勇者仲間 ⑩
動く編みぐるみを誤魔化すために私の職業はテイマー(偽)になり、編みぐるみのモチーフは魔物になりました。
うええぇぇっ、作る気が失せるぅぅぅっ。
「じゃあ、明日は冒険者ギルドの資料室を借りて、編みぐるみ隊の候補生を選ぼう」
ニコニコ顔の兄に、自分たちの相棒に期待して頬を染める姉とワクワク顔の小次郎……否とは言い出せない雰囲気!
「……百歩譲って私がテイマーのフリをして魔物の編みぐるみを作るのはいいけど、カラーシープの毛糸は高いんだから、派手な色の魔物は選ばないでよ」
実在する魔物のフリをするなら色も好き勝手にはできないでしょう? ピンクのウサギとか赤いトラとか無理だから。
「お値段的には茶色か……白もそこそこお安いような?」
ブランに使ってお貴族様の手袋に使われていた白は真っ白だったけど、ちょっとくすんだ白なら元の色に近いせいかお手頃価格だったような……、あれ?
いつの間にか、私のバッグに括りつけたブランがぴょこんと動き出して、私の前に座りウルウルと何かを訴えている。
「なんだろう?」
私と魔力で繋がっていても、意思疎通はできないのよ。例え意思疎通ができても犬語はわからん。
「何か菊華ちゃんに訴えているわね? すごく悲しそうよ?」
姉がマジマジとブランを見つめるが、まさかブランの考えていることが顔に書いてあるわけじゃあるまいし、わからないでしょ。
「小次郎の鑑定でわからないのか?」
「う~ん、ステータスに表示されているときと、そうじゃないときがあるんだ」
つまり……ブランは私に何かを訴えているが、それがわからない。小次郎の鑑定でもわからない。
「じゃあ、しょうがない」
解決策がないのであっさりとスルーしようとしたら、ブランはガァーンとショックを受けたあと、私のお腹へと突進してきた。
「ぐっふうっ」
や、やめて。食べたご飯が出ちゃう。
そして、ブランは私のお腹に頭をグリグリと擦りつけて甘えた。いやいや、甘えてんのこれ? 飼い主の私はダメージ受けてんだけど。
「あ、もしかしたら、ブランってば白い編みぐるみを作ってほしくないって、言いたいのでは?」
パンッと両手を叩いて姉が嬉しそうに言うと、ブランは眼に涙をいっぱい溜めてウンウンと頷いた。
「ええーっ、そうなの?」
まさか、編みぐるみの癖に独占欲なるものが芽生えるとは……、本当にブランって元は編みぐるみなの?
「そうか……ブランも最初に菊華に作られた矜持があるよなぁ。茶色は……イテテ」
どうやら兄も胸ポケットに入れてあるフォレスから、抗議の嘴攻撃を受けているらしい。なんだなんだ、同じ色で作るなってか?
「他の色の毛糸は高いんだけどなぁ」
しかし、そんな些細なことで、彼らがへそを曲げられても困る。橘家の大事な戦力なのだから。
「じゃあ、次の編みぐるみは白と茶色は除外だね」
小次郎がブランを撫でると、ブランも気持ちよさそうに目を閉じて鼻を鳴らした。
「そうね……」
まぁ、白い大蛇とか茶色のイノシシとかを作ることはないと、思うことにしよう。
そうして、私は小さく右手を挙げた。
「……あと、問題が発生しました」
実は、みんながそれぞれ出かけていたときに事件は起きてました!
「なんだ、これ?」
兄が手にしているのは、前の世界で私が愛用していた裁縫キットです。こちらに来てからもバッグを直したり、ブランやフォレスの顔の細工に使ったりと重宝してました。
そして、今日みんなの服の繕い物をしようと裁縫キットをバッグから出したら……。
「なんか、箱型の入れ物になってて、中の裁縫道具もちょっと増えた」
ちっちゃいハサミがちゃんとした裁ちばさみになってたり、使ったはずの糸が新品同様になってたり。縫い針も待ち針も増えた。嬉しいけど、不気味である。
「……でも、便利になったのよね?」
姉は種類の増えたかぎ針を興味深そうに眺めた。
「でも、急に裁縫キットが裁縫箱に変わっているなんて怖くない?」
怖いなぁと思いつつ使ったけどね。だって、みんなの服を直さないとって思ったから。
「菊華ちゃんのレベルが上がったから?」
「へ?」
小次郎の予想では、私のレベルが上がり、『手芸創作』のレベルも上がり、それに伴ってスキルに必要な道具もレベルアップしたってことらしい。
「……そんなことあるの?」
「う~ん、たぶん。あのね、僕の聖剣も僕のレベルが上がると聖剣も強くなる感覚があるんだ」
なんてこと! しかもレベルが上がると消費される魔力も少なくなるらしい。ただし聖剣の力を最大限に引き出そうとすると、使う魔力は比例して増えるらしいが。
「じゃあ、私のスキルレベルが上がったから、裁縫キットも進化したってこと!」
確かに使ってもなくならいいととか、とっても嬉しい仕様だわ。ついでにカラーシープの毛糸も多色揃いで用意してくれたら、もっと嬉しかったのに。
「そんな図々しい」
兄が呆れた眼で見てくるが、現在カラーシープの毛糸を購入するのは、橘家の財政的に厳しいんだからしょうがないでしょっ。




