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迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~  作者: 沢野 りお
安住の地を求める勇者とぬいぐるみ

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旅は道連れ トラブルには巻き込まれ ③

チクチク。


私は無言でレオンさんの破けたズボンを繕っている。子どもみたいに膝が破けているのはなんで? チクチクとアホ神から貰ったスキル『手芸創作』を意識しつつ、レオンさん希望の「防汚」と「強化」の効果が付与されるように祈る。祈るつーか、念を込める。


「で~きた!」


これぐらいの繕い物は、私にとってはお茶の子さいさいなのだ。

はいっと笑顔でズボンを渡すと、マントで下半身をグルグル巻きにしたレオンさんが怪訝な顔で受け取る。


「……まさか、ただの針と糸で縫っただけなのに、「防汚」と「強化」と「防御」の付与がついている!」


「キャッ!」


驚いてつい立ち上がったレオンさんと、そのレオンさんの下半身を見てしまった姉の悲鳴。私はイケメンレオンさんの下半身よりも、ズボンに付与された余計なものに驚いた。


「あれ? 「防御」は考えてなかったけど?」


私のスキルなのに、持ち主の制御が効かない『手芸創作』は度々こうしてやらかすのだ。このやらかしのおかげで編みぐるみ隊が作られたので、私たちの不利には働かないけどね。でも、心臓に悪いよ。


「とにかく、レオンさん。ズボンを穿いてください」


兄の冷静なツッコミに、レオンさんはやや俯いてズボンをその場で穿いた。姉は大げさに騒いだが、別にレオンさんはちゃんと下着を穿いてたし、その下着も長めの短パンっぽいので、乙女な反応はしなくてもいいと思う。むしろ、イケメンの下着姿が残念過ぎる。


「本当に……キッカが縫うと付与魔法が発揮できるのか……」


「あ~、たぶんちょっと違うと思います。菊華のはスキルで付与魔法の類じゃないです。たまたま裁縫で付与できる力があっただけで、そのほかはもっとすごいんです」


兄の説明に、レオンさんの顔は困惑で歪められている。レーゲンなんてご飯食べてお腹がいっぱいになったから、クッションの上で丸まっているのに。あいつ……もう寝ているな?


「菊華ちゃん。どうする?」


ツンツンと小次郎が私の袖を引っ張り、編みぐるみ隊を動かすかどうか上目遣いでお伺いを立ててきた。もう、ここまできたらヤケだ。レオンさんには全部バラしてしまおう。小次郎が「勇者」だってバレなきゃいいでしょ。


「お兄ちゃん、フォレスをお願い。小次郎もシンシャとヴェルディを。ほら、ブラン。レオンさんにご挨拶して」


私はポケットから白い犬の編みぐるみブランを取り出し、レオンさんの前にちょこんと置いた。そして、頭を撫でながらちょっぴり魔力を流すとブランはブルブルルと身震いをしたあと、レオンさんの顔を見て吠えた。


「ワン」


いやいや、君はやっぱり犬でしょ? ワンちゃんでしょ?

同じく、兄と小次郎がそれぞれの編みぐるみをレオンさんの前に並べ、起動スイッチのように魔力を流した。


「……?」


不思議そうな顔でレオンさんを見るフォレス……首が曲がり過ぎて落ちそうで怖い姿勢になってる。シンシャはレオンさんは敵じゃないのに、腰からレイピアを抜いて全身の毛を逆立てている。ヴェルディはちらりとレオンさんを見て、そのままベターッと寝そべって動かない。まさかの無関心である。


「……精巧な魔道具?」


「違います」


現実を受け入れてください。ただの、いや、お高いカラーシープの毛糸で作った編みぐるみです。動くんです。動力は契約者の魔力です。


「本当は私もこの子がいるんです。でも、まだレベルが低くて動かせなくて」


姉は両手でそっとリオンをレオンさんの前に差し出した。当然、姉が全力で魔力を込めても瞬き一回で終わりだ。


「……グリフォン?」


そうです。よく、この真ん丸なフォルムでグリフォンと気づいたと感心してしまう作り手の私だった。





























ほのぼのとした情景が目の前に。心が癒されるぅ~って、癒されるのか、これ?


私たちの前に座ったレオンさんの頭の上にはフォレスが居座り、レオンさんの前で尻尾をぶんぶん振って駆け回っているのはブラン。毛を逆立ててイカ耳で威嚇しているのはシンシャ。何にも動じずべたーっと寝そべっているのはヴェルデ。そして困惑した顔で硬直するイケメン冒険者のレオンさん。ちなみに、その両手には姉の相棒で瞬き一回しか動けないグリフォンのリオンが鎮座している。


どうしたらいいの、これ?


「あ~、コホンコホン」


兄がわざとらしい咳をして、この状況を打破しようと試みる。


「お前たち、レオンさんへの挨拶が終わったなら、もう休みなさい」


はい、終わりと言いながら、むんずとフォレスを掴むとポケットにねじ込み、シンシャとヴェルデの首を摘まむと小次郎へと返す。私も慌てて走り回るブランの体を両手でキャッチして魔力の接続を切る。


「ほら、桜も」


兄から手渡されたリオンを両手で受け取ると、姉は複雑な顔をした。やっぱり、他の編みぐるみたちが自由自在に動いているのを見ると、切なくなるのかな? だったらレベル上げを頑張ればいい。どれだけレベルが上がったらリオンが動くのかは、わからないけど。


「どんな魔法なんだ……?」


さすがのレオンさんも呆然として呟くのみ。そりゃ編みぐるみがわちゃわちゃ動いたら驚くよね。レオンさん、その子たちは魔法を使って探索したり、攻撃したりできるんですよーっ。


「これは菊華のスキルです。俺たちもよくわからないけど、『手芸創作』ってスキルで、裁縫に関するスキルみたいなのですが……。実際は何をしたらどうなるか本人にもわからず、こんなことになってまして」


てへへ、と照れ笑いをして誤魔化す兄に習い、私も横でへへへと笑っておいた。


「スキル……。まさか、こんなことができるスキル?」


レオンさんはますます理解できずに頭を抱えている。私たちも前の世界で動く編みぐるみを見たらそうなる。でもここは私たちにとっては異世界だから、なんでもありの精神なんだよね。


「正直、魔物討伐は小次郎に頼り切りだったので……こいつらの力を借りられて助かっているんです」


「あんなにちびっこいのに?」


「レオンさん。あの子たちは本来もっと大きくなれるんです。ただ、大きいと目立つので編みぐるみの大きさで動いてます」


私の言葉にレオンさんは目を大きく見開いた。大丈夫? 驚きすぎて頭の中ショートしてない?


「ぬいぐるみが……縮小化スキル持ち? レ、レーゲンと同じ?」


「へ?」


あの毛糸でできたどこか間抜けな顔をした編みぐるみ隊が、ドラゴンのレーゲンと同じとは?


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