古城とドラキュラ ③
私個人としては、わざわざボス部屋に突撃して戦闘したいとは思わないが、レベル上げできる状況に目を輝かし手に握った聖剣を振り回したい小次郎を見てしまったからには、仕方ない諦めよう。
無理せず、ギリギリまで「ライゼ」の皆さんに守ってもらってダンジョン挑戦といきましょう。
「小次郎。罠があるから魔物を見つけても、シルビオさんたちの指示があるまで動いちゃダメよ。その剣をブン回したい気持ちはわかるけど」
そう、小次郎が握っている剣は、あのアホ神が寄越した聖剣であり、持っているだけで「勇者」と身バレしてしまいそうな厄介な武器である。
まだ幼い小次郎では大きすぎるその聖剣だが、今は姿を少し変えている。これも昨夜、シルビオさんたちに正直に話したあと、助言をもらった結果だ。
「こんな目立つものをコジローが振り回していたら、単純に悪人に狙われる」
「野営していたら、魔物に襲われる前に盗賊に狙われるわね」
「……コジローには大き過ぎる」
レオンさんだけ的外れな助言だったけど、小次郎にとってはそれが悩みだったのだ。つまり、剣を上手に扱えないって。小次郎? 君はこの世界で「勇者」にならなくてもいいんだよ? そんなアホ神がくれた聖剣なんてポイッしちゃいなさい。
「……小次郎専用の武器なら、姿を変えることもできる?」
レオンさんは自分でも自信がないのか、そう呟きながら首を捻った。武器が持ち主に合わせて形を変えるのは、ファンタジーではあるあるらしい。姉が聖剣を撫でながら教えてくれた。オタクの姉の聖剣を撫でる手つきが変態くさい。
こうして、小次郎は周りに勧められて無機物に話しかけるという、黒歴史まっしぐらな行動をとらされた。編みぐるみのブランに話しかけ名前まで付けた私にしかわからない、痛々しさである。
でも、もっとふざけてたのは聖剣が小次郎の願いどおりに小さくなったことだ。今は小次郎が扱うのにピッタリな大きさだもの。それでも、盗難や身バレ、万が一のことを考えてダンジョン以外ではなるべく使わないようにしようと決めた。
そして、ここはダンジョン。つまり、聖剣の封印は解かれたのだ!
「うん、菊華ちゃん。菊華ちゃんと桜さんは僕が守ってあげるね」
うっ、眩しい! 小次郎の純真な心が眩しいよぅ。あと、小次郎の守護範囲から外れた兄は、がっかりしない! 自分の身は自分で守って。フォレスもいるんだし……シルビオさんたちがいれば強い魔物が出ても最悪な結果にはならないよ。
「では、出陣!」
むしろ、いつまでもフロアの出入り口で立ち止まっているなってことですよね。だって、怖いんだもん。
カツーンカツーンと床の上を歩く靴音が薄暗い廊下に響く。
ダンジョンのくせして古城フロアだから、壁には絵画が飾られ等間隔に花瓶が配置されている。花なんて活けられてないが。窓にはどんよりと暗い庭が見えるだけで、昼か夜かはわからない。これも、幻術で作られた偽りの景色なのかな?
そして、時おり生温い風がフワッと通り過ぎていくのが気持ち悪い。
大人数での移動なので、先頭はレオンさんと兄、小次郎、ちょっと遅れてティトさん。真ん中に役立たずの私と姉で左右のオリビアさんとカルラさんが守ってくれている。一番最後はシルビオさんとドラゴンのヴィント。ヴィントはチビドラゴンの姿で気楽にフヨフヨと飛んでいる。その余裕が羨ましいっ。
廊下は壁際に設置された蝋燭の灯りがほんのりと明るくしているだけで、足元は暗い。あと、気分も暗い。こんなの古城モチーフのロマンティックな風情皆無だし、完全にお化け屋敷のシチュエーションだもん。
「菊華ちゃん? さっきからブツブツ独り言が多いわよ?」
「……なんでもない。ちょっと雰囲気があり過ぎで不気味だなぁと思っていただけ」
ただならない雰囲気にテンションが上がっている姉に言っても無駄である。あれだけコウモリ魔物にトドメを刺すのに騒いでいたのに、今はコウモリの姿を見て喜んでいる。よくわからない人だ。
「あ、ウルフ……えっとあれは、ダークウルフですか?」
曲がり角からぬぼっと出てきたグレーの狼型魔物を指差しレオンさんに確認する兄。昨日、十階フロアに出没する魔物の勉強したもんね。でも、中ボスの存在は教えてもらってなかったけどさ。
「あ……、あのぅ、あれはただのウルフで幻影ですぅ」
とっても申し訳なさそうに正解を告げるのはティトさんだ。レオンさんは仏頂面でただ頭を左右に振るだけ。兄はくしゃっと顔を歪めた。
「葵さん。幻影の魔物が出るときは、別の方角から本物が襲ってくるはずです。剣を構えて!」
ただ一人冷静な小次郎が兄に注意を促しつつ聖剣を構え、鋭い視線で辺りを見回す。
「ギャウッ!」
汚い声で吠え涎を巻き散らし襲ってきたのは赤黒い毛のウルフたち。こちらを警戒することなく、そのまま小次郎と兄に噛みつこうとする。
「ガウッ!」
「あ、ブラン」
赤黒いウルフは全部で四体。兄と小次郎で一体ずつ相手をし、残り二体はこちらへと駆けてくる。それをブランは迎え撃つようだ。
カルラさんは両手にナイフを持ち私たちの前に、オリビアさんは震える姉の肩を抱いて後ろへと下がる。
……私はどうしよう?




