旅は道連れ トラブルには巻き込まれ ④
そもそも、ドラゴンのレーゲンがお腹がいっぱいで寛いでいたとしても、突然動き出した何かに反応しないというのは異常事態らしい。レーゲンにその存在を隠せるとしたら、それはドラゴンよりも強い種族……いやいや、編みぐるみ隊の元はカラーシープの毛糸だよ?
「あのぅ……ドラゴンとカラーシープだったら、どっちがお強いので?」
「ドラゴン。瞬殺だな」
ですよね! じゃあ、その毛糸でちまちま作った編みぐるみ隊がレーゲンより強いわけはない。じゃあ、レーゲンがブランたちが弱すぎて放っておいただけでは?
「……その判断を下すのはレーゲンじゃない。俺だ。主人の意向もわからず、突然の異物に反応しないとなったら、レーゲンの怠慢……いや、従魔契約に反する行為でペナルティが与えられる」
レーゲンの独断で突然に現れた存在をスルーし、そのせいで主人であるレオンさんに何かがあったとき、それは主人を守ると契約した従魔契約に違反するということ。でも、ペナルティって? お尻ペンペンでもするの?
「従魔契約のペナルティは神との契約との反故だ。ペナルティは神から下される」
「ひぃっ」
それって、空から雷がドドーン! とか? ドラゴンでさえ悶絶する何かよね? 怖いんですけどぉ。
「たぶん……さっきのぬいぐるみはそれぞれキッカたちの魔力で動いている。だから、レーゲンはキッカたちと同じ、若しくは従魔としてカウントして反応しなかったんだろう」
「はぁ……」
そりゃ、あの子たちは私たちの魔力をガンガンに貪って動いてますからね? うん? じゃあ、いざとなったら私が「テイマー」のフリをしてあの子たちを「従魔です」と誤魔化す案は有効なのでは?
「……従魔として紹介してもいいが。かなりのレア種だから、キッカが冒険者たちの間でものすごく注目されるぞ?」
レオンさんのほぼ動かない表情筋の働きでもわかる案じる眼差しに、私の笑顔がひきつる。
「たぶん、あちこちの冒険者パーティーから勧誘される。奴らのしつこさは、サクラにつき纏う冒険者の比じゃない。面倒なことになる」
「いやぁぁぁぁっ。わかりました。あの子たちは隠します。今までどおり、人のいないところ以外では動かしません!」
びええええっ。怖いよう。モサい冒険者たちに囲まれて仲間に勧誘されるなんて嫌だよぅ。半べそかいてそう宣言する私を兄と姉は憐れんだ顔で見ている。
小次郎だけは優しく私の背中を撫でてくれるのだった。
ううっ、ありがとう。
ひと通り驚いたレオンさんは、兄の淹れた薬草茶で冷静さを取り戻している。だよね? 常識で考えられない現象に巡り会うと、混乱するよね? 私たちは既にこの世界が非常識だから、なんでもこい! 精神だけどさ。
「ふぅーっ。こんな奇怪なスキルは聞いたこともない。アオイやサクラの能力はよくあるが……『手芸創作』なんて知らん。『緑の手』という植物を育てる才能を持つ者の称号があるのは知っているが、キッカのは裁縫系で称号ではなくスキルだ。……よくわからん」
やっぱり、あのアホ神め。持っているだけで疑われるスキルを寄こしたな? でも、あのアホ神でさえこのスキルの詳細はわからなかったみたいだけど。
「レオンさんもご存知でしょうけど、俺らは攻撃能力をもっているのが小次郎しかいなくて。だから、編みぐるみたちが攻撃力があるのは助かっているんです。でも、こいつらが珍しいなら、従魔と偽っていてもあまり人の目に触れさせないほうがいいですか?」
兄がレオンさんに質問しているのは、私たちがずっと危惧していたこと。今でもダンジョンの中でこっそりと、動かすときは小さいままでと制限をかけている。小さいままだと能力も存分に発揮できないらしく、ブランにとっては運動不足で不満らしい。
「……いや、アオイたちが冒険者としてレベルやランクが上がれば大丈夫だろう。今は駆け出しの冒険者だから立場が弱い。人の目があるところでは止めておけ」
「やっぱり、ダンジョンの中か……」
小次郎の聖剣もダンジョン内、しかもボス部屋限定なので、編みぐるみ隊たちが本来の大きさに戻れるのもボス部屋限定だね。とにかく、私たちのレベルを上げ、冒険者として依頼をこなしてランクを上げないとダメってこと。
「んん? お兄ちゃん、私たちずっと冒険者稼業をするわけじゃないでしょ? イルブロンの街で仕事を見つけて堅実に生きていかないと」
そう、冒険者は安住の地を見つけるまでの仮の姿。私たちは、貯めたお金で家を買い、毎日真面目に仕事をして小次郎を育てないと。小次郎だって、編みぐるみ隊を連れて剣を振り回す生活じゃなくて、勉強させてお友達を作って……。
力説する私をレオンさんが怪訝な顔をして視ているのに気づいて、口を閉じる。
「キッカたちは……貴族出身なのか?」




