レッツ ダンジョン! ②
イルブロンの街での当座の宿が決まった次は、従魔登録したブランたちの登録タグを買いに行きます。登録タグってドッグタグみたいなものかな?
「ねえ、レオンさん。登録タグって首輪のこと?」
でも、レーゲンは首輪してないですよね?
「知らないのか? 従魔登録タグとは額に埋め込む魔石のことだ。その魔石に主人であるテイマーの情報などを読み込ませて、従魔の体に入れておくと、万が一のときは冒険者ギルドで対応ができる」
「万が一……」
「それはアレですか? 主人が亡くなったときとか?」
確かに、あっちの世界でも主人が亡くなったあとのペットの引き取りに問題があったりしたものね。
「それもある。魔石は主人と従魔が繋がっているときは仄かに光が灯る。それが消えたときは、主人との繋がりが切れたとき。主人が死んだり、主人の魔力が喪失したときだな。従魔は額の魔石の光が消えた瞬間から、ただの魔物となり討伐対象に切り替わる」
「ひえええっ」
そんな……今まで従魔として接していたのに、主人との繋がりが切れた瞬間に、殺るか殺られるかの関係になるなんて……無情だ。でも、従魔は従属契約が切れると、それまであった知性や感情が失われ、人を襲うようになると言われているから、しょうがないとか。うう~ん、前の世界のペットとはだいぶ違うな……。ブランたちは、私との関係が切れてもただの編みぐるみに戻るだけだけど、そんな話を聞いたら魔物を従魔にしようとか思えなくなりました。
「反対の場合もある。主人と離れた場所で亡くなった従魔の処置とか引き渡しとか。逸れたり奪われたりした従魔を探すときとか」
「GPS機能か……」
姉よ……余計なことは言わないで。私もちょっと思ったけど、異世界にGPSはないから! たぶん。
レオンさんにうっかりと異世界話がバレる前に、登録タグを扱っている魔道具屋に着いたので、上手く誤魔化せることができました。あー、よかった。
「痛くないの?」
私の前にちょこんとお座りするブランに問いかけると、ブランは「はっ、はっ」と舌を出してウンウンと頷いた。……バカっぽく見えるところもかわいい。
兄も小次郎もそれぞれの相棒の額に埋まった魔石を撫でているが、それを恨めしそうに見ている姉の顔が残念である。
「いいな~、いいな~。私もリオンに登録タグを付けてあげたいな~」
「無理よ。今はまだ編みぐるみなんだから」
要求するのはいいけど、すべては姉のレベル上げで解決することじゃない。文句や泣き言を言う前に本人が頑張りなさいよ。
「いい毛糸が調達できそうで、俺も嬉しい」
「そうですか……」
レオンさんは、登録タグを買った店でカラーシープの毛糸の在庫を確認し、どれも納得できなかったのかお取り寄せ注文をしていた。なんだったら自分でカラーシープを狩りに行きそうだったが、残念ながらカラーシープはイルブロンの街周辺にはいないそうです。
「菊華ちゃん、毛糸を買ったらお姉ちゃんにも作ってね」
「わかってるって。でも、お姉ちゃんのレベルに合わせるから、そんなに強い魔物をモデルにはできないからね」
改めて魔物図鑑で探しましょう。レオンさんもレーゲンの友達候補を選びたいでしょうし、私も複雑な形態の編みぐるみは作れないので、二人をしっかりと監視しておきたい。何度も注意をするようだが、ケルベロスは無理ですっ。
「……ここからだと、タワー型ダンジョンが近い。少し見ていくか?」
魔道具屋で買い物のあと、市場を通り買い食いしながら宿へと戻っていた私たちに、レオンさんがやや上空に視線を向けて提案してきた。同じ方向へ視線を向ければ、街の東側にあるというタワー型ダンジョンの天辺が薄っすらと見える。
「……ピサの斜塔?」
ちょっと角度のある斜め具合といい、外側の柱の間隔といい、似ている。あれ、大丈夫? 倒壊しないよね?
「何階建てだ? 十階以上……いや二十階かな?」
兄が目を細めてダンジョンの階数を数えると、レオンさんは緩く首を左右に振った。
「ダンジョンの外側など意味がない。中は別の空間が広がっているんだ。あのタワー型ダンジョンは「オーディール」と呼ばれていて、数年毎に階層が代わる成長ダンジョンだ」
「ダンジョンが成長してるんですか?」
「そうだ。ダンジョン内では魔力が満ちていて、魔物や宝箱に収められているレアな品が生み出されている。冒険者たちが大勢押し寄せ、魔法を使い魔物を倒していく。そのエネルギーがある程度溜まるとダンジョンは成長する。単純に階層が増える場合もあれば、フロアが広くなったり、出没する魔物が変化したりする」
へえ~、不思議な建物? いや空間? ダンジョンって不思議だわ~。橘家一同、ぽっかりと口を開けてタワー型ダンジョン「オーディール」を見上げつつ歩いていたら、ぶつかりました。何に? 人に。
「あっ!」
「小次郎っ」
ドンッと大柄な男にぶつかって、コロンと転がったのは小次郎。シンシャも隣でコロンと転がっているし、抱っこされていたヴェルディはちょっと離れたところでひょっこと立っている。むむむ、お前、主人である小次郎の腕から抜け出して、一人助かったな?
姉と兄で慌てて小次郎を起こしていると、怒りと不機嫌がたっぷりと含んだ声が放たれた。
「ああ~ん? なんでこんなところにガキがいるんだよっ」
……これは、もしかして定番のアレでは?




