旅は道連れ トラブルには巻き込まれ ⑩
無事にイルブロンの街へ入ることができました。
編みぐるみたちを従魔として連れ歩くデメリットが、それぞれがレアな魔物又は変異種であり、いけないことを考える奴らにとっては垂涎の的となるため。そのときは当然、従魔の主である私たちが襲われブランたちが奪われる。そもそも、従魔を力づくで奪ってもいいの?
「いいや。もしテイマーの従魔を奪った場合、犯罪奴隷として過酷な場所に堕とされる。ただ……闇で売買されるとわからない」
「なにそれ」
人身売買もあり得る異世界で、従魔も闇で売買かよっ。
レオンさんからいろいろとレクチャーを受けるうちに、編みぐるみ隊が目立つのはよくないと、ダンジョン内でも限られた場所でだけ実体化させようと思っていた橘家だけど、やっぱり私たちだけでは火力が足りない。冒険者とは名ばかりの弱弱冒険者なので、自分たちの力でランクを上げようとしたら、マジで十年単位かかると思うの。
背に腹は代えられないと、編みぐるみ隊を戦力として活かすために、レオンさんの助言も受けて堂々と連れ歩くことを決定したんだけど……。レア従魔持ちだって、目立ちたくないなぁ。
「……偽装すればいい」
「偽装?」
レオンさんは、無表情で淡々と意見を出してくるから、ちょっと意味がわからないときがあるのよね。
「つまり、そのちんまいのがレア魔物だとバレたら騒がれる。でも、よく似た別の魔物だと登録し、周りにもそう吹聴すればいい」
「ブランはオオカミじゃなくて、犬として登録するみたいな?」
元々、私はブランを犬だと思って編んだしね。
「従魔は申告制だ。外見で疑わしい箇所がなければそのまま受理され処理される。……ちょっと珍しい色味はしているが、過去に例がないわけじゃない」
レオンさんは、私たちがイルブロンの街の冒険者ギルドで従魔登録するときは付き添ってくれるらしい。どうやら、ドラゴンのレーゲンを見せびらかせば、そちらに意識が持っていかれ、私たちが目立つことを避けることができるだろうと。
「ありがたや~」
いや、拝むよね? 橘家一同でレオンさんを拝んでおいた。ありがたや~、ありがたや~。
「そうと決まれば、フォレスたちの種族を平凡で弱い魔物とするために、偽装するぞ!」
兄が右手を高々と上げたが……、どうすんの? もう一回、解いて編みなおす?
私が平然とした態度でそう提案すると、みんなが非難の眼を向けてきた。なんでよっ。
「おまっ、お前! ここまで一緒に暮らしてきたフォレスを解くだと? なんて非道な女なんだっ!」
「そうよ、菊華ちゃん。ブランちゃんたちがかわいそうよっ」
「菊華ちゃん……それはちょっと、ひどいかな?」
しかも、レオンさんからも冷ややかな視線を頂戴してしまった。そう? そんなに酷いこと言った? 編み物や裁縫で気に入らないところは解いて直すのが当たり前だったから、ついそう思っただけで他意はないの。
「じゃあ、偽装するってどうするの?」
シーン……。
「コホン。では、貴方の従魔の種族は?」
「こっちの白いのがフォレストウルフの亜種で、こっちのフクロウが……あ、そうそう、オウルだ、スターオウルね。こっちの猫ちゃんがケットシーで、珍しい毛色でしょ? んで、こっちのヤル気がないのがラーテルです」
一気に四体もの従魔登録だったせいか、冒険者ギルド職員のお兄さんの口調が冷たい。いや、私の後ろに立つレオンさんの圧にビビッているのかも?
ブランたちの種族は、手元に魔物図鑑がないからレオンさんの知識に頼った。でも、ラーテルだけは似ている魔物がわからないという理由で、そのままにしてみた。いつもぐでぇとしているだけで、狂暴さの欠片もない生き物だから、きっと気にされないでしょ。
「白いフォレストウルフ? そんな目立つ色の毛で? こっちはただのフクロウではなく、スターオウル? いや、あの魔物の毛は闇のような濃紺のはず……。これも亜種? ケットシーは……なんじゃこりゃ。こんな色は猫でもいないだろう? ……ラーテル? え? ラーテルってなに?」
う~む、軽くパニック状態になってしまったか……。このまま、有耶無耶のうちに登録してしまいたいのだが、強気に出れない日本人の橘家は、バレたらどうしようとビクつきつつギルド職員のお兄さんを見つめる。
バンッ!
「おい、早くしろ。俺たちは今日街に着いて、これから宿探しと買い出しを済ませないといけないんだ」
「キュルルルッ」
テーブルを叩いて威嚇するレオンさんと、そのテーブルに乗り牙を剥いているドラゴンのレーゲン。た、頼もしいです!
「はっ、はい。では、そのように。ギルドカードをお預かりします。少々、お待ちを」
お兄さんは私の手からギルドカードを奪うように取り上げると、従魔申告書を四枚を持ち慌てて奥へと消えていった。
「……これでいいだろう」
「は、はあ」
いいわけないでしょっとツッコミたいけど、私たちにとってはラッキーだったのでお口にチャック!
こうして、無事に従魔登録が終わりました。
「私も早くリオンを従魔登録したいわ」
「あ、それは無理だ。どう誤魔化してもそれはグリフォンにしか見えないからな。サクラのランクが上がってから従魔登録しろ」
チーン。それから、姉は夜眠るまで落ち込んでいました。




