35話 ペニシラ・フォン・ガルガリア
「おい、何だお前」
教室を出ようとしたユニオの肩を黒髪女がつかむ。
「何がですか?」
精霊の視線に気づくスキルを持っているのだとしても、俺に繋がりを見つけられるとも思えないのだが。
「何が、だと?授業中こちらをチラチラ見やがって......。気が散るんだよ」
精霊を操っていると気づいているのか。
にしても......。
「授業に集中しているようには見えませんでしたが」
「授業なんざ聞いちゃいないが、鬱陶しいものは鬱陶しいんだよ」
それは確かに。
「遠くからわざわざ高等部に来たんだろうに、そんなに適当で大丈夫なんですか?」
「ああ?私は中等部からここにいるぞ?」
中等部を出ていればこんな授業受けないんじゃなかっただろうか。
「じゃあ、なぜこんな基礎的な授業を?」
「楽だからだ」
「楽?」
「こんな授業今更聞くまでもない。単位を取るのに何の労力もかからないんだ。取らない理由がない」
不真面目な大学生みたいなこと言ってる......。
「それで卒業できるんですか?」
「卒業資格はもう持ってるからいいんだよ。単位さえ集めれば私は卒業できる」
「卒業資格?」
「ああ......ってなんでわざわざ説明してやらなきゃならないんだ。んなもん自分で調べろ」
後でシャルロットたちに聞いてみよう。
単位以外にどんな条件があるのか。中等部の卒業資格の1つは何らかの魔術スキルのレベル3だったから、高等部でも似たようなのがあるんだろう。つまり、適当そうな雰囲気とは反対に、優秀な魔術師である可能性が高い。
「レベル6?いや、6は魔術師全体の上澄みだったはず。つまり5?」
「んだよ、知ってんのかよ。そうだよ、闇魔術レベル5だよ。他の条件はそんなに厳しくない」
じゃあ、ゼートはもう卒業資格をほぼ満たしてるのか。
「知り合いの火魔術師レベル6はさらなる上を目指しているんですが、そういうやつばかりじゃないんですね」
「火魔術レベル6って言うと、アルブリアの次男か。ご熱心なことで......。貴族が強くなってもいらぬ面倒を被るだけだろうに......」
「知り合いなんですか」
「家のつながりでな」
そういえばまだ名前を聞いていない。
「岡島賢一です」
「何だ突然?ああ、私の名前を聞きたいのか。ペニシラ・フォン・ガルガリアだ」
案の定貴族だった。
「って、んなことはどうでもいいんだよ。ちょっかいをかけるのをやめろ。鬱陶しい」
そうだった。その話をしていたんだった。これは全面的に俺が悪い。
最初はただの人間観察だったのが、途中から反応が面白くて続けていた部分もあるし。
「これはどうもすみません。これからは気をつけます」
「気をつけろ」
そう吐き捨ててペニシラは教室を出て行こうとする。
だが、同じ授業をとっている暇そうな有能というのは見逃せない。
「これからちょっかいをかけない条件を言っていいでしょうか?」
「ああ?」
「俺に勉強を教えてください」
「何で私はそんなこと......」
「暇なんでしょう?」
「確かに暇だが......」
「優秀な魔術師なら、こんな授業を教えるのは訳ないのでは?」
「できるかできないかでいえば、できる。だがやらない。面倒だからだ」
面倒なことを嫌う人間なのは察している。
「そこを何とか」
「面倒なやつだな」
そう言ってペニシラはユニオの頭を手のひらでガシッとつかみ、何かしだした。
が、うまくいかないらしい。
「ん?何だ......?私の魔術が効いていない......」
何かされてる感じはしない。ユニオにも変化がない。
「私の魔術を妨害しているな?」
していないのだが.....。
ペニシラのただでさえ鋭い眼光がさらに鋭くなる。
そして手のひらをユニオの頭から離し、こう言った。
「精神操作が効かないなら、体に教えるだけだ。少しは抵抗してみるといい『闇鯰』」
次の瞬間、ユニオの体は地面に押しつぶされ、肉の塊になった。
「は?」
ペニシラの馬鹿みたいな声が、静かに響いた。




