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迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~  作者: 沢野 りお
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

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レッツ ダンジョン! ⑦

ゴソゴソと隣のベッドから姉が寝返りをする音が聞こえる。ずっと聞こえる。あー、ゴソゴソうるさいっ!


「ちょっと、お姉ちゃん!」


ガバッと布団を跳ね除けて起き上がれば、姉がへにょんとした眉の情けない顔でこちらを見上げた。


「……どうしたの?」


「だって……菊華ちゃんが小次郎ちゃんのこと……」


語尾を詰まらせ俯く姉に、私はため息を漏らしてベッドの上で胡坐をかいた。


「不安なの? 私が小次郎のレベル上げもするように言ったから?」


そう、橘家はまず治安の良い街の土地家屋を手に入れるため、パーティーランクを上げることを第一目標にしてダンジョンに潜ろうとしている。そして、安定した収入を得るために、一番就職するのに有利なスキルを持つ姉のレベル上げを画策している。姉のスキル「治癒魔法」のレベルが上がれば教会や治癒院での仕事を得ることができる。ただ、今の姉のレベルでは擦り傷とか切り傷ぐらいしか治せず、正直舐めとけば治るレベルなのだ。なので、姉単独でも、強制的にダンジョンでレベル上げすることが決定している。姉に拒否権はない。


でも、小次郎は今でも橘家で随一の攻撃力を持ち、アホ神から「聖剣」も授けられ、「勇者」のチートスキル持ちだから、わざわざ過酷なレベル上げをする必要はない。地道にコツコツと上げていけばいいはず……だけど……。


「あのね、お姉ちゃん。小次郎はさぁ、まだ私たちに遠慮してるんだよね。しかも、「勇者召喚」とかふざけたことで異世界に転移させられて……それも、自分が勇者だからだって、巻き込んだ私たちに対して負い目を持っている」


そんなことないのにね。悪いのは召喚したあの国の奴らで、巻き込まれたのは小次郎も同じ。だけど、小次郎は私たちに責任を感じている。だから、危ない目に遭っても私たちに何かしようとする。


「……あの子さぁ、パーティーランクを上げるために強い魔物を倒そうとか、自分が盾になって私たちを守ろうとか考えてるみたい」


幾度も目にした、小次郎が強く拳を握り強い決意を込めた眼差し……それは、きっとそういうことなんだと思う。


「だったら、尚更レベル上げて強くさせたら、無理をするんじゃないの?」


「そうだけど……どうせ無理をするなら確実に力をつけさせてあげたい。すごいスキルがあってもレベルが低いと弱いままだし」


とにかく、小次郎が怪我をしなければいいの! 私が創った編みぐるみのシンシャもヴェルディも強さがいまいちわからないし。だったら、小次郎のレベル上げをするしかないよ。


「小次郎ちゃん……勇者だものね。勇者だから、きっと行く場所行く場所で厄介な揉め事に巻き込まれて、ダンジョンでは強敵とぶつかって数々の試練を越えて強くなるのね」


「…………え? なにそれ?」


勇者ってそうなの? 私は、アホ神のせいで厄介なことがあるかもって心配はしたけど、そんな因果が勇者に回るなんて知らないんだけど?


「あらだって、アニメだってゲームだって、勇者には試練が付きものよ? そうして苦労して死ぬような目に遭って強くなるんだもの」


「……いやいやいや、勇者って小次郎だからね? あんな子どもに死ぬような試練ってなによ? 鬼なの?」


アホ神の野郎は神様じゃなくて鬼だったか?


「それが定番なのよねぇ~」


姉は呑気に手を頬にあてて悩ましげに息を吐くが、状況を理解しているのだろうか?


「お姉ちゃん、小次郎が死ぬような目に遭うってことは、一緒にいる橘家も同じ災難に遭うの! いい? 誰かが瀕死の状態になったときにお姉ちゃんがいつまでも切り傷擦り傷しか治せなかったら、誰かが死んじゃうからね!」


ビシッと人差し指で姉の鼻を突くと、私はふんっと鼻息荒く姉を見下ろし無言で布団を被ってしまう。姉がオロオロと泣きそうな顔で「ど、ど、どどどどど、どうしましょう」と動揺しているが、知るもんかっ。


せめて、その余計なオタク知識を小次郎と自分のレベル上げに活かしてちょうだい。
























朝。


昨夜は姉にちょっと言いすぎたかなぁと、後ろめたい気持ちで隣のベッドを覗けば、姉がヨダレを垂らしてスヤスヤと寝ていた。……うん、謝らなくていいや。


そっと部屋を出ると狭いリビングには朝食の準備をする兄とその手伝いをする小次郎がいて、レオンさんは涼しい顔でトレーニングをしていた。誰? レオンさんにラジオ体操教えた奴はっ。


「おはよう、お兄ちゃん。レオンさんに何をやらせてるの?」


「おはよう、菊華。え? いいだろうラジオ体操。全身動かせるし」


きょとん顔の兄に、イケメンに対する悪意がないことは理解した。ちなみにレーゲンもレオンさんの隣で小さい姿でぴょこぴょこ動いている。それはかわいい。


「おはよう、菊華ちゃん」


「おはよう、小次郎。……シンシャは何をしているの?」


両手で一枚のお皿を持ち真剣な顔でそろりそろりと二本足で歩いているのは、ケットシーのシンシャだ。


「うん、お手伝いしたいって」


ピカーっと満面の笑みで言われて、私は何も言い返せなかった。そして、シンシャはガシャンとお皿を割った。……でしょうね。


ああ……今日も騒がしい一日になりそう。


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