古城とドラキュラ ②
「…………」
シルビオさんの無言の圧が辛い。昨日の宿でブランたち編みぐるみ隊の紹介と説明は終わっている。私のスキル「手芸創作」の説明もした。とっても珍しいスキルらしく、興味津々に根掘り葉掘り質問されたが、本人も知らないことばかりである。
「アホ神の奴、スキルの取扱説明書も寄越しなさいよね」
誰にも聞かれないように小声で文句を言ってはみたものの、私は取扱説明書を読まない派です。
オリビアさんとカルラさんからは面白がられて、自分たちにも編みぐるみを創ってと強請られました。まだ、レオンさんにも創ってないのに……。もちろん、カラーシープのお高い材料が必要だからと丁重にお断りしましたよ。Aランク冒険者パーティーのメンバーだから、金銭感覚が違い過ぎて「あら、安いじゃない」って言われたけど。とにかく、今は注文を受け付けてません!
シルビオさんは何も言わなかったけど、じぃーっとブランを見つめていた。ドラゴンの従魔を持つテイマーなのに、かわいい系の従魔も欲しいのかな? でも口に出して確認はしない。ゴツイ男がかわいいもの好きなんて……ギッャプあり過ぎでしょ。
「キッカ。ブランたちにあまり側を離れないように命令してくれ」
「命令ですか?」
この子たち、私の言うことをあまり聞きませんけど? 兄はフォレスを呼び戻してちょっと困った顔をしている。
「レオンさん。フォレスも飛ばさないで一緒にいたほうがいいですか?」
フォレスが先行して警戒したり偵察したりして安全確保しているから、そのフォレスが動けないのは橘家としては痛いなぁ。今日は「ライゼ」が一緒だから斥候の役目はいらないかもしれないけどね。
「その子は大丈夫よ。このダンジョンは十階から罠があってね。その罠が発動するとパーティーごと別の場所に移動したりするの。誰か一人が罠にかかっても、パーティー全体が移動させられるから気をつけて。そのちびっ子たちが引っかかっても全員が飛ばされるわ」
カルラさんの言葉にゴクリと喉が鳴る。だって、大抵飛ばされた先には強い魔物がひしめき合っているって余計な情報が……。
私は足元にお座りをしてハッハッと舌を出している間抜け面のブランを見下ろし、ため息を吐いた。こんな落ち着きのないバカ犬に命令してちゃんと聞くだろうか? 魔物を見つけた瞬間、ワンワン吠えながら走り去っていく姿しか想像できない。
「ブラン……。今日は絶対に私から離れないこと! 魔物を見つけても何か見つけても走って行かないこと!」
人差し指を立てて、ひとつひとつ言い聞かせるけど、ブランは「わふっ?」と首を傾げている。もう、不安しかない。
「あのね! あんたが勝手な行動をしたらこっちも巻き込まれるの! いい? 大人しくしていてよ。もし、何かあったら……あんたの毛糸、全部解いちゃうから!」
「きゅゅゅゅゅぅん」
ちょっと脅したら、ブランは悲痛な声で鳴き、尻尾を股に挟んでブルブルと震え出した。
あれ? そんなに怖いこと言ったかな?
気を取り直して、いざオーディールダンジョン十階フロアに挑戦!
私の脅しにビビりまくったブランも中型犬サイズでぴったりと私から離れない。一応、さっきの発言は謝って取り下げたのに、ブランたちはすっかりと怯えて大人しくなってしまった。
そうよね、毛糸を解くって編みぐるみたちにとっては「終わり」だもんね。スマン、スマン。
「昨日も教えたが、ここのフロアは少し変わっている。まず、鬱陶しいぐらいにコウモリがいる」
うん、さっきからビュンビュン飛んでくる。フォレスが数体捕まえて、姉に「さあ、どうぞ」と差し出して大惨事になりました。……姉が。ナイフでサクッとトドメを刺せとレオンさんに言われて、泣く泣く手を動かしていた。
「このコウモリは半数が魔物で、残りは幻影だ」
「全然、見分けがつかないです」
このフロアのボスはドラキュラ。つまり、ボス部屋には棺が置かれていて、そこに寝ているドラキュラを倒すのだ。コウモリはそのボスモンスターの使役魔物みたいなもの。だからコウモリなんだぁと納得。そして、このフロア全体に仕掛けられた幻術の影響も。
「しかも、ボス部屋に行くのに、一度地上二階まで行かないとたどり着けないとか……ひどい」
私の文句に兄が反応した。
「いやいや、そういうもんだろう? 真っ直ぐ地下三階のボス部屋に行けたら、地上二階にした意味がない。地上二階で中ボス倒して、地下への道が開く。お約束だ」
そんなお約束はいらない。兄の話はゲームの話でしょ? ここは異世界のダンジョン。そんなお約束を守る必要ないでしょうが。
「アオイ、よく知っていたな。そうだ、この十階フロアのボス部屋に行くには、一度地上二階の中ボスを倒し、隠し階段で地下に下りるんだ」
シルビオさんの説明に、あんぐりと口を開ける兄。そうだよね、ゲームの話をしていたら現実でしたなんて……笑えない。
「シルビオさん、中ボスはどんな魔物ですか?」
小次郎のキラキラとした瞳にシルビオさんはちょっと微笑んで、橘家を絶望の底に突き落とす。
「地上二階にいるのは、狼男。人狼だよ」
マジかーっ!




