これからのこと ⑤
私が徹夜で作った編みぐるみに、姉と小次郎がそれぞれに名前を付けて魔力を渡すと、あら不思議、編みぐるみが実体化して動き出す……動き出す?
「小次郎のシンシャとヴェルデは問題なさそうだな」
兄の言葉にイマイチ素直に頷けないが、姉よりは状況がマシなので小次郎のことは後回し。
「お姉ちゃん……ちゃんと魔力込めた?」
姉の編みぐるみ、グリフォンのリオンがピクリとも動かないのだ。『手芸創作』というわけのわからんスキルしかない私と違って、姉は治癒魔法が使え、魔力の扱いも私より上手なハズ……なのに?
「ちゃんと、ちゃんと魔力を渡してるわ! なんだったら治癒魔法もかけてるわ!」
いや、治癒魔法は編みぐるみにはいらんし……。
「桜のリオンは……失敗か?」
「私が失敗したみたいに言わないで。小次郎のシンシャやヴェルデと同じように作ったもん」
兄からの疑惑に頬を膨らませて反論した私は、テーブルの上に置かれたブランをちょんと突く。ブランはグラリと揺れて、ブルルッと身震いすると、短い四肢でしっかりと立つ。フンフンとテーブルの上の匂いを嗅ぎ、新しい匂いを見つけたとばかりにシンシャたちへと走っていく。ちなみにサイズは編みぐるみのときのまま、省エネモードです。
「ほら、桜。こうして魔力を渡すんだ」
兄もコロンと横に転がったフォレスの頭をツンツンと突いた。一度、魔力を渡し起動すると、あとは繋がった何かで勝手に魔力が供給されるシステムみたいだ。
フォレスはパチパチと瞬きしたあと、翼を動かしつつ立ち上がった。クルリと首を回して見慣れないものを見つけると、真ん丸の眼をキラリと光らせた。
「フォレス。敵じゃない。敵じゃない。菊華が作った新しい仲間だ」
兄がフォレスの体をグワシッと掴むと、半ば無理やりにシンシャたちの輪の中へと移動させた。フォレスの習性として、まずは観察し判断するというのは一切無視である。
「……どうして……」
姉が落ち込んでいる。ガクッと床に手をつきどんよりとしている。おっかしいなぁ? 姉のグリフォンを作るとき……何かあったかな?
「あ、あのね、菊華ちゃん……」
右手にシンシャ、左手にヴェルデを掴み、周りを駆け回るブランと二体を嘴で突くフォレスに戸惑う小次郎がかわいそう……。
「どうしたの?」
私はそっと、はしゃぎまくるブランの尻尾を掴んだ。
「もしかしたら、桜さん……あのぅ、レ、レベルが低くて編みぐるみが動かせないのかも……」
なんだってーっ!
姉のレベルが低くて、編みぐるみグリフォンは動くことができませんでした。
嘘でしょ?
どうやら、私が初めてブランを動かしたときとは違って、姉の場合は本人のレベルと編みぐるみのモデルとなった魔物の脅威度が関わってくるらしい。
「たぶん、桜さんはスライムとかの編みぐるみなら今のレベルでも動かせるけど……魔物の中でも上位種のグリフォンだとかなりレベルを上げないと無理みたい」
小次郎がグリフォンと姉を鑑定して導き出した予想に、私たちは納得した。姉だけか床に伏して咽び泣きしている。
「私が低いレベルのときにブランを動かせたのは、私自身が『手芸創作』のスキルを持っているから?」
小次郎は自信なさそうに頷いたが、たぶんそうだろう。あとは、ブランが姉が言うようなフェンリルではなくただのオオカミなのでは? 魔物の上位種じゃなければ私との乖離差も気にしなくていいんだし。
「ワンワンッ!」
ブランが私に対して反論を吠えているかもしれないが、その吠え方がワンちゃんである。
「じゃあ、桜はレベル上げな。治癒魔法のレベルも上げなきゃいけないし……しばらくはダンジョンか……」
「ええーっ!」
ダンジョンに通うのはイヤだなぁ。かと言ってダンジョンに泊るのもヤだ。小次郎のレベルを上げるためにもボス部屋に挑んだほうがいいのはわかるが……ダンジョンでしょ?
「……葵さん。ぼ、僕、そろそろ初心者用ダンジョンだと、レベル上げ無理かも……」
「「…………え?」」
私と兄の声がハモった。小次郎のレベル上げに初心者用ダンジョンは使えない? つまり、小次郎ってば初心者用ダンジョンに出てくる魔物よりも強くなっちゃった? まだレベル低いのに?
「じゃあ、小次郎のレベルを上げるには……」
初心者用ダンジョンのボス部屋にアタックし続けるか……もっと強い魔物が出る街またはダンジョンへ行くか……。
「う~ん、ようやくここにも慣れたところだけどなぁ」
兄も腕組みをして考え込んでいる。しかし、この街は長期滞在や永住するには、ちと問題がある。私たちはヒャッハーな冒険者生活をしたいわけではなく、堅実な仕事を見つけて落ち着ける場所で静かに暮らしたい。
「そろそろ、移動する? 目的地は元々イルブロンの街だったんだし……」
魔物図鑑の閲覧のときに見た地図で確認したけど、ここからイルブロンの街までの道程に、ものすごく危険な場所はない。魔物も急に強くなったりはしない。ただし、森の奥に入らなければだけど。ここマクデルからイルブロンまで、乗合馬車は頻繁に出ている。
「そうだね。お姉ちゃんのレベル上げをしつつ、イルブロンの街に行く準備を始めようか?」
まずは乗合馬車の代金と、イルブロンの街の宿屋の料金。移動中の食料、薬の購入。やるべきことを指折り数えていると、小次郎が申し訳なさそうに首を竦めてお強請りしてきた。
「あのぅ、シンシャとヴェルデの戦闘訓練もお願いします」
「あっ、そうだった」
それ、重要なことだったわ!




