面目にコツコツとネズミをぶっ倒してよかった。……なんか、改めて考えるとヒドイ所業だよ。


「レベルが上がると力が強くなったとか、素早くなったとかわかるの?」


姉がもしゃもしゃと焼き菓子を咀嚼しつつ聞いてくる。口の周りに食べカスを付けた成人女性よ……。


「う~ん、ぶっちゃけ何も変わらない。力が漲るとか頭が冴えるとかオーラが噴き出すとか……まったく」


私がフルフルと頭を左右に振ると、レオンさんが頭が痛いと眉間にシワを寄せた。でも、お菓子を食べる手は止まらない。イケメン設定が遠のくよ……。


「レベルが上がったことは魔物との闘いや魔法の威力変化で気づくものだ。キッカみたいにピコーンと音なぞ鳴らない。しかも、ピコーンなんて間抜けな音では、気持ちが下がるだけだ」


「そうですか?」


私はピコーンと鳴ったとき、嬉しかったけど?


「ああ、レオンさん。うちには小次郎がいるからその点は確認が早いですよ。小次郎ーっ、ちょっと菊華のステータスを見てやってくれ」


「あ、はい」


ゴクゴクとミルクを飲み干し、小次郎がじぃーっと私の顔を()る。


「……あ、レベルが上がっているよ。あとは……」


小次郎の眼に力が篭るのを感じ、無意識に私も息を詰めた。


「HPはあまり増えてないけど、MPは増えている。『手芸創作』のレベルも一つ上がったよ」


ニコーッと笑って教えてくれる小次郎はかわいいが、『手芸創作』スキルのレベルは上がったとして、何の効果があるのだろう?


「そのスキルでこいつらが動いているんだろう?」


レオンさんの指摘に私は隣に伏せているブランをチラリと見る。


「そうですけど……。ねぇ、ブラン? あんた何か変わった?」


私の言葉にブランは閉じていた目を片目だけ開けたが、すぐにまた閉じてしまった。こりゃ、何も変化なしだわ。フォレスもシンシャもヴェルディにも変化は見られないし、期待したキラキラとした眼で見てくる姉には悪いが、リオンは動かない編みぐるみのままである。


「何も変化なしです」


残念。私も兄のようにスキルが成長したり、私自身に新しいスキルが生えたりすることを期待したが、たかがレベルが一つ上がったぐらいでは、ほぼほぼ現状維持なのね。


「ううっ。リオンちゃん」


姉が動かない編みぐるみに頬ずりして泣いている。そのリオンを動かすためには、私のスキルアップではなく、自分のレベルアップが重要だということを理解しろ。







































「ふぅっ。今日はここまでにしよう」


兄が、かいてもいない額の汗を拭い宣言すると、姉はパアーッと顔を輝かした。


「結局、二階には行けなかったわね」


相変わらず、力加減の下手なブランがネズミをぶちかまし、気合が入り過ぎたシンシャも姉の獲物を横取りした。仲間の暴挙に呆れたフォレスは兄のためにとネズミ以外の魔物を誘導してくるから、兄と小次郎も剣を握って振り回すことになった。

そのお零れを頂けた私のレベルもまた上がり、初日のダンジョンアタックとしてはまあまあな結果だ。


……約一名を除いては。


「なんで……なんで私のレベルは上がらないのぉぉっ、菊華ちゃん!」


「やっぱ治癒魔法のせいじゃない?」


姉のオタク知識によると、職業によってレベルの上がり方が違うらしい。「勇者」である小次郎は最初は他のジョブと変わらないが後半は上がりにくくなるとか。反対にレベルが上がるのは早いけど能力はイマイチなジョブがあるとか。

答えを出したくはないけど、たぶん能力がイマイチなジョブが私で、レベルが上がりにくいのが姉のジョブであろう。治癒魔法のせいだとしたら、回復士とか治癒士……聖女とか? あーはははっ、姉が聖女? 嘘でしょ? それは見た目だけです。


「レオンさんたちって、ほいほいレベルが上がったりします?」


「……レベルより冒険者ランクを重視するから考えたこともない。それに、シルビオたちもレベルはそこそこあるから、よっぽどの強敵と当たらないと上がらないだろう」


……でしょうね。ちなみに例のワイバーン討伐のときはどうだったのか聞いたら、一つぐらいは上がったかもしれないという微妙な答えでした。


ぞろぞろとダンジョンの出口に向かって歩いていると、やや右の壁の奥でキャーキャーと騒ぐ子どもの声が聞こえた。


「え? 子ども?」


こんな危ない場所に? と怪訝そうな顔で壁の暗がりを睨みつけていると、兄がポンポンと肩を叩く。


「いや、小次郎も子どもだから。ダンジョンの一階は孤児院の子どもや困窮している家庭の子どもには解放されているんだよ。冒険者ギルド職員が付き添いでいるはずだから、大丈夫だろ」


「そうなの?」


そのわりには、ものすごい声でキャーキャー叫んでいるけど?


「いや、様子がおかしい。アオイ、フォレスを偵察に飛ばせ」


「へ? ああ、はい。フォレス!」


兄に名前を呼ばれたフォレスは「ホーッ」と鳴いて暗がりへと翼を動かした。


「ブ、ブランも様子見てきてよ」


ポンッとブランのお尻を叩くと、「ワンッ」と答えてダダーッと走り去っていった。……いや、はしゃいでる場合じゃないでしょ。


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