レッツ ダンジョン! ④
新人冒険者が柄の悪い先輩冒険者に絡まれるという異世界テンプレも経験したところで、私たちの目の前にドドーンとそびえるのはタワー型ダンジョン「オーディール」です。改めて見上げると……高~いっ。
見れば見るほど「ピサの斜塔」にそっくりで、ちょっと懐かしい気持ちまでしてきたわ。おっとと、こんなところで海外旅行気分になっている場合じゃなかった。
キョロキョロとダンジョンの入り口辺りを見回せば、店舗がチラホラとあるのが見えた。これから、ダンジョンに潜る冒険者用にポーションや干し肉などの保存食を売っているお店と、武器のお手入れをしてくれるお店もあるみたい。
「あっちにあるのが、冒険者ギルドの出張所だ。ダンジョンに出入りする冒険者の確認をしている」
「へぇ~。勝手に入っちゃダメなんですか?」
私の素朴な質問に、レオンさんの眉間にシワが寄る。
「以前もシルビオが説明したと思うが? まあ、いい。ダンジョンには冒険者の出入りをチェックするギルド職員又は魔道具が設置されている」
以前シルビオさんに教えてもらっていたことは、冒険者稼業をすると思っていなかったので私の頭の中からすっかり忘れて抜け落ちていたけど、レオンさんの説明によると冒険者の出入りをチェックするには、二つの理由がある。
まずは犯罪やトラブルのときの責任の所在など。たまに、ダンジョンでとんでもないトラブルを起こしたくせに逃げる奴がいるらしい。そのときは、所謂状況証拠を集めて、その冒険者を罰する決まりがある。
もう一つは、ダンジョンで何かがあったときの救済処置のため。大勢の冒険者や長期に渡って高ランク冒険者パーティーが戻らない場合は、ギルドからの特別依頼として救助活動が行われる。個人で救助依頼を頼みたいときは、事前に冒険者ギルド職員に申し出て、前金を治めておくとのこと。……低いランク冒険者や少数の冒険者がダンジョンに潜って戻ってこなくても冒険者ギルドは関知しない。自業自得の世界なのだ。
……私たちは救助依頼しておこうか?
「必要ない」
レオンさんに言い切られてしまった……。えー、本当に大丈夫?
「まあまあ、今日は様子見に一階フロアをちょっとだけだから。いざとなったらレオンさんもレーゲンもいるし。あっ、イテテ」
頼りになるのはレオンさんたちと兄が口を滑らせたから、懐のポケットからフォレスが啄んだようだ。フォレスにしてみれば、兄は自分が守るという意思の現れで、羨ましい主従関係だよ。私のブランは足元をちょこちょこと走り回っているからね。ダンジョンに行くって興奮しているっぽい。
彼ら編みぐるみ隊の従魔登録は、テイマーとして冒険者登録している私がしているが、従魔の証である登録タグの魔石へ注入した魔力はそれぞれのものだ。私はブランに、兄はフォレスに、小次郎はシンシャとヴェルデに。
登録した私が全員分の魔石に魔力を注ぐのでは? と思ったが、テイマーが従えた魔獣を人に貸し出したり譲渡することは多々あり、その場合の従魔の責任はテイマーではなく、直接使役している者にある。その理屈で登録タグは使役する本人の魔力を注入する。ちなみに譲渡する場合は一定期間様子を見て、主と従魔に問題がない場合のみ冒険者ギルドにて譲渡契約が結べる。
「俺はいま、フォレスを菊華から借りている状態なんだな」
「そうみたい」
パーティー間や家族間では、完全譲渡ではなく貸出の状態でも問題はないみたいなので、橘家はしばらく私の従魔を家族に貸している状態のままにします。ええ、ええ、譲渡契約のために冒険者ギルドでフォレスたちの正体がバレたら恐ろしいもの。
「なにか、ダンジョンに入る前に用意しておくものはあるか?」
「そうねぇ、水の確保と念のため食料を少し……」
水も食べ物も兄の魔法鞄に入っているけど、周りには知られたくないからカモフラージュのために買っておこう。しかも、ダンジョン周りの店の商品はちょっと割高だし……。異世界でも商売の基本って変わらないのね。世知辛いわ……。
「菊華ちゃん、地図は売ってないかしら?」
ツンツンと姉に袖を引っ張られた。散々、私と小次郎でフードを被せまくったからか、姉は顔の前でフードの左右を握りしめ、完璧に顔を隠し怪しい人と化している。それって、返って目立つのでは?
「サクラ。成長ダンジョンの場合は地図は冒険者ギルドでの販売のみ信頼できる。ここら辺の店で地図を買っても古い場合は役に立たないぞ」
……買った地図が古いと実際のダンジョンフロアとは違うってことね。
「お姉ちゃん、地図なんて別に買わなくてもいいでしょ。いつ、使えなくなるかわからないんだし」
私がもったいないオバケのごとく姉に言うと、姉は口を尖らせてブツブツと呟く。
「でも、地図にはセーフティーエリアも階段の位置も書いてあるし……。強い魔物の出没頻度の高い場所や罠も書き込んであるの。ああ、宝箱だって書いてあるのよ? なのに……地図なしでフロアをウロウロしてたら、その分魔物と戦わないといけないし……」
そういう重要なことは、もっとハッキリと口に出して主張してよっ。
「しょうがない。オーディールの低層階の地図を買ってから入ろう」
そして、効率よくダンジョンを周り、宝箱を手にするのよ! うふふ。




