古城とドラキュラ ⑤
兄の昼食の準備を、いつものごとく手伝っていたら、シルビオさんたちにめちゃくちゃ驚かれた。なぜ?
「おかしい。アオイの生活魔法はおかしい」
「……なんで着火の魔法がそのまま維持できるのかしら? ……火魔法だってそんなことできないのに」
「うっそでしょ? 水が……お湯になってる」
なんで今さら兄の生活魔法に驚いてんだろう? 前にも兄の魔法は「ライゼ」の皆さんに披露済みでしたが?
「なんか、やりずらいな……」
タンタタンとリズミカルに食材を包丁で切っていた兄の眉間にシワが寄る。……ダンジョン内で新鮮な野菜を食べられる贅沢を、「ライゼ」で唯一平常運転のレオンさんが感激している。レーゲンはヨダレを拭きなさい。
今日のお昼はサンドイッチがメインです。ちゃんとお肉もあるよ。サンドイッチのパンが白くてフワフワなパンじゃないのが、ちょっと不満です。
「小次郎ちゃん。パンはよく噛みましょうね」
「うん。でも僕、黒パンも好きだよ」
姉と小次郎は仲良くパンに食材を挟んでいる。ブランたちはつまみ食いをするので、ブラン、シンシャはぬいぐるみに戻し、フォレスは兄の肩にとまって休憩中。
セーフティーエリアには魔物が出ないとのことなので、皆さんはまったりと休憩モードに入るはずだったのに、兄の生活魔法に釘付けですよ。
「そんなに珍しいかな?」
パリパリと魔法で出した水でレタスを洗い葉を剥く手を止めることなく、兄が首を傾げる。私は、兄のなんでも生活魔法に慣れてしまったので、特に珍しくもないけど……、もし兄の魔法が常識外れだったとしたら、それは全部姉のせいです。
「着火だけじゃもったいないから、魔法コンロみたいに、料理の火が消えないようにしたらってアドバイスしただけよ?」
そうだよね? 生活魔法だと火種レベルだから、兄は頑張って想像力を総動員して調理に使えるコンロのようにレベルアップしたのだ。しかも、火加減調整もできる。それが珍しいと?
「こんなことができるのね? 火の状態を維持したまま長時間発動させるなんて高度な技……。え? 本当に生活魔法?」
オリビアさんは揺れる炎をじっと見た後、顔を顰めて頭を捻る。
「いやいや、コップ一杯の水を出すのがせいぜいな生活魔法なのに、じゃぶじゃぶ水が出てくるのがおかしいでしょ?」
カルラさんは兄の料理の邪魔をするように喚いたので、兄の顔が不満げに歪められた。
「野菜を洗ったり、煮たりするのに水が必要だっただけです。こっちも温度管理できますよ。さっきはお湯でしたけど冷たい水も出ます」
ほぉらと、冷たい水をピュッとカルラさんの顔にぶつける。
「ぶっ! わっ、本当に冷たい」
水をぶっかけられて怒るかと思ったら、カルラさんは愕然とした顔でフリーズする。いやいや、濡れた顔ぐらい拭きましょうよ。私は鞄からキレイなタオルを出してカルラさんの顔を拭く。
「……なんでお前たちは冒険者としての基本ができていないのに、珍妙なスキルは持っているんだ……」
シルビオさんが頭が痛いと言うようにギュッと目を瞑って、頭を振る。そんなことを言われても、すべてはこの世界のアホ神が悪いんです。
サンドイッチにかぶりつきながら、シルビオさんは姉と小次郎の能力を聞き出そうとしつこいぐらい質問している。
「私は菊華ちゃんたちとは違って普通の治癒魔法です。まだ、レベルは低いですけど……」
ちまちまとサンドイッチを口に運びながらシルビオさんの質問に答える姉。珍妙なスキルがバレている私と兄は、こちらに火の粉が飛んでこないことを願いつつ無言で食べます。
ちょっとは橘家のフォローをしてくれても……と願ったレオンさんとレーゲンは頬をいっぱいに膨らませてお食事中。本当に、残念なイケメン冒険者になっちゃったなぁ、レオンさん。
そして、一番懸念されていた小次郎は、シルビオさんの質問を上手くはぐらかし、ブランやシンシャ編みぐるみたちに囲まれている。お昼ご飯を強請られているのだ……あれ?
「お兄ちゃん……ブランたちって元は編みぐるみだよね?」
「そうだな。高価なカラーシープの毛糸で作られた編みぐるみだな」
むしゃむしゃとサラダを貪り食べる兄の興味のなさそうな答えに、私はググっと眉を寄せた。そう……ブランは編みぐるみ。私の「手芸創作」というスキルで実体化したけれど、元は毛糸である。
「ねぇ、お兄ちゃん……毛糸なのに、ご飯食べれるの?」
「ああ? 毛糸でもメシぐらい……あれ?」
私と兄は食事の手を止めてブランたちを見る。私たちの様子に気が付いたシルビオさんたちもブランたちへ視線を向ける。レオンさんは爆食中だし、姉もちまちまと口を動かしていて隣でサンドイッチの争奪戦を繰り広げ始めたブランたちには気が付いてない。
そして、小次郎は笑顔でブランたちを諫めて、千切ったお肉をブランたちの口へ甲斐甲斐しく運んでやっている。
「お、お兄ちゃん……?」
「しまった! ブランたちの分は考えてなかったから、足りないかもしれん!」
そういうことじゃないでしょ!




