レッツ ダンジョン! ⑧
昨日も訪れたイルブロンの街東側にあるタワー型ダンジョン「オーディール」の前で、橘家は整列してゴクリと喉を鳴らし上を見上げた。
「とうとう、今日から本格的にダンジョンでの活動だ」
兄の緊張した声に、私の背筋がブルブルと震える。武者震いだと思いたい。
「そんなに気負わなくていい。どうせ、一階は駆け出しの冒険者でも楽勝で倒せる、ネズミ型の魔物がメインだ」
後ろに立つレオンさんが呆れ顔で励ましてくれるけど……小次郎というイレギュラーな存在がいるから、安心はできない。姉の予想通りに厄介な勇者の試練が降りかかるかもしれないのだ。
「お兄ちゃん、昨日の作戦通りに」
私と兄が視線を合わせて強く頷きあう。
「よし、フォレス。お前は罠に注意しながら、俺たちが強い魔物に遭遇しないよう気配察知もよろしくな!」
兄の肩から右腕に飛び移ってきたフォレスは、右の翼を上に掲げて「ホゥーッ」と可愛く鳴いた。
「いい、ブラン! とにかく魔物をぶっ倒して爆走しないで! お姉ちゃんのレベル上げが目的なんだから、致命傷を与えないように気を付けて攻撃しなさい」
「きゅうん?」
私の編みぐるみ、白犬ではなくて狼のブランは、ダンジョンに挑戦するということで今日は大型犬のサイズで同行しています。そして、やる気漲る尻尾のふりふり加減に嫌な予感がして、ついつい注意をしてみればクリクリお目々で見つめて小首を傾げてくる。バカだなぁと思いつつかわいいから思わずもふもふしてしまう。もふもふ。
「シンシャも一人で突っ込んでいかないで、僕の横から離れないこと。武器を振り回すのは危ないからこっちの小さなナイフを持って」
私の隣では、小次郎がメインクーン大になったシンシャに注意をしながら、甲斐甲斐しくお世話をしている。シンシャはレイピアを名残惜しそうに腰のベルトに戻し、小次郎からもらったナイフの柄をギュッと握った。
あれ……肉球よね? どうやって握っているのかな?
ちなみに、同じく小次郎の編みぐるみであるヴェルデは、今日も小次郎の腕の中でぐでぇとダラけている。あれ……ダンジョンの中じゃ邪魔なのでは?
「小次郎ちゃん。ヴェルデが邪魔にならないように背負いましょうか?」
姉がどこからか幅広の紐を取り出し、赤子を背負うようにヴェルディを小次郎の背中に括りつけた。え? それでダンジョンチャレンジするの?
「ダンジョン内での布陣は、先頭がフォレス、次が菊華とブラン、真ん中が桜と小次郎で俺、最後がレオンさんとレーゲンで」
「いいだろう」
レオンさんが満足そうに頷いた。レーゲンはレオンさんのマントから離れてフヨフヨと飛んでいる。あのミニサイズのままでいいのかな?
「このダンジョンの一階はネズミ型の魔物がメインだ。街の外の原っぱにも出没するミニュラット、森の浅い場所にいるピッコラット、それと初心者冒険者が侮ると怪我をするアラビラットが中心だ。魔法を使うタイプはいないが、動きが素早く、爪と牙には微弱な毒があるから気をつけるように」
橘家一同、「はーい」と右手を上げてお返事をする。ふむふむ、素早くて微弱な毒持ち……なんか前の世界のドブネズミみたいね。大きさもミニュラットとピッコラットがハムスターサイズで、アラビラットがネズミサイズらしい。
「レオンさんだったら、そのネズミ型魔物たちはどう倒します?」
「わざわざ倒す手間などかけたくないが……火魔法で焼くな」
……マジか。相手は魔物ではあるがちょっと同情する。火あぶりなんてかわいそう……でも魔物だしな。たかが、最弱なネズミ型魔物と侮っていても、子どもが犠牲になるのは後が絶たないと言うし……やっぱ火あぶりだな。うん、見つけ次第やっつけよう。
「お姉ちゃん、ネズミ型魔物を倒しまくるわよっ」
「ええーっ、お姉ちゃん怖いわ……」
「何を弱気な。いい? ネズミ型魔物を倒して経験値を得られるのはお姉ちゃんぐらいなの。もう小次郎はネズミ型魔物を倒しても成長しないのよ? お姉ちゃんがいつまでも一階でグズグズしていたら、小次郎のレベル上げができないでしょう!」
私はそう言い切ると、姉の手を引っ張りズンズンとダンジョンに向かって歩き始める。
「え? ええ? ちょっと待って、菊華ちゃ~ん」
うるさい。パパッとネズミ型魔物を駆逐してレベルを上げるのよ!
ダンジョン前にいるギルド職員にギルドカードを提示して、ダンジョンの扉をくぐる。昨日も入ったときに思ったが、暗い。カンテラを手にフォレスの後を追うように歩く。
「ブラン、私を置いて走り出したら、毛糸に戻すからね!」
「キャンっ!」
ぴょんと跳ねたブランはブルブルと震えた体でこちらを振り返った。バサバサと振られた尻尾は股の間に入ってしまっている。そんなに、怖かったのかな?
「ちゃんと私を守りつつ、お姉ちゃんが止めを刺せるようにネズミを攻撃すればいいの。そうしたら褒めてあげるわ」
「ワフッ」
褒めてもらえると現金に思ったブランの尻尾はピンと伸び、口を開けてハッハッと笑ってるみたいだ。
「早く行かないと後が詰まるぞ」
レオンさんの言葉に、私たちはやや小走りでダンジョン内へと突入する。




