レッツ ダンジョン! ⑥
喜んだのも束の間、よくよくタワー型ダンジョン「オーディール」の依頼内容を確認したら、魔物討伐依頼は確かに常設依頼として発せられていたが、その討伐数が問題だった。
「嘘でしょ! あのネズミを百匹倒して依頼一件分なの!」
どうやら、倒す魔物の強さによって必要数が違うらしく、最弱魔物のネズミ型は百匹倒さないと依頼を達成したことにならなかった。それって別の依頼に手を出したほうがいいのでは?
「う~む、犬型だと五十体、猪で三十体か……。一日で一件分片付けられるかどうかだな……」
「いや、無理でしょ?」
橘家パーティーは最低ランク冒険者パーティーで、攻撃できるのは小次郎とかろうじて兄だけ。ここでイケメン冒険者のレオンさんに助力してもらおうにも、最低ランクの依頼に高ランク冒険者のヘルプがあったとしたら、それは依頼を達成したとは認められない。つまり骨折り損のくたびれ儲けである。
「ブランたちが助けてくれれば、たぶん倒せるよ」
小次郎がふんすふんすと鼻息荒く主張してくるが……まだ小学生の子どもと愛くるしい編みぐるみ隊にそんな血生臭い虐殺仕事を押し付けるのは心が痛む。
「どっちにしてもサクラのレベルを上げるんだろう?」
「そうですね。幸いギルドの依頼には期間が設けられてないので、数日かけて地道に片付けます」
姉がレベルを上げることが第一だし……、どうせ頑張っても私と姉はネズミ型魔物を倒すので精一杯だ。ちょっと……ナイフで犬型魔物とか猪とかは……無理かな? お肉は美味しいけど。
「菊華ちゃん、お姉ちゃんは百匹もネズミを倒すなら、強い魔物を数体倒すほうがいいなぁ」
「はぁ? 強い魔物って、こっちが危ないでしょうがっ!」
姉の呑気な言葉に、私は目をギラリと光らせて怒鳴ってみた。ネズミ型魔物百匹相当の魔物ってどんな強さだと思ってんの!
「え~、でもぉ~」
姉は口をちょんと尖らせると、チラチラとブランたちへ視線を向ける。あ~、つまりブランたちなら強い魔物相手でも大丈夫なのでは? ってことね。
「言ったでしょ。お姉ちゃんのレベルも上げる必要があるの。ブランたちで強い魔物を倒してもらって依頼件数を稼いでも、お姉ちゃんのレベルが上がらなかったらしょうがないでしょ」
それとも、接待討伐で瀕死の魔物にナイフで一突きしてみる? 手負いの獣の反撃でもしもの場合もあるけど? と私が脅したら青い顔でぷるぷると震え始めたので、姉を虐めるのはここまでとしよう。まったく、オタク知識を活かしてバンバンレベリングしてほしいのに、実際はキャーキャー騒ぐだけなんだから。
「キッカは大丈夫なのか? 魔物を倒すのも解体するのも慣れていなかったが?」
レオンさんが怖い顔で尋ねてきた。ううん、知ってる。このレオンさんの怖い顔は心配している顔だ。無表情で怖いけど。
「倒すのは……まだ。でも解体は兄に習って少しずつ慣れてきました」
血や匂いには耐性ができても、生き物の体にナイフを刺す、あの嫌な感触には慣れたくないし、慣れちゃダメだと思っている。そうレオンさんに話すと、レオンさんは「慣れたほうが気持ちが楽になるのに」と呟いていた。
さて、宿に帰ってきて兄の作った夕食……なんか豚の角煮みたいな料理が出てきたけど、どうやって作ったの? へ? 生活魔法を駆使して圧力鍋みたいな技を生み出した? 醤油は? え? 醬油みたいな味がする魔物の血がある? ……美味しいから、まぁいいか。
そして、各自お湯で体を拭いたらおやすみなさ~い……の前に、兄の部屋へ橘家集合です。
「どうした?」
「お兄ちゃん、明日からのダンジョンアタックの予定を考えよう」
バササッと姉がダンジョンの地図を広げる。
「……いや、予定って一階をグルグル回って桜のレベル上げだろ?」
「そうだけど、ギルドのオーディールの魔物討伐の依頼は受けようと思っているの。どうせ魔物を倒すなら受けておいて損はないでしょ?」
依頼を受けるときは、ダンジョンに入る前に倒した魔物の種類と数をカウントできる魔道具を借りる。それをギルドに提示して、依頼達成の証とするのだ。どうやら冒険者ギルドカードにも似たような機能があるらしいけど、どこで倒したという情報は反映されないので、オーディール独自の魔道具を持参するのだ。
「……つまり?」
兄が腕を組んでこてんと首を傾げる。
「つまり、明日一日でどれだけの魔物を倒すとか、お姉ちゃんのレベルがどれだけ上がったら二階以上のフロアに挑戦するとか。……あと小次郎のレベルも上げたいの」
後半は小声でコソコソと離したら、小次郎に聞こえたのかピクッと頭を動かしていた。
「僕のレベル?」
「うん……。私たちは生活する上で必要な強さがあればいいし。ランクを上げたいのも家とか買いたいものがあるからだけど……、小次郎は「勇者」だから、もしかしたら厄介ごとがあちらからやってくる気がするの……」
勇者召喚したあのクズ王国からは逃げられたけど、なんか運命からは逃げられないっていうか……あのアホ神の野郎が隠している何かがありそうっていうか……とにかく、不安なのよねぇ。




