臨時メンバー加入 ⑩
カルラさんの挑発的な言葉にティトさんの肩がピクンと反応する。
しかし、彼はカルラさんを睨んだり声を荒げたりすることもなく、黙って俯いた。でも、握りしめた両手の震えがティトさんの心情を表している。
「カルラさん。ティトさんは臨時でも私たち橘家のメンバーです。彼をバカにしたら……、えっと、小次郎が許しませんよ?」
「え、ぼく?」
突然名前を呼ばれた小次郎は目を丸くして自分を指差す。すまん……カルラさんに一発入れられるのは小次郎しかいないのよ。ああ……ブランたちでもいいかな?
「……っ」
私の視線からプイッと顔を背けるブラン。あんたでも、カルラさんは怖いのね?
「そんなつもりはなかったのよ。ほら、私も似たようなモンだし」
カルラさんがニッコリと笑うが、その目が笑ってない気がした。うわ~っ怖い。でも、シルビオさんたちはみんな種族が混じっているって。カルラさんもエルフと猫獣人との間に生まれたけど、見た目はほぼ猫獣人だから、敢えてエルフの血が入っていることは吹聴していないって。
「いいんですか?」
カルラさんの秘密をバラしちゃって? 私の伺うような表情にカルラさんは苦笑しつつお酒をガブリと一気飲み。
「エルフってどんな種族だと思う? まあ、魔力が多くて魔法が使える。眼がよくて弓や投擲が得意。頭もいいし手先も器用だから罠解除もお手のもの。能力としては抜群だけど、偏屈で閉鎖的な考えでお釣りがくる」
私は真面目にカルラさんの話を聞きつつ姉の腕をグイッと引っ張った。もちろん、姉のオタク知識を頼るためである。
「エルフって森のエルフとか草原のエルフとか住んでいる場所によってタイプが違う場合と、ダークエルフとかハイエルフとか種族としてちょっと違うタイプがあるのよ」
「そうなの? みんな、色白で金髪で細身で美人じゃないの?」
これは私のイメージするエルフだ。ティトさんは顔は美しいが色白より不健康な青白さだし、細身じゃなくてガリガリだ。麗しいとうっとりする前に倒れるんじゃないかと心配するレベルだもん。
カルラさんは、エルフの持つ繊細さとか儚さみたいなものはぶっ飛ばして、生命力に溢れている。キラキラと好奇心に輝く瞳はまさに猫! 猫獣人の成分が強いのかな?
「キッカ。あんた、なんか失礼なこと考えてるでしょ? あと……サクラは物語の読みすぎ。エルフでも森の奥に住む純血を尊ぶ奴らは僅かだよ。ほとんどは街に出て好きな仕事をして、エルフでもエルフ以外でも結婚して、他の奴らと変わりなく生活している」
「はあ……そうですか」
いや、この世界のエルフの実態なんて興味はない。あ、私はないです。姉は興味津々でキラキッラの瞳でカルラさんににじり寄っているけれども。
「なんだよ、その生返事は。ちょっ、ちょっとサクラ! あんた、鼻息荒いよ?」
しっしっと手で姉を追い払うカルラさん。そんな二人の様子を横目て見ながら静かに逃亡しようとするティトさんの後ろ襟首をカルラさんはしっかりと掴む。
「お前との話はまだ終わってないんだよ」
「ひいっ」
待って、待ってカルラさん。そんなに凄んだらティトさんのやわなハートが……。
「キッカたちもよく聞きな」
「「はい」」
あ、私たちも巻き込まれるのね? はい、わかりました。私は姉の手を掴んで離さない。いざとなったら姉を犠牲に逃げる所存なので。
見目もよくて、身体能力も高くて、頭もいい。そんなエルフ族は確かにちょっと自尊心が高くて主張が強い人が多い。
だが、ティトさんは全くの正反対。自己評価が低く自分の意思はヒョロヒョロだ。カルラさんとしては、そこが気になったらしい。ついでに、ティトさんを私たちに押し付けてきたイルブロンの冒険者ギルドサブマスター、ファビオさんとはお知り合い。
「なるほどねぇ。父親からの教育方針で自立させられたけど、都会に出てきて職場の人間関係に失敗して冒険者に。そこで、冒険者くずれに引き込まれてあわや犯罪奴隷堕ちになるところでキッカたちに会ったと」
別にティトさんになにか大事件が起きてコミュ障エルフになったわけじゃない。元々大人しい性質だったのに、父親からの無茶ブリで世間の荒波に揉まれ過ぎて、諸々が悪化しただけです、たぶん。
「カルラさんは……猫獣人とエルフの……?」
「そうだよ、まぁ、猫獣人が強いけどねぇ。あんたは、そこら辺のエルフより魔力が多そうだね。しかも治癒魔法が使えるなんて。冒険者パーティーに一人は欲しいよ。もっと明るい性格ならね」
カルラさん……何気にティトさんの胸を抉ってます。
「コホン。カルラさんの言い方はともかく、確かにティトさんの能力は素晴らしいと思います」
私が突然ティトさんを褒めると、彼はポッと頬を染めもじもじとしだした。乙女かよっ。
「でも! それだけの実力がありながら、いざとなったときに的確な判断ができないのではもったいないです! 力の持ち腐れです!」
「も、もももちぐされ?」
ティトさんの眼が白黒しだしたが、ここは大事なところだ。
「はい。どんな状況でも冷静で適切な判断ができるよう……ダンジョン攻略頑張りましょう!」
大丈夫、大丈夫! 私たちはあなたの力にはなれないが、今日このとき! Aランク冒険者パーティーが現れたのだから!
私はダンジョンアタックに「ライゼ」という鉄壁の護衛を連れていくことを決めた。え? 彼らが受けてくれるかって? ふわははは、大丈夫。
「報酬は兄のご飯で!」




