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77: 沈殿しきらず、より煮沸される、混ざりきらない金属片

あぁ!

お父さん!

さっきの研究所らしき場所の上空で感じた緊張はこのスライムドームにはない。


なぜか簀巻きは解除された。

雪凪ちゃんの心遣いかな。


「ううん、良かった、やっと話せる。私は、私、だよ。」


私はお父さんをギュッと抱きしめる。

前より太ったね、お父さん。

私を頑張って探そうといろいろ頑張ったんだろうな。

ストレス太り、そんな気がする。


スライムのドームの中でお父さんと二人きり。

嬉し涙を頑張って引かせて。


「スーッ、フーッ」


深呼吸。


「落ち着いて聞いてね、私悪魔の元凶なんだって。」

「!?」

「でも、この世界の私じゃない。『世界の奪取と放射(ワールドスイッチング)』の元になってる方の私。」

「仄葉、『世界の奪取と放射(ワールドスイッチング)』はどこで聞いたんだ?」

「え?あ、チロちゅんだよ、使い魔の。」

「ああ、そういえば『加護に祝杯を』は仄葉が教えてくれたことだったな、、、」

「え?私何かお父さんに教えたっけ」

「!?」


お父さんの様子がおかしい。

目が大きく開いたまま、目線が泳いで、手で頭を掻き毟ってる。

でも、私からお父さんに何かを直接伝えることは基本的になかったはず。

多分、私を見つけるために奔走してたから、誰か別の人から得た知見すら私から得たことになっちゃったのかも。

ちょっとよくわからないけど。

だいぶ、取り乱してる。


「お、お父さん、大丈夫?」

「あ、あぁすまない、大丈夫だ。疲れ過ぎて記憶がおかしいことになっただけだ。それより仄葉、改めて聞きたいんだが、本当にもう人間には戻れないのか?」

「うん、私のなかにいる以津真天って名前の悪魔さんに教えてもらったけど、私が死ぬまで無理だって。特に私は一般的な取り憑かれ方じゃなくて悪魔の特別な道具を使われて強く憑かれてるから、心臓を刺されない限り無理だって。むしろ私も聞きたかったんだけど、やっぱり私、人間には戻れないんだね、お父さんなら何か解決案とか突き詰めててもいいかななんて思ったんだけど。」

「あぁ、お父さんも無理だったよ。もう普通は帰ってこない。」

「そっか···」


戻れないことに関しては、魔法で見えなくさせるとか一応対処方法はあるから、私的にはすごい悲しいことではなくなってるけど。

一縷の望みを掛けて聞いてみたけど、まあ、無理だよね。


それより、”普通は帰ってこない”って、かなり大袈裟な表現な気がする。

私が悪魔の姿になっただけじゃこんな反応にはならない気がする。


「ねぇ、私は悪魔になっちゃったけど、お父さんから見て、私はどんなふうに見えてる?見た目の話じゃないよ?」


「そうだな、その淡々とした所は仄葉の良いところだ。変わらず。違うと言えば、前より自信に溢れる佇まいな気がするところか。」


「よかった。なら、もう私たち、戦わなくて大丈夫だよね?」


「あぁ、少なくともお父さんは安心したよ。良かった、無事に帰ってきてくれて、、、ぅ」


お、お父さんが泣いた!

人生の中でお父さんが涙ぐむ姿を見るのは初めて。

良かった、それだけ私に姿以外の違和感がないんだね。

娘バフみたいなのもあるとは思うけど、安心。

正直、裏人格が暴れ出すんじゃないかって心配だったけど、そんな気配はない。

悪意や攻撃性に対して反応してるだけだ。

それより、外が騒がしい気がする。


「ねぇ、お父さん、スライムドームの周り、今どうなってるの?あと、”普通は帰ってこない”って言い方、凄い重く聞こえたけど、今外が騒がしいのと何か関係はあるの?」


「あぁ、そうだな、関係ある。仄葉が疲れてなければ手伝って欲しい。あれだけビームやらなんやらで攻撃したから消耗してると思うが。」


「つまり、何か、敵が居るんだ?」


「そうだ、かなり厄介だ。人間がどうこうできる相手じゃない可能性がある。」


すると急にお父さんが入ってきたほうのスライムが開いて、灯紫川さんが入ってくる。


「博士、早くして、、、あ、ほ、仄葉さん、なん、だよね···?」

「うん、久しぶり、灯紫川さん。閉じ込めてくれてありがとう。」

「今後一生聞かなそうな感謝の言葉ね、どういたしまして。良かった、、、じゃなくて、博士!戦場に異形が溢れています!無線は陽田さんの魔法で一応なんとかなっていますが、」

