これからのこと ④
徹夜で編みぐるみを作った私は、そのまま昼まで寝こけていた。
最初は、兄も姉も「休ませてあげよう」と優しい気持ちで見守っていたらしいが、昼を過ぎて我慢ができなくなったのか、お昼ご飯を餌に叩き起こされました。
「むむむ、まだ眠い」
目をコシコシと擦りつつ、お腹も減っているのでテーブルにつきますよ。むしゃむしゃと寝ぼけながら兄が作ったサンドイッチを頬張っていると、顔に感じる視線が痛い。
「……なに?」
チマチマとサンドイッチを口に運びながら、姉はじぃーっと私の顔を凝視している。食べにくいでしょ?
「早く食べて、グリグリを動かしてみたいなぁって」
「グリグリ?」
なにその、奇天烈な名前? ハッ! もしかして、グリフォンの名前?
「桜。お兄ちゃんは、もう少しちゃんとした名前にしたほうがいいと思うぞ」
私と小次郎は兄の意見に激しく同意するので、ブンブンと頷いておく。
「あら、グリグリは愛称よ。本名はグレード・ライトニングレオ・ストロングイーグル・ラブリー。どう? かっこいいでしょ?」
……どこをどうしたら愛称が「グリグリ」になるの? そんなアホな名前付けられたらかわいそうでしょうがっ。
「とにかくお姉ちゃんはもう一度名前を考え直してちょうだい。はぁぁーっ、もう、目が覚めちゃったわ。んじゃ、編みぐるみを持ってきますか」
「ええーっ」とショックを受けている姉を放っておいて、私は部屋のベッドの上にちょこんと置かれている編みぐるみを取りに立ち上がった。仲間との初対面を楽しみにしているだろう、ブランも一緒に連れてきてあげよう。
トントントンッとテーブルに出来立てホヤホヤの三体の編みぐるみを置く。
姉希望のグリフォンは、黒のボディーに翼の先と足が金色の毛糸で作られている。頭の天辺にも三筋金色の毛糸をあしらった。紫色の眼はキラキラと光を反射してキレイだし、嘴も金色の毛糸でちょこんと愛らしく作りました!
「……グリフォン? 下半身は獅子だけど……ずいぶん丸っこいな。デブの小鳥に見える」
「丸々としているほうが、かわいいのよ」
編みやすいし。ただでさえ、グリフォンという物騒な魔物をモデルとしたんだから、愛らしさは忘れちゃいけない。
「かわいいわ! 私のグレード・ライトニングレオ……あとなんだっけ?」
ズコーッ! 自分で考えた名前を忘れないでよーっ。
う~んう~んと腕を組み考え込んでしまった姉は放置して、次は小次郎の編みぐるみね。
赤のケット・シーは、後ろ足でスクッと立って、黒の三角帽子とブーツ、腰に佩いたレイピアが小さな騎士のよう。緑色のビーズの瞳と、小さな黄色のビーズの鼻、赤い糸で縫った口はにっこりと笑っているみたい。ふふふ、我ながら良作だわ。
「うわぁっ、かわいいね、菊華ちゃん!」
うむ、小次郎も大喜びである。しかし、兄はちょんちょんとケット・シーの頭を突いて私を揶揄う。
「ちょっと趣味に走りすぎじゃないか? これ、動いたら別の意味でも目立つだろ?」
うぐっ、そこまで考えてませんでした。
「つ、次よ。次」
次は小次郎が強い魔物として選んだ、イタチもどきです。姉が描き写したとおりの姿……から少しデフォルトして丸みを帯びたイタチもどきにして、色は緑とグレーの斑模様つーか、パンダみたいな配色です。顔はグレーにしたし、パンダみたいな目の周りの隈取はないけど。
「……改めて見ても強そうには見えないな」
兄の意見に同意。愛玩動物にしか見えないし、本物のイタチより俊敏性とか鈍そう。手足も短いし……顔も視れば見るほど、ちょっとマヌケっぽい……しまった! 作るのに失敗したか?
「うん、こっちもかわいい!」
小次郎は満足しているから……いいか。弱くてどうにもならなかったら、今度こそトラでもライオンでも作ってあげよう。
「じゃ、名前を付けよう。魔力を渡しながらな」
偉そうに兄が説明しているが、兄はこの前初めてフォレスの名づけをしただけで、別に名付けのエキスパートでもない。むしろ、私と一緒でネーミングセンスはない。
「お姉ちゃん、今度はちゃんとした名前を考えてよね」
「わかってるわ」
「小次郎は……大丈夫? ミケとかポチとかダメよ」
「う、うん。大丈夫」
悩める二人はそっとしておいて、私はテーブルの上にブランを乗せた。
「菊華?」
「ブランたちにとっても新しい仲間だから、ちゃんと顔合わせしようと思って」
私の言葉を聞いて、兄も胸のポケットからフォレスを取り出しテーブルに乗せた。……兄がフォレスの編みぐるみを持ち歩いている事実を知って、妹は笑いを抑えるのに必死です。なんで、胸のポケットからフォレスが出てくるのよーっ。
「よしっ、お姉ちゃんは決めました! この子の名前はリオン!」
リオン? さっきの名前より断然いいけど……。
「リオンってライオンだろ? 鷲はどうした?」
グリフォンは鷲と獅子だから、リオンだと片方だけになっちゃうよ? だが、姉はにっこりと笑って「響きで決めたわ」と言い切った。まあ……いいけど。
「僕も決めたよ」
小次郎は、まずケット・シーを指して「シンシャ」、次にイタチもどきを指して「ヴェルデ」と言うと、こちらを窺うように視線を送ってくる。
「いいんじゃない。呼びやすくて」
「ああ。わかりやすい」
姉のときとは態度が違う? それは普段の行いのせいです。
では、二人とも編みぐるみに魔力を渡して名づけをしてみてください!




