43 事情
「……そういうわけで、オレリー嬢には、こちらに留まっていただけるようになりましたので、どうぞご安心ください」
ジュストがサラクラン伯爵家へと赴き、父と話を取り決めた話をすれば、オレリーは目に見えて安心した表情になっていた。
家出した後にお父様に会うのは、とても勇気が要るものね……あの時の私と同じ思いを抱いたであろう妹へ、安心させるために微笑んだ。
オレリーも胸に手を当てて、にっこり微笑み返した。
アシュラム伯爵家の夕食の席でも、オレリーはしっかりと食事を摂れていた。こんな普通の子なら当たり前の姿を見ても、病弱だったこの子を見続けた私には感動してしまうのだ。
やはり、オレリーが健康になったことには間違いなく……この子の心の持ちようにもそれは、影響を与えたのかもしれない。
いつも『計算通り』みたいな顔をしているジュストだって、病弱ではなくなったオレリーの内面の変化を見通せなかった。
本当に、劇的な変化と言えるわ。
「……オレリー。トレヴィル男爵にベイリー侯爵夫人に仕掛けたという詐欺行為だけど、私たち二人に詳しく話せる?」
食後のお茶を出されて落ち着いたところで、私は肝心の話を切り出すことにした。
オレリーは神妙な面持ちで頷き、私と視線を合わせた。
「はい。お姉様。ベイリー侯爵夫人は現在、侯爵を突然亡くされて、悲しみのあまりに判断能力が低くなっておられるようです。そこに漬け込もうと狙っていると、彼らは笑いながら話していました」
「まあ! ……突然家族を亡くしたのだから、そうなることは当然だわ。とんでもない人たちね」
家族を亡くして悲しみに暮れている人の判断能力が落ちているから、詐欺行為を仕掛けるなんて……信じられない。いえ。だからこそ、詐欺師なのだわ。
私の言葉にオレリーも頷き、話を続けた。
「本当に、そう思いますわ。それに、ベイリー侯爵夫人は元子爵家の令嬢、後ろ盾も強くなく、結婚時を反対されたため親戚ともあまり上手くなっていない様子で……ベイリー侯爵は絵画に精通しており、名のある画家の名画も集められていたそうです。歴史的価値のあるものも……」
「それを、詐欺行為で騙し取ろうと……? ですが、分解してしまえば足の着かない宝石とは違い、名のある絵画であれば盗まれたことがわかれば、すぐに露見してしまいますが?」
ジュストはお茶を飲みながら、難しい表情を浮かべていた。
「だから、闇市に売ると言っていました。もし、盗品だとしても表に出なければ、それはなかったことになる。だから、侯爵夫人を騙して、すべての絵画をベイリー侯爵邸から運び出すのだと……」
「はあ……なるほど。誰かの家の中に隠されていて、何十年か何百年かしてから、その存在を現す……そういうことですかね。表立って飾れない絵画など、ただのゴミに思えてしまいそうですが、価値観は人それぞれですので」
私も名のある絵画なら自慢したいと思ってしまうところだけど、所有欲を満たせれば良いという人も居るかもしれない。
「ですが、いまこの時を狙われたなら……ベイリー侯爵夫人が気の毒です! 家族が突然の事故で亡くなられた直後に、大事な財産まで騙し取られようとしているのですよ!」
そこで、私はジュストと視線を合わせた。私は彼へ何も言わずににっこりと微笑んだ。
何があったとしても……どうにかしてくれるという、そういう安心感を、ずっと私はジュストに持っていた。
だから、今回もきっとそうしてくれるはずだわ。
「その件については、僕がなんとかしますので、オレリー嬢はどうか落ち着いてください……数日はこちらへ滞在されて、ゆっくりされるのが良いかと」
少しだけ口元が引き攣っていたけれど……それは、もう見なかったことにするわ。




