古城とドラキュラ ①
なぜ……私は再びここへ足を踏み入れてしまったのだろうか……。いや、再びではない。ここは……。
「ちょっとシルビオさん! なんで私たち、オーディールダンジョンの十階にいるんですか!」
そうここは、イルブロンの冒険者たちが集う塔型ダンジョンオーディールの低層階ではなく、ボス部屋がある十階である。当然、四階のフロアよりも強い魔物が出てくるし、ここから先に進むにはボス部屋をクリアしなければならない。私は十階をグルグル回って終わりでも大歓迎だけど。
「なんでだ? キッカたちはサクラのレベル上げがしたいんだろう? ついでにパーティーのランクも上げておくがいい。それには、強い奴らを倒すのが早い。大丈夫、大丈夫。俺たちにとっては激弱な魔物ばかりだから」
こっちにしてみれば、命のやり取りレベルの魔物たちがうじゃうじゃですけどね。しかも、レベル上げならその魔物を姉が倒さないと意味がないし。姉は涙目でプルプル震えてます。ここで頑張れば念願の編みぐるみ仲間になれるが……無理でしょ、これ。兄の顔色も悪いし……。
「この十階フロアは城をモチーフに展開されていて、地上二階の地下三階の造りよ。ボス部屋は地下三階にあって、セーフティーエリアは地上二階の玉座の間だから」
「……なんで十階フロアなのに、地下があるんですか?」
それって理屈がおかしくない? 十階が地上二階の地下三階建て古城仕様なんて。常識人である橘家一同が首を捻っていると、レオンさんはレーゲンを背中にくっつけてスタスタと歩いていく。
「おい、レオン。お前が露払いしたらコジローたちが何もできないだろう?」
そのレオンさんの肩をシルビオさんがガッチリと掴んだ。いやいや、レオンさんが強そうな魔物を倒してください。私たちはそのお零れで十分です。
「やだわ。そんなことじゃサクラはいつまでたっても半人前よ」
うふふふと優しく笑いつつ毒針をグサグサ刺して、オリビアさんは私たちの横を通り過ぎる。姉は刺された胸を押さえてしゃがみこんだ。
「あ~覚悟を決めるしかないか……いやだけど」
なんで異世界で土地付き一戸建てが欲しいのに、恐ろしい魔物が跋扈するとんでも空間を駆けずり回らないといけないのよ。でもなぁ、ここで姉がレベルアップして治癒魔法が飛躍的に伸びて、治療院に就職できたら万々歳だし。あと……。
私は青い顔でガタガタと震えているティトさんを見た。うん、先輩冒険者とは思えない怯えっぷりです。
「ティトさん? オーディールダンジョンには何回か挑戦したんですよね?」
あのチャラ男たちと、小遣い稼ぎに。
「は、はははははい。でも……ここは初めてですうぅぅぅっ」
「あー、うん。十階には来たことがないと」
つまり、ティトさんは素晴らしい魔法が使えるがビビりで実戦では使えないので、オーディールダンジョンの低層階しか入ったことがないと。
「シルビオさん? すでにメンバーの半数以上が役に立たないです」
姉とティトさんはもちろん、私と兄もダメ。
「そんなことはないだろう。コジローはここでも十分戦力に数えられるし、あの珍妙な生き物たちもヤる気が漲っているぞ」
シルビオさんの視線の先には、尻尾ブンブンのブランと、無駄にレイピアを振り回すシンシャの姿が。フォレスは一足先に偵察にヴェルデと一緒に飛んでいってしまった。
「ははは……」
そう、レオンさんに引き続きシルビオさんたちにもブランたちの正体がバレてしまい、私の「手芸創作」スキルも隠すことができなかった。
コホン。
わざとらしく咳払いをしたシルビオさんは、ジト目でブランたちを見る。ただ黙って見る。オリビアさんは女神の微笑みで、カルラさんはニヤニヤとチェシャ猫のように。
沈黙が続けば続くほど、こちらが追い詰められる。レオンさんは自分には関係ないと、頬をリスのごとく膨らませて兄の作った猪肉料理を堪能している。ちょっと、こっちのフォローしてよっ。
姉は私の側から離れティトさんの隣へ無言で腰を下ろし、兄はそそくさと空いた皿を持ちキッチンへと隠れる。
うぐぐぐっ、私一人に押し付けたな!
「あ、あのっ。この子たちはシルビオさんたちと別れたあと従魔になったんです!」
両手を握りしめてシルビオさんの前に出た小次郎の背中……ううっ、ありがたい。でも、小次郎の健気な姿に微塵も心を動かされなかったシルビオさんは「ほおおぅっ」とさらに目を眇めた。
「私たちの後に、ウルフとオウルとネコの魔物と従魔契約ですか? しかも、コジローが背負っているのは……あなたたちよりも強いのではなくて?」
オリビアさんの指摘にゴクリと喉が鳴る。そうですよねぇ、そんな短期間で従魔契約するには数は多いし種族もバラバラですよねぇぇぇっ。
「キッカ。隠してることがあるなら、話せ。俺たちも無理には聞き出したくないが……レオンがこの調子では、俺たちとキッカたちはこの後も何かと一緒に行動することがあるだろう。そして、その場所は大抵は危険な場所だと思うぞ?」
「ですよねえぇぇぇっ」
Aランク冒険者パーティーと一緒に行動するなんて、命の危険がある場所に決まっている。そんなとき、こちらが隠していたことが生死を決めることにもなりかねない。
私は肩をがっくしと落として、自分のスキル「手芸創作」の説明をするのだった。




