古城とドラキュラ ④
ブラッドウルフ四体のドロップ品は、赤黒い小さな魔石と赤黒い小さな牙でした。
小次郎とレオンさんで前方の二体を倒し、二人の間を抜けて出た二体はカルラさんと、意外にもティトさんのフォローで兄が倒しました。ティトさんは攻撃魔法を使うのは怖いらしいが、バフ・デバフ魔法は得意とのことでウルフに「スロウ」の魔法をかけ動きを鈍らせたところを兄のヘナチョコ剣でスパッと斬ったようだ。
……無論、超接近したウルフなんて見たくないと私と姉はしゃがんで頭を抱えて目を閉じていたから、詳しいことは知らないの。
「サクラもキッカも、戦闘中に目を閉じたら危ないわよ?」
頬に手をあてて「困った子ねぇ」ムーブで小言をかますのはオリビアさんだが、その眼は慈愛どころか殺気に満ちている。……すみません、素直に謝り反省するので、殺さないで!
「……きゅうん」
私の隣ではブランがヴィントとレーゲン親子に叱られている。シルビオさんたちの指示がないのにウルフに飛びかかったブランは、勢い余ってウルフを飛び越えてしまい、体勢を整えたときには討伐は終了。ブランはウルフを倒せなかったのに加えて護衛対象である主を無防備にしたことで、がっちりと従魔指導が入ってます。
いや、本当に気をつけて! 主を守ることに集中してよ。最悪、主を置いて敵に向かうなら、キッチリと倒してよ。なに、敵の体の上を飛び越えてんのよ。そんなことは求めてないの。今度、兄たちの飲み会の余興にでも披露しなさい。
「……わかってはいたが、アオイたちは魔物の知識も皆無だし、戦いの連携も取れてないな。サクラとキッカは戦闘の邪魔になっても戦力にはならんし……」
シルビオさんの厳しい言葉に、私と姉は首を竦めた。ここまで、シルビオさんのお眼鏡に適ったのはフォレスと小次郎だけです。兄は敵への初撃が遅いこと、ブランは勢いが空回りしていること、シンシャは……弱いこと。
「ヴェルデはほとんど寝ていて戦闘には加わらんし……」
シルビオさんの残念な子を見る目が小次郎の背中で眠るヴェルデに注がれる。正直、小次郎に次ぐ戦力なのに、めちゃくちゃ燃費が悪いのよねぇ、こいつ。
「シルビオ。今さら言っても始まらない。アオイたちは実戦で鍛えるのに限る。小次郎はいい冒険者になる」
レオンさん……余計なこと言わないで! 私たちは冒険者として鍛えてほしいわけじゃないです。ある程度のレベルになればいいのです。
「レオンさん、シルビオさん、僕、頑張ります」
あああああぁぁぁぁっ、小次郎のヤル気スイッチが入ってしまった……。
「お姉ちゃん、諦めよう。こりゃ、十階フロアのボス部屋を制覇するまで、帰れないわ」
当然、ダンジョンにてお泊り決定です。うわ~んっ、嫌だよ~。
その後もブラッドウルフという赤黒い体毛のウルフを倒し、視界をコウモリに奪われつつ十階フロアを進み、上階にいく階段を見つけることができました。
……いや、上でも下でも階段を移動してんのに十階フロアってどういうことよっ。
「シルビオさ~ん。二階に行ったらお昼ご飯食べたいんですが?」
イライラしている私の前を歩く兄がダンジョンで呑気な発言をした。怒られるんじゃない? レオンさんもダンジョンでは満足に食事がとれないって嘆いていたのに、お昼ご飯食べたいって。食べたいけど……。
「じゃあ、セーフティーエリアに直行するか」
え? いいの?
目を見開きシルビオさんの顔を凝視するが、冗談を言っているようではない。しかも、レオンさんやカルラさんさんたちまで、足を早めている気がする。そんな「ライゼ」の行動に戸惑っているのはティトさんと私だけである。
なんで?
「菊華ちゃん、早く行きましょう。今日のお昼ご飯は何かしらね?」
ウッキウキの姉に冷たい視線を向け、私はため息を吐いて歩きだす。
「お昼ご飯食べたあとはまた魔物退治よ? お姉ちゃんがレベル上げるまで続くんだから、もっと積極的に動いてよね!」
「うっ! ……わかってます」
途端にしょんぼりする姉。しょうがない……せめて姉の治癒魔法が骨折などの重傷でも治せるレベルになれば冒険者稼業も辞められるのになぁ。
「うん? どうしたの、小次郎」
自分の両手をじっと見つめていた小次郎が、兄へと視線を向け、私、姉と順繰りに見回す。ついでにブランとシンシャ、フォレスにまで。
「……ちゃんと菊華ちゃんたちのレベルを覚えておこうと思って。ダンジョン出たときにどれぐらいレベルが上がっているか、楽しみだね!」
「うっ……そ、そうだね」
小次郎のペカーッとした笑顔が眩しくて、邪心に塗れた己に刺さる。姉だけでなく、私のレベルが上がることも期待している小次郎を失望させないように、ご飯を食べたら私も適当に魔物を倒すとしよう。
私はあとでこっそりとフォレスにコウモリ魔物の接待討伐を依頼することを決意した。瀕死のコウモリ魔物を姉と二人で倒しまくろう。
でも今は、兄がルンルン気分で魔法鞄から取り出している昼食の準備を手伝うことにしようっと。




