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82: 大海に浮く木屑、うず潮に飲まれ、雨になれぬ

「ゔっ」


ダメだ、意識がはっきりしない。


視界は戻せて、明らかに異形の動きがなくなっているのをしっかり確認できたというのに、早く異形を殲滅しなきゃ、という焦燥だけが血となって、身体を巡る。


現実から乖離した思考が浮いている。


もう動けないはずの身体に闘志のような熱さが宿る。

私は何と戦おうとしているのか。


これは自分じゃない。

でも裏人格でもない。


分からないけど分かる。


私に何かをした存在。


間違いなく、この場にいる。


すべてが見えているのに、よく分からない異形とは真逆だ。

何もかも五感では正確に捉えられていないのに、居るということだけは確信に近い。


私はその存在に抗いたい、そう思っているのか?


もはや、自分が何を思っているのかすら分からない。


でも戦うという文字だけはしっかり浮かんでいる。


私を支えているはずの海漓和の方向を見る。


!!!


ん、いや、気のせい、、、?

一瞬、”人でない輪郭”が海漓和に重なったように見えた。


そんなはずない。


海漓和は敵じゃない。


「ね、ねえ、みりあ、今、状況はどうなってる」

「仄葉でしょっ?!」


な、なにが?


突然過ぎて言葉を発せない。

とても、怒気が籠った、低い海璃和の声。


「仄葉、やっぱり、て、てき、じゃないじゃないじゃないああ゛っ」


な、何何何?!


どうしたの海漓和?!


えっ?!


なにが起きてるの?!


「仄葉が変なことしたから!こんなになったんじゃないの?!」


やばい、海漓和から攻撃?!


魂力を使って楯を出す。

海漓和製の不思議な近接武器と私の楯が衝突して割れんばかりの強烈な音が爆発する。


筋力もオドも疲弊しているのに、身体は海漓和の攻撃を耐える。

なにか補助をされているかのように。


謎壁製銃を添えるために付けた窪みから、海漓和の目が見える。


おかしい。


明らかに、闘志のある目ではない。


···


支配された。


間違いなく。


今私に不明の闘志が宿っているのと同じ。


そうじゃなきゃ説明がつかない。


間違いなく、”私たちがは戦わなきゃいけない運命”、にさせられた。


束の間、ドュン、という爆音。


「ホ、ホノ、よ、避けて!!!」


1%の『そんなのあり得る訳無い』があっけなく消滅する、咲の声。


感じる、大量のマナ。


無理だ。


そう思った瞬間、目の前から咲と海璃和が消える。


いや、私が移動した?


『危なかった!!!仄葉ちゃん、大丈夫?』


“声”のする方に頑張って体を向ける。


!?


何か、半透明に見える、人型の存在。

自分の知っている想像上の生物には少なくとも当てはまらない。

明らかに人間ではない。


一瞬知ってる声かと思ったけど、ちがう。


「だ、誰?」


『あ、ごめん、もう跡形もないと思うけど、私はメ・・・?、陽田楓、だよ!』


え!?

咲の友達の!?


最後の記憶すらあやふやだけど、あの時と比べると確かに、跡形もない。


「陽田さん、なの!?」

『うん、分かるわけないよね。それより、楓で、いいよ。こんな状況じゃ言葉は少ない方がいい。』

「う、うん、じゃあ、楓、楓は私に攻撃してこないんだよね?」

『うん。研究室の方たちからも連絡があったんだけど、戦場がおかしいの。異形は突如攻撃してこなくなって、戦場内で争いが始まっちゃった、って。上空から様子を見てたんだけど、仄葉ちゃんは暴れない側だったから、私の力でなんとか一時的に退避させてもらった。』

「ありがとう、暴れない側ってことは、ほかにもそういう子が暴れてる側に襲われてるような感じなの?」

『そう。もう、なにがなんだか。下を見てもらえれば分かるけど、今、私たちはかなり上空に居る。私たち人外だからなんとかここに居れる、そんなくらいの高度。』


言われて下を見る。


!!


確かに。


私がここに戻ってきた時と同じくらいの高高度。


『いったん、仄葉ちゃんも身体休めて。多分、その内、私たちのところにも異常は来る。私はこんな(なり)だけど、非戦闘員、補助くらいは出来るかもだけど、だから仄葉ちゃんに戦ってもらいたい。』


「分かった」


それより。


このままじゃ、平穏から離れるばかり。

でも、もう、どうすればいいのか分からない。


もう、大規模な魔法は発動できない。


私は、みんなと平和に暮らしたい。

その一心で異形をどうにかできるかもしれない魔法を実行してみたけど、無理だった。

仮にこのまま、この場所で回復出来たとして、そのマナでどんな魔法を実行すればいいか。

分かるわけがない。

異形をどうにかする魔法が成功したか失敗したかも分かっていない。

少なくとも、現状を見る限り、失敗した可能性の方が高い。

最も最悪な方向で。

そして、現状を説明できない。

なんで、海璃和達はあんなふうになってしまったのか。

それを説明できない限り、どんな魔法も実行しようがない。


やっぱり、余計なことをせずに、ひたすら異形を退けていればよかったのかな。


そんなはずない。


全く終わる気配が無かった。


みんなと合流できる前の戦闘で、私は最小限の被害で合流できた。

なのに、結局こんな混沌とした状況。


どう考えたって私のせいだ。


誰もどうしようもない。


お父さんたちからの新しい情報も共有されない。


・・・


結局、私が戻ってこなかったら良かった、そういうことなの?


・・・


以津真天から、フォローの言葉は来ない。

さっきから、会話ができなくなっている。





悪魔と和解できた。

異形だって、一応止められはした。

でも、この有様。



幸せになるために、辛抱して、耐え抜いた先の希望を胸に戦った。

だめだった。


もう、自分が何を考えて、感じているのか。


何もつかめない。


そして、こんな高高度からでは、地上で戦っているみんなの表情は見えない。

直感が、みんな苦しみながら戦っている、と認識する。


もう、私が全部破壊してしまった方が。


いや違う、何を考えた!?


だめだ、もう、心まで悪魔に染まって。。。


いや裏人格…?


以津真天からも、一切の声を感じられない。


もはや、裏人格だと思ってたものの方が本体なんじゃないかっていう錯覚すらある。


本当になにも分からない。


わたしは、ただ、他愛のない話のできる日常に戻りたい。


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