「わかった、では一旦陽田さんに仄葉は本当に姿だけが悪魔なだけだと伝えてくれ。全員に情報が行き届いたらスライムを解除してくれ。」

「了解です!」


≪よかったね!仄葉!一段落はしたけど、もう一波乱あるね。今言ってた異形ってのが敵なのかね?≫


だろうね、とりあえず良かった。

落ち着けると思ったけど、まだまだ戦いは終わらなさそうだね···

魂力の残量はどうかな。


≪魂力はまだ余裕あるけど、オドの方がヤバいんじゃない?疲れとかどう?≫


うん、疲れてはいるけど、まだ大丈夫だと思う。


≪じゃあ魂力ベースの戦闘スタイルのほうが暴走しないかもね。≫


そうだね。


話が一区切りついたタイミングで、急にスライムドームが消える。


私の情報が皆に行き届いたみたい。


「ホノっ!!!!」


聞き覚えというか、聞き慣れて傍に居ることが当たり前になっていた声が私ごと吹っ飛ばす勢いのジャンピングハグをしてくる。


「咲!!!!ぐふっ」


咲の豊満な胸から鼓動が伝わってくる。

私臭くないかな。

あ、悪魔の影響で生理現象基本ないんだった。

にしても、私が以津真天達に憑かれてからどれくらい経ったか分からないけど悲しい思いさせちゃったもんね。

異形とやらとの戦いなんてさっさと終わらせて、静かに暮らせるか分からないけど暮らすんだ!


≪傍から聞いてるとフラグにしかなってないけど、その勢いだよ!≫


へへ。


「さっきは叩き落としてゴメン、大丈夫だった?」

「すごい魔力で突然上空に現れたの、咲だったんだね、いや、もう地面に刺さって目眩で立てなかったよ。」

「え、そんな威力になってたんだ、ご、ごめん」

「いいよいいよ、それより、咲、寂しい想いさせちゃってごめんね。でも、今、異形とかいうやつと戦ってるんでしょ?」

「うん、そう。」

「じゃあそれ倒してお話、沢山しよ!」

「うん!」

「よし、じゃあ早速で悪いが。仄葉、あの倉庫みたいな建物に行ってマナ圧で倒れている者とか、一部怪我をしているメンバーが居るから、復活と治療をお願いしたい。咲くんは変わらず暴れ回ってほしい。」

「分かった!」「了解です!!!」

「じゃあ、咲、また戦いが終わった後でね。」

「うん!ホノは強いから心配必要ないと思うけど気をつけてね!」

「咲もね!お話楽しみすぎてって先行しすぎないように。」

「うん!」

そう言って、咲はすぐに発つ。


私も飛ぶための姿勢になる。


あれ、雪凪ちゃん?!倒れてるじゃん!!


「仄葉さん!診てくれるの?」


この声はたしか雪凪ちゃんのお母さんの声だ。

矢室先生。


いや、先に診てあげないと。


駆け寄って、”診断”する。

いや、診断する前から異常が視覚に映る。

手首から血が流れている。

これは魔法の使いすぎの時にしか見られない症状。

傷がないのに、血が出ている。

しかもかなり。

そこに、私の魔法による、重力変化がなにか悪影響が重なって貧血からの気絶、そんな感じだろう。

息はある。

ということは気絶じゃない。


「矢室先生、雪凪ちゃんがこの状態になってからどれくらい時間経ちました?」

「十数分よ」


意識障害とかが怖い。

こういうのの原因はたしか強い感情ベースで魔法を使った時に起きやすい現象のはず。


根本の原因は激情。

人の感情を外から抑えることは通常時は無理。

でも倒れてる今なら。


“クールダウン”


血溜まりができるほどの流血量ではないけど、念のため輸血したほうがいい。

かなり無理な補給方法になるけど、これしかない。


自分の手に傷を付けて血を出す。


“血液精製”

“型変換”


手に魔法を発動しながら、雪凪ちゃんの手を強く握り、血を直接送る。


「はぁっ···ごほっごほっ···、····ふぇ?」

「雪凪ちゃん、大丈夫?」

「ほ、仄葉ちゃん、なの?」

「うん、そうだよ。身体、どう?落ち着いた?」

「うん、大丈夫、だけど、あれ、私、何してたんだっけ」


あー、意識障害かな。

ここからは矢室先生と灯紫川さんに任せたほうがよさそう。


「矢室先生と灯紫川さん、あとはよろしくお願いします。」


そう言って、私は飛ぶ。


『出発したね、仄葉ちゃん。私の声聞こえてたら、火の魔法を打ち上げて。』


この声は咲の友達の陽田さんだ。

咲といるときにたまに話したことがある、くらいの間柄だけど、あの明るい声は忘れようと思っても忘れられるものじゃない。

そんな音情報が、脳内に直接届く。

付近に陽田さんらしき姿は見えない。

さっき灯紫川さんが言ってた能力なんだろう。


とりあえず火の魔法を上空に向かってまっすぐボゥっと打ち上げる。


『良かった、聞こえてるみたいだね。今、無線が使えなくてね。博士から直接指示をもらった行き先の部隊の人から一つ無線機を借りてね。私の魔法が付与されてるから、それがあれば交信できるようになる。もし何か緊急で伝えたいことがあったら、さっきみたいに悪魔さん経由で話してくれてもいいよ。』


