レッツ ダンジョン! ③
一人は金髪で装飾過多な剣を持った細身のチャラ男。小次郎にぶつかってきたゴツイ体の男は黒髪の短髪で、わざとらしく左頬に傷があり、背中に大きな盾を背負っていた。目立つ二人の後ろに猫背で杖を両手に握り長い前髪から覗き見ている小柄な男は陰気くさい。髪色が紫色というファンタジーらしい出で立ちだが、存在が暗い。
そんな三人組の冒険者パーティーは、まだ幼い小次郎に難癖をつけてきた。
「おいおい、ここはタワー型ダンジョンオーディールだぜ? 子どもの遊び場にするには、ちぃと厳しいんじゃないか?」
ツンツンと剣先で小次郎の足を突くので、兄の手がパシッと剣を払う。
「俺たち冒険者さまの邪魔をするなんて、躾がなってねぇなっ」
ダンッと足を踏み鳴らし、凶悪な顔を小次郎に近づけてきたから、私は慌てて姉のマントのフードを深く被せた。こんな男に姉の美貌が晒されたら、絶対に厄介なことになるっ! モガモガと藻掻く姉の体をギュッと抱きしめて拘束する。こ、こんなときにバカ力を出さないでよね。
「……なんだ、お前ら。ぶつかっておいて謝ることもできないのか?」
ワントーン低くなった剣士の男の声に、小次郎の肩がピクリと反応する。や、やめて~っ、小次郎まで変な騒ぎを起こさないで~っ。私の泣きが聞こえたわけじゃないだろうけど、兄が三人に向かって頭を下げた。
「すみません。どうか、お許しください」
伊達に大学を卒業して一流企業で働いて精神のバランスを崩した兄ではない。すんなりと三人の冒険者に謝ってみせた。
「あ~痛ぇ。ぶつかった足が痛ぇ、痛ぇ」
どう見ても小次郎がぶつかったぐらいじゃ怪我なんてしそうにもない太い足を両腕で抱えて、ゴツイ男が騒ぎ出した。嘘でしょ? ぶつかって転んだのは小次郎で、その小次郎が怪我してないのよ? アンタなんて、革のズボンに魔物素材のブーツを履いてるじゃない? しかも筋肉オバケでしょ? ただ歩いていた子どもとぶつかったところでビクともしないくせに~っ。
ギンッと睨みつけると、顎をクイッとチャラ男剣士に掴まれた。
「女、不服そうだな?」
「当たり前でしょ。ぶつかってきたのはそっちよ。むしろ、アンタたちが謝りなさいよっ。あと、子どもがぶつかったぐらいで泣くほど痛いなら冒険者なんて無理じゃない?」
喧嘩を売りたいわけじゃない。こう、ポロッと本音が漏れただけです。
だけど、沸点の低いゴツイ男は顔を真っ赤にしてこっちに迫ってきた。仲間である剣士をドンッと突き飛ばし、私の胸倉を掴んでグイッと持ち上げる。
ひええええっ、私、つま先立ちですけど? あと、フーフー鼻息が荒くて気持ち悪い~っ。
「き、菊華!」
兄が立ち上がりゴツイ男の左腕に飛びつくが、ペイッと軽く振り払われてゴロゴロと転がっていった。
「お兄ちゃん!」
姉は余計なことしないでね、と縋る気持ちで視線を向ければ、小次郎が必死になって姉の頭をフードごと抑え込んでいる。ナイス、小次郎!
「……放してやれ」
私の横から腕を伸ばし、胸倉を掴んでいるゴツイ男の右手首を掴むレオンさんの登場にホッとする。
「なんだ、お前は? 関係ない奴はスッ込んでろっ!」
ガオッと大声で怒鳴りレオンさんを威嚇するが、彼は変わらず涼しい顔だ。
「しょうがない。貴様も冒険者なら、力で負けたら引っ込めよ」
レオンさんはそう吐き捨てると、グッと力を込めた。でも……ゴツイ男の腕とレオンさんの腕の太さ、倍近く違うんだけど、大丈夫?
「……っ」
しかし、顔を苦痛に歪め額に汗が浮かんできたのはゴツイ男のほうだった。レオンさんはずーっと涼しい顔です。私は胸倉を掴まれているので見えないけど……なんか、ゴキッて音がしたような……。ええっ? レオンさんってば、ゴツイ男の手首の骨を折ったりしてないですよねぇ?
「いっ……痛ぇ……っ、くっ……」
「レ、レオンさんっ、レオンさん! ちょっと、やり過ぎでは?」
「砕かれたくなかったら、キッカから手を離せばいい。それをしない、コイツがバカなんだ」
そりゃ、そうですけど。ゴツイ男はレオンさんに「バカ」と言われても反応できないほど、痛みに呻いている。いや、放せよっ。
「ちっ、放してやるから、あっちへ行け」
レオンさんは手を放すと、ドガッとゴツイ男の脇腹を蹴りチャラ男剣士の体にぶつけた。
「うわっ!」
男二人が絡んで転がっている……なにこれ?
慌てて、もう一人の魔導士っぽい男が駆け寄って、ゴツイ男に何か魔法をかけているみたい。
「あいつ……治癒士か」
それは姉が目指している職業では? あの人も姉と同じく「治癒魔法」が使えるんだ。
仲間に傷を治してもらった二人は、こちらを一瞥したあとスタスタと早足で消えていった。なんなんだよ、まったく。
「小次郎、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。さっき桜さんが治癒してくれたし」
姉は擦り傷切り傷しか治せないが、打ち身も治せたのか?
「……テンプレって、やっぱりあるのねぇ」
姉よ、変なところで感心しないっ!




