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76: 火に油が注がれ、溶液から水が抜け、シアン化水素が蔓延する。

話し合い、か。

策略ではないと思っていいのか、不安だ。

少なくとも拘束の解除は要求されてない。

それを考えると、多少信頼出来るのかもしれない。

現状も激しく身動きすると辛くなる程度の重力負荷。

しかし、話し合いしている間に何か仕掛けられる可能性もある。


それに、急な攻勢で一気に拘束まで持っていけたのも少し違和感がある。

今までの攻撃は確かに消極的だった、、、しかし、それだけで無条件に近づいていい理由にはならない。

現に、千花さんの意識が無くなったらしい。

ただ、千花さんの最後の抵抗のおかげで、まだ倉庫の崩壊は始まっていない。


話し合いだけなら、先ほど仄葉から研究室に近づいたときはいいタイミングだったはずだ。

何かを感じて実現しなかったが、、、いや、魔力検知か何かで体に纏った防御魔法魔法なり施設で溜めていた魔術装置なりの魔力変動を感じたのか、、、それが何の魔法か分からないからという理由なら理屈は合う。


うん?

ということは、仄葉はそもそも戦うつもりが始めから無かったのか?

じゃあ、なんだ、序盤の状況がある種一方的だったのも、無抵抗の意思表示だった?

魔素圧こそ2段階だったが、犠牲者はいない。


「博士、早めにご判断を。2Aのメンバーの一部を中心に言い争いが始まっています。今すぐ仄葉さんと対話すべき、という意見の学生がぽつぽつ戦場ドローンのカメラに映っています。このままこちら側の体制が崩れては問題です!」

「分かっている」


そうだな、今仄葉が戦うつもりだったかはどうでもいい。


あとは、陽田さんが悪魔としての自覚とでもいえばいいのか、そういうのが交信したことで芽生えた可能性だって捨てきれない、、、

いや、今、そこは考慮に入れなくていいのか?

仮にそうだとしたら、すぐに陽田さんからの攻撃があるべきだ。

であれば問題ない。


「博士!2Aの矢室雪凪さんが同じく2Aの灯紫川さんと取っ組み合いを始めてしまいました!!!矢室博士も飛び出して行きました。雪凪さんを止めに行ったのかと!!!おそらく、仄葉さんの拘束もゆるくなっているかもしれません」

「!!!!、わかった、構わん、今すぐ俺も仄葉と話しに行く。」


どちらが仄葉寄りの子なのかは分からないが、友愛が深い。

そうだな、俺も迷わず話しに行くべきだった、、、


「分かりました、私たちは待機でいいですかね?」

「ああ」


博衣を脱ぎ捨て、俺は研究室の入口に向かう。

いつもより重さのある音で床に落ちる。


途中で魔導バイクを起動するボタンを乱雑に押す。


仄葉の重力場の影響で足が重い。


心臓が不整脈を起こした時の様になっている。


入口に近づくにつれ、スタンバイしているであろう、魔導バイクの魔導具ならではの動作音が大きくなる。


入口までの廊下や部屋には自分の重い足音と魔導バイクの動作音が響き、身体には心臓の揺れが響く。


入口を出る。


魔導バイクはスタンバイしている。


しかし、おかしい。

はっきりとは言えないが、肌で感じられるレベルの異変がある。

仄葉の重力場とは関係のない何かだ。

無線を付ける。


『こちら、宮椋。本部、異変を何か検知していないか?』


・・・


『こちら、宮椋。本部、異変を何か検知していないか?応答を求む!』


なんだっ!?

この至近距離で無線がつながらない!?

どうなっている、、、、

いや、今は仄葉と話すのが先だ。


ただでさえ重い腰を挫かないようにゆっくり乗りつつ、エンジン始動と共に足に魔力を掛ける。


ひとまず仄葉の方に向かおう。

普通に走っていては時間が掛かる。


滑空翼展開ボタンを押す。

足に掛ける魔力も上げる。

ギアをDに入れる。


ギュギュギュギュッという独特の駆動音がして魔導バイクが戦地に向けて空に飛び出す。


研究室のある位置と戦地には高度差がある。

仄葉の重力場のおかげで自然と降下角になるが、さらに角度を付けて一気に近づく。


まだ少し遠めだが、大きな争いには発展していなさそうだ。

無線が使えない影響はまだ出ていないように見えるが、、、


・・・?


暗い。

まだそんなに日が落ちる時間ではない。


目線を上げる。


!!!


大きい。

大きい、なにか飛んでいる。


なんだあのプテラノドンみたいな飛翔生物は。

しかも、あの生き物、嘴に赤黒いもやがあるじゃないか、、、あれは、、、異形!!!!

このタイミングで、、、


あれは間違いなく異形だ。

だから仄葉のせいではない、はず。

だがなんというタイミングだ、、、


一応無線してみるか・・・


『こちら宮椋!上空に巨大な飛行型異形を確認!!!情報が欲しい!』


・・・


やはり無理かクソっ!


