78: 金型に戻され緩くなる刀
「ぐっ、ごほっごほっ、···」
···
ここは、どこかしら、、、
···?
万華鏡の中に入ってしまったかのような視界。
私は寝転がっている?
多分そう。
起き上がりたい。
でも、何も動かない。
三半規管は私がまだ仰向けであると教えてくれる。
筋肉が全て外れたような、身体が自分の物ではないような感覚。
···
呼吸はできている。
自分の意思と筋肉が繋がっていない、とでも表現するのが適切なんだろう。
···
カラーセロハンは徐々に一体化して、丸い蛍光灯に変貌する。
どこか、建物の中で仰向けになっているみたいだ。
わずかに、肌に温もりと優しい感覚がある。
何か布のような感覚。
人のうめき声のような音と、ガサゴソ音が耳に届く。
多分、私と同じ様に仰向けの人が何人か居るみたいだ。
···
右、を、向く。
ゆっくりと丸い蛍光灯は左側に移動する。
正面には、雑多に物がある。
はっきりとは見えない。
ここは、倉庫、かしら。
なぜ私はこんな所に···
···
えっと、私は何をしていたのだったかしら。
···
······
フィルムを辿る。
···
映るのは戦いの映像。
···
私に関係のある戦い。
あ、仄葉を助けるための訓練。
博士からの無茶な組み合わせの訓練戦を受けて、···
ああ、仄葉らしき悪魔が襲来しているらしいからって解散になったんだったわね。
シェアハウスに帰ったのは思い出せたわ。
···
でも今は倉庫。
もっと自分の状況を知りたい。
起き上がりたい。
左腕と腹筋に力を入れ、、、ら、れた、気がすると、上体が、起き上がった。
良かった。
やっとなんとか身体が動いた。
ゆっくりと周りを見る。
私と同じ様にベッドから起き上がったり、仰向けでいる人が沢山いる。
ベッド?
倒れたの?
私。
何で?
「起き上がれた皆さん、私の声、聞こえていますか?!」
…
この声は、クラスメイトの等嶺奈さんの声。
教室では聞いたことないような、大きな声。
聞こえているわよ。
···
?
声が出ない。
手、手なら上げられるんじゃないかしら。
ゆっくりと腕が上がっていく。
「つ、椿嶋さん!良かった、反応ありがとう!見えてる!」
よ、よかったわ。
「他の起き上がれている皆さんも多分声聞こえてると思うので、今の状況を説明します!落ち着いて聞いてください!救護班の皆、起きた人の中でヤバそうな感じの人居たらすぐ駆け寄ってあげて!!!」
「「「「はい!」」」」
「まず、皆さんは大体2時間、昏倒状態でした。」
?!
「反応大きい人いる、急いで!
はい。
理由は、仄葉さんからの魔素圧です。
皆さん、昏倒状態明けなので、意識障害で、現状が記憶とズレている、と思います。皆さんが倒れた時は、仄葉さん救助作戦が、始まったタイミングです。」
全く、思い出せない。
たった2時間前のことらしいのに、頭に少しも情景が浮かんでこない。
それに、魔素圧って魔法使いか異能由来の魔法を使う人、気の弱い人しか影響を受けないんじゃなかったかしら。
でも現状がそれを否定する。
「しかし、今はもう、仄葉さんとの戦いは終わっています。」
え?!
私、達が昏倒している間に全部終わったの?!
「皆さんの昏倒が終わったのは、仄葉さんを倒したから、ではないです。」
!
ということは、博士たちの捕獲作戦が上手く行ったのかしら?
「仄葉さんは、姿としては、悪魔から人間には、戻れないけれど、悪魔を克服して人の心に戻っています。そして、再び日常に戻れるよう、この地に戻ってきた、らしいです。」
そうだったのね、良かったわ···
無事に戻ってきたのね。
「しかし、戦いは終わっていません。」
え?!
···
ど、どういうこと?
引き連れてきた悪魔が仄葉の言うことを聞かなかったとか、かしら···
「仄葉さんと一区切りがつこうというタイミングで、異形が現れました。」
い、異形!!!!
タイミングに悪意すら感じる。
「今は、仄葉さんを含め、魔素圧で倒れなかったメンバーが応戦中です。皆さんは、昏倒明けで、身体をうまく制御出来ていない上に、状況の整理もついていなく、気持ちも追いつかない状態だと思います。そして、異形との戦闘中なので、帰宅も難しいですし、ご自宅が戦場になっている可能性もあります。戦場に、今すぐ復帰はできないと思います。というか、しないでください。そのため、起き上がれた皆さんは少なくとも30分は安静にし、そこから、人によっては回復魔法や補助魔法のサポートありき、の戦場復帰となります。そうでない方は、心苦しいと思いますが、ここで安静にして頂きます。」
できれば元気に声を出して返事をしたい。
しかし、無理だ。
こんな状態では、確かに戦場に戻れるわけがない。
「起き上がれた皆さんは、また、ベッドに横になっていただき、覚悟や心情の整理をお願いします。」
はい。
状況は分かった。
一旦、何より、仄葉が戻ってきたみたいで良かった。
早速、異形と戦っているみたいだし、頼もしいばかりね。
でも、可能なら復帰したい。
意識と思考の速度は戻ってきてると思う。
手を開く。
···
指が開花する。
腰をねじる。
···
腹斜筋が反応する。
うん。
身体はまだ、時差なしで動いてくれない。
筋肉の応答は早くなっている。
けど、それだけ。
これでは、攻撃を当てられないし、回避も無理だ。
せめて、歩いて現状くらい、自分の目で見たい。
等さんには寝ててと言われたけど、もう一度身体を起こす。
さっきより、早く身体が起きる。
腰をねじって、脚をベッドの外に出せば、自重で自然と足が地面につく。
「ちょっと、椿嶋さん?!大人しくしてて!」
こ、声、
「こ、こ、」
「?」
まだ声が出ない。
「あ、まだ声が出せないんでしょ?不安で様子を見たいのは分かってあげられるけど、もうちょっと我慢して。椿嶋さんの回復速度なら、あと10分もすれば、歩けはすると思うから。ね?横になって心を休めて。」
同級生に看護師さんの様なことを言われるのはこそばゆい。
私をやんちゃな男の子を見るような優しい目で見てくる。
仕方ない。
私は頭を縦に振る。
「よし、偉いね。」
!!!
顔が一気に熱くなる。
急いで顔を隠したいけど、数テンポ遅れて身体は反応する。
指の間から覗いてみると、等さんはもう、他の人にも同じことを言いに行っていた。
大人しく、横になるしかないみたい。
私は手も使って脚をベッドの上に戻し、腕を使って身体をゆっくりベッドに下ろした。




