旅は道連れ トラブルには巻き込まれ ⑨
異世界で地道に生活したいのに、冒険者としてランクを上げないと家も買えなければ職にもありつけないという事実に、打ちのめされている橘家です。
最強の護衛、レオンさんと共に馬車を走らすこと三日。イルブロンの街が見えてきました。早くない? あれ、乗合馬車では五日の旅程だったはずですけど?
「乗合馬車は街や村に立ち寄るし、乗せる人数も多いから速度は出ない。俺たちは少人数で真っ直ぐに進んできたから早いんだろう」
兄が、イルブロンの街に入るための入街税の小銭を数えながら答えてくれる。私は冒険者としてギルドに登録してあるし、小次郎も兄の扶養家族となっているので、入街税や入国税はかからない。じゃあ、なぜ兄がお金を数えて用意しているかというと……。
「フォレスとブランはいいけど、シンシャはその格好じゃなくて普通のケットシーみたいにはなれないの?」
自分が作った編みぐるみではあるが、帽子やブーツを履いたケットシーは目立つし派手だわ。ヴェルディは相変わらずぐでぇとしているからいいとして。
「菊華ちゃん……リオンはダメなの?」
「だって、動かないから編みぐるみのままじゃない。ちゃんとお姉ちゃんの魔力が注がれてリオンが動かないと従魔として登録できないよ」
ブランたちは魔力で起動させて動きだすと、カラーシープの毛糸で編んだ体が、ふさふさもふもふの体毛に変わり、編みぐるみとは全くの別物になる。だけど、リオンはまだ瞬き一回しかできないから、体は毛糸で編んだ編みぐるみのままなのだ。
「ぬいぐるみを従魔だと主張したら、冒険者ギルド職員にかわいそうな子を見る目で見つめられるから、やめなさい」
兄が姉の肩をポンポンと叩いた。むうっと不機嫌そうに口を噤んだ姉は、そっとリオンをポケットにしまう。
「……でも、フォレスもシンシャたちも私の従魔として登録するのってどうなの? 多すぎない?」
レオンさんの助言では、どうせダンジョン内でブランたちを実体化して攻撃させているところを目撃されるなら、従魔として登録しておけとのこと。それなら、小さい体でこっそりと動かさなくてもいいし、街中でも護衛として一緒に行動していれば、バカな冒険者は絡んでこないと。
その助言を受けて、ブランたちを隠す方式から従魔登録して堂々と連れ歩くことに方向転換しました!
「そうだなぁ。イルブロンの街で冒険者ランクを上げるなら長期滞在になるし……。そうなると、俺たちも別々の行動をとることもあるだろうし……」
「そうよねぇ。一人で街を歩いたとき、編みぐるみ状態のブランでも心強かったし、それが実体化して側にいてくれたら……いいかも」
私のブランと兄のフォレスはもちろん、小次郎のシンシャとヴェルデもいざというときは、頼りになるはず。たぶん、自信はないけど……。問題は姉である。
「リオンが動くようになるのは、まだまだ時間がかかる。菊華、桜の護衛用にもう一体作ってやれよ」
「いいけど……。あまり強い魔物がモデルだと無理よ? お姉ちゃんの魔力とレベルの問題だし、下手をしたらレベル上げしてもリオンを動かすことができなくなる」
ダンジョンでの戦力としてじゃなく、日常の護衛若しくは緊急連絡係としての役割なら、そんなに強い魔物がモデルじゃなくてもいいよね? ふむ、また魔物図鑑と睨めっこをしなければ。
「……キッカ。それは、俺にも作ってもらえるのか?」
「へ?」
はあああぁっ? レオンさんがおかしなことを言いだしたぞ?
まず、私の『手芸創作』で作る編みぐるみは、魔力を得て実体化して動き出す。モデルにした魔物によっては魔法を行使することも可能。言葉は発することができるかどうかは不明だが、なんとなく気持ちは伝わっている気が……する。
さて、その編みぐるみの主として、魔力を渡すことが必須条件だが、果たして私の家族以外でも編みぐるみは実体化して動くことができるのか?
「無理じゃない?」
「俺もそう思う」
「あら、スキルで編みぐるみに能力が付与されているなら、誰でもいいのでは?」
「僕は試してみればいいと思う」
「やだ。カラーシープの毛糸は高いのよ」
おっと、本音がうっかり漏れてしまった。作るのはいいけど、カラーシープの毛糸はお高いので無駄使いをしたくない。レオンさんにはお世話になっているけど……お金は大事だから。
「材料費は出す。むしろ、質のよい毛糸を用意したい」
なんか、レオンさんのやる気が満ちている。レオンさんの従魔には、この世界の最高峰であるドラゴンのレーゲンがいる。甘えっ子で空を飛んでいるとき以外は、小さい姿でレオンさんのマントに引っ付いている。レオンさん、浮気ですか?
「なぜ、キッカが俺をゴミを見るような目で見るんだ? モデルとなる魔物もこちらで指定したい。レーゲンの遊び相手が欲しいんだ」
やんちゃ盛りのレーゲン。まだ、赤ちゃんドラゴンだから、時と場合を考えずにレオンさんにじゃれてくる。魔物と戦っていようと、冒険者ギルド職員と買い取りの交渉をしていても、街を歩いていても、お風呂に入っているときでも……気が抜けないらしい。
「レーゲンに遊び相手がいて、毎日それなりに発散したら大人しくなるかと思って……」
……なんか、子育てに奮闘するパパさんのようで、私は思わず同情してしまい、編みぐるみを作ることを了承してしまった。
ああ、カラーシープの毛糸は自分で買ってくださいね! 多めに買って余ったらくれると嬉しいです!