なるほど。

悪魔が憑いてたのは陽田さんだったんだね。

情報共有のやり方については了解。

もう一度火の魔法を同じ様に打ち上げる。


陽田さんからのリアクションはない。

どこからどんな風に見てるのか知らないけど、指揮系統を任されるような凄い子だったんだね。

魔法使えるのも知らなかったし。


それにしても、あれが異形?

見える範囲の皆の戦っている相手を見ると、すべて姿はバラバラ。

哺乳類も爬虫類も鳥類もなんだか分からないやつも居る。

一見して、共通点はない。

でもよく見ると、部分的に奇妙な紫色のオーラみたいなのを纏ってるのが共通点っぽい。

特別威圧感があるわけでもなく、完全に戦況が押されているでもなく、お父さんが”普通は戻ってこない”なんて表現するくらいの絶望は感じない。


一旦ピンク倉庫に急がなきゃ。


空を押すように大きく翼を動かして、倉庫に向かう。

戦場の熱気が物理的な熱さを生み出しているかのように、顔に当たる風は蒸し熱い。

ものの数十秒で倉庫に着く。

私に対する銃撃はない。

皆、異形戦の後衛として動いているみたい。

驚かせないように、少し離れたところで着地する。


「し、師匠?」


すぐに左耳に聞き覚えのある声での特徴的な呼び方が入る。

呼び方の通り、私を勝手に師匠と呼んで、直接『尊敬してる』と言ってくれた、等嶺奈ちゃん。

師弟関係として、特別な何かを教えたことなんてないんだけど、いつの間にか、2人しかいないときに師匠呼びされるような不思議な関係になってしまった。


「うん!そうだよ、嶺奈ちゃん。」

「うぅっ、グスッ、良かった、、、知ってる声だ。。。それより早く来てほしい、千花ちゃんが、、、」


!!!

多分、爆破の影響だ、、、ゴメン、、、剣崎さん。。。


「分かった。案内して。」


歩くこと数分。

物理魔法で建てられたであろう建物から、ほんの少しずつ建物がマナに戻る光が溢れているのを傍目に、救護区画につく。

状況に反した、美しいエフェクトだ。


「千花ちゃんのオドが変形しちゃって、、、それが身体に影響を与えてるみたいなの。。。」


なにそれ、それは···私でもどうにかできることなのか分からない。

でも不安にはさせられない。

一旦、全体像を把握して、優先度を決めよう。


「他に重症者は居ないの?現況は?」

「うん、師匠にマナ圧で気絶させられた子以外にも負傷者は居たけど、流石にそれくらいは救護部隊だけでどうにかなったんだ。気絶してる皆は気絶してからずっと起きない。だから、もう2時間くらいの昏倒状態ってこと。師匠のマナ圧、訓練で受けたマナ圧と全然質が違ったから。」


2時間の昏倒はマズイ。

十数分の雪凪ちゃんですらなにか悪影響があったのに。

それに、訓練でマナ圧?!

どんな訓練をさせてるの、お父さんは。

にしても、『師匠にマナ圧で気絶させられた』ってよく本人に言えるね、まあ、事実なんだけど。


とりあえず、剣崎さんの元に急ぐ。


≪仄葉!この子、魂が歪になってる!≫


え?じゃあ私、魔法で魂力を飛ばしたの?


≪そういうことになる。今は原因究明よりも対処優先だよ!ねぇ、ちょっとこんな状況で言うことじゃないかもだけど、私にも魔法、使えるかな。≫


?!

何を、したいの?


≪いま、千花ちゃんって呼ばれてる子、いや、ここで昏倒状態になってる皆、魂に影響があるのが、私には見えてる。仄葉ちゃんの知っての通り、基本は魂力って自身の身体にしか影響がないはずなんだよ。でも、現に、70人近くの他人の魂自体に傷を付けてる。多分、魔法と魂力で干渉みたいなことが起きてるんじゃないかな。ほら、なんか仄葉の知ってる神様が言ってた、マジック何たらってやつの影響かもしれない。まあ、それは置いておいて、魂力の造詣が深い私が、もし魔法を使うことができたら皆を元に戻せると思うんだ。≫


なるほど。

正直、オドの変形治せるイメージが湧かなかったから、お願いするよ。

多分私経由の発動になるから、以津真天は私の脳みそにやりたいことのイメージをそのまま送ればいけるんじゃないかな。


頼んだよ!


≪了解、頑張るよ≫


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