いや急げ椋平。


「ぁぁぇ」


誰かに呼ばれたか?

気のせいか?


「はかせ!!!」


後ろを振り向く。


将門(まさど)君!?どうした!」


修士1年の将門君が同じく魔導バイクに乗って、倍くらいの速度で追いかけてきた。


「報告と指示を仰ぎに来ました、博士、もう目視されたと思いますが、異形が出現しました!!!あらゆる位置の戦場ドローンカメラに映りこんでいます!また、無線の周波数帯に甚大な波状体の妨害があり、無線が現在使えません。因果は明らかではありませんが、異形が関連していそうです。一旦、動ける者は指示があり次第、この後戦地に赴き、小隊を組んで戦地から異形を排除するようにしたいと考えております!」


「なるほど、了解した。将門くんは早馬ということだね。うん、提案してくれた通りでいい。私もなるべく早く仄葉の元にたどり着く。重力場が解除され次第速やかに各自判断で動くように伝達してくれ。あと、陽田さんに能力で無線の替りを用意するように伝令をしてくれ。それまでは、機器をフル稼働させて、現状の情報収集に務めてくれ。」


「了解です!ご武運を!!」


「ああ、将門君も」


と言いかけたところで、将門君は既に重力に負けないように動作している魔導バイクの爆音駆動音と共に研究室の方に戻っていっていた。


俺も急がなければ。


ググっとさらに足の魔力を強める。

最後に乗ったジェットコースターなど忘れてしまったが、ジェットコースターよりも速いのではと思うくらいの猛スピードで急降下する。


幸い、異形は俺自身には向かってきていない。


緊張感からなのか、スピードが速すぎるからなのか、身体に打ち付ける風が一段と冷たく感じる。


いやな冷たさを感じながら降りること1分ほど。


戦場に着く。

灯紫川さんのスライムは大分萎んではいるものの、遠目からでも十分わかる。

あのあたりに灯紫川さんと矢室親子が居るのだろうか。

とりあえず、さっさとスライムに近づこう。


戦場は事前準備にて柔らか目な砂に魔法的に置換している。

だから轍が浮かぶ。

重力の大きさからなのか、轍が深い。

速度もその分遅くなる。

しかし、学生がまばらにいる状態で、無線も使えない状態で速度を上げるのは危ない。


今の止まらないくらいのスピードで人の隙間を縫ってスライムに近づく。


視界に映るメンバーは皆疲弊している。


早く仄葉の元に着かなければ。


まだ近くに異形の気配はない。


くそ、無線が使えれば全容が把握できると言うのに!!!

とことん邪魔をしてくれるな、異形よ。


視界の端に、仄葉を閉じ込めているであろうスライムとは別のスライムが映る。


あっちか!

2人の間でガチの戦闘になっている可能性がある。

二人とも能力は戦闘向きでない特徴だが、、、


「みんな!博士が来た!動けるやつは動けない人を引きずってでもいいから道を開けろ!」


まだ活力のある学生が大きな声で出来る限りの整理をしてくれている。

ありがたい。


ある程度の隙間が空いたとはいえ、速度を上げ過ぎず向かう。


「雪凪!!!いい加減に落ち着いて!!!どうしちゃったの!?」


矢室博士の声が聞こえてくる。

友愛が強かったのは娘さんでしたか、、、


「雪凪さん、宮椋だ。すまない、判断が遅れた」


「ぉ遅いのよっ!!早く行ってっ!!!」


雪凪さんから聞いたことないくらいドスの効いた声が帰ってくる。

雪凪さんの目には蔑みが含まれているように思う。

小さい体からものすごい圧を感じる。


周りには雪凪さんを止めようとしたと思われる学生が、顔まで簀巻きにされて転がっている。

雪凪さんの手首に魔法の過剰利用による流血が見られる。

身体が本来の魔素許容を超えた証拠だ。


「灯紫川さん、私が通れるくらいだけ、スライムに穴を開けて欲しい!私が入ったら閉じてくれ。開けて欲しい時は、魔導バイクのライトを点滅させる!!」


「了解です!!」


すぐにスライムに私が入れるくらいの入口が出来る。

簀巻きのままの仄葉が見える。

走る。


「お、お父さん!!」


その声と同時に重力場が消滅する。

後ろでドサッという倒れる音がする。


そして、軽くなった足取りでスライムのドームに入る。

すぐにスライムは閉じる。


「ごめんな仄葉、始めから話そうとしていたんだな、気づけなくて申し訳ない、、、」


仄葉は泣きながら抱きしめてくる。

倒れたのは雪凪さんか。

安心感と急な重力場の解除で気絶してしまったかな。


「ううん、良かった、やっと話せる。私は、私、だよ。」


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