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迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~  作者: 沢野 りお
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

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旅は道連れ トラブルには巻き込まれ ⑤

レオンさんは自分から私たちが「貴族出身」ではないかと疑問に思った癖に、それを口にした途端、ハハハと笑って否定した。


「それはないか……。サクラはともかく、キッカみたいな貴族令嬢は稀有だ、淑女教育の破綻だ」


「ひどい!」


別に、貴族令嬢に見られたいわけではないが、ガサツな女みたいに評されるのは心外である。あと、姉の見た目は淑女だが、生活能力皆無です、この人。


「菊華。残念だけど、お兄ちゃんは貴族って生活能力ない人だと思うよ」


兄はどっちの味方なのだ!

フンフンッと鼻息荒くしていると、レオンさんはきょとんとした顔でこちらを見ていた。ああ……たぶん、この人はなんで私の機嫌が悪くなったのか、わからないんだなぁ。デリカシー以前の問題かもしれん。


「とにかく、前にシルビオも話したと思うが、平民が簡単に家を買ったり、雇われたりすることはできないぞ」


……へ?


「いや、シルビオさんに土地や家が高いことや、どこかに雇われるのには紹介状があったほうがいいとは言われましたけど……」


兄が困惑しているし、私もちょっとドキドキしている。手の中のグリフォンに赤ちゃん言葉で話かけている姉はともかく、小次郎までシンシャたちと遊んでいた手を止めて、こちらに注目している。


「まず、家を買う場合だが……」






























チーン……。


橘家はお通夜状態です。兄はテーブルに突っ伏し、私は黙って天を仰ぐ。姉は、打ちひしがれている私と兄を見てオロオロするだけで、小次郎はシンシャとヴェルデを抱っこして唇を噛んでいる。


……そりゃ、貴族出身だと間違えられるわ。この世界、お金さえあればどうにかなるってわけじゃなかった。いや、正確にはお金でどうにかできるんだろうけど……桁が違うだろう。

まず、土地や家を買う場合。ほとんどが紹介者又は保証人がいないと、売買交渉もしてくれない。貴族は爵位が国からの身分証みたいなものだから必要ないけど、平民はお金があってもダメ。そもそも、平民は賃貸が当たり前。田舎なら、先祖代々住んでいる家とかあるけどね。

就職もそう。小さなところは違うけど、それなりの商会で働こうと思ったら、紹介者や保証人は必須。それこそ貴族の跡継ぎになれない子どもがコネで勤めたりするし、個人の能力より貴族との伝手を重視する場合もあるとか。


「兄ちゃんはもう大きな会社で働きたくないでござる……」


あっ、しまった! 兄のデリケートな部分を突いてしまったか? こんな異世界で精神のバランスを崩すのはちょっと待ったーっ!


「じゃあ、自分たちで会社を作れば? 家族経営でいいじゃない」


姉が珍しくナイスな意見を出した。


「あー、会社っていうのが商会みたいなことなら、それも難しいぞ」


そもそも、勤めるのに紹介者とかが必要なら、起業するときにだって必要。それなりに大きな商会は、自分たちのバッグになんたら伯爵とかほにゃらら子爵がいると喧伝している。つまり、貴族の後ろ盾がないと企業するのは難しい。


「小さな店なら平民でも営んでいるぞ。食堂や酒場。鍛冶屋や武器防具屋。生活用品関係の店とか。魔道具とか宝石とかは、紹介者とかが必要だし、貴族に目を付けられるから後ろ盾もあったほうがいい」


……ううむ、兄はどこかの商会で事務仕事。姉は役場かギルドで事務仕事。私はどこかの店で雇われて小次郎は学校に通う。この人生設計があっという間に崩れてしまった。


「あ、そうそう。小次郎は教会に連れて行けば、簡単な読み書きは教えてもらえる」


「……それだけ?」


「ああ。それ以上を学びたいなら、紹介状をもらって試験を受けて、合格したら保証人を立てて……」


「あー、もういいです」


私は片手を上げてレオンさんを止めた。……なにをするにも紹介で保証人で……面倒な!


「そうか……イルブロンの街で家を買うのは難しいか……」


「そうねぇ、定職にもありつけないなら、どこか田舎でスローライフするしかないかしら?」


姉よ……。目玉焼きも作れない姉が田舎でのスローライフを語るでない。農業を舐めるな! 家庭菜園もできないし、夏に育ててたトマトを枯らしたのに。


「だが、家や土地を買うのに紹介者も保証人も必要のない場合がある」


「そ、それは?」


私と兄が食い気味にレオンさんに詰め寄ると、彼はニヤリと笑った。


「それは、冒険者のランクを上げて、冒険者ギルド発行の許可証を提示すればいい」


「……」


なんですと?

レオンさんの話では、冒険者の身分を証明するのは冒険者ギルド。そのギルドが高ランク冒険者たちに便宜を図るため発行しているのが、許可証で、これは商業ギルドや他のギルドに有効な証明書である。


「家や土地を買うのも、商会や店を起こすのも商業ギルドの管轄だからな。冒険者ギルドで認められれば、葵たちが家を買うこともできるし、商会を起こすこともできる」


ペカーっとした笑顔で言い切るけども、それって結局、私たちが冒険者稼業に勤しまないとダメってことですよね?


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