75: 油圧プレスで溢れる油
いまの私ならわかる。
仄葉ちゃんが如何に規格外な魔法使いか。
今まで、どちらかというと日常ではあまり使いどころのないマナ検知・オド検知は覚えなくていいかな、と思っていた。
魔法は便利で、悪用する人もいるからと、男子よりも女子の方がマナ検知・オド検知は早めに覚えましょう、とは推奨されていた。
出来ることなら友達グループに一人はマナ検知・オド検知できる人が居るといいですね、と言われるくらいには。
まあ、私は、そんな悪いことなんてそうそう起きないからいっか、と楽観的にいて覚えてなかったわけで。
実際、犯罪に巻き込まれそうになったり、怪しい人に追いかけられそうになったりしたことはない。
校内で魔法を使ったいたずらを回避するには必要かもしれない。
私はいたずらする側だけど。
そして、今回の仄葉ちゃん救助にあたり、私を含めたマナ検知・オド検知を習得していない少数派に対してレクチャーが入ったわけだけど。
で今使っていて、仄葉ちゃんのは、オド検知で把握できる力とマナ検知で把握できる力の比率が常人のそれとは全然違う。
だから、平然と凄い魔法を操れるわけだ。
魔素圧が出来るのもその圧倒的なオドの力があってこそ。
普通の人は、他人をショックで気絶させるほどの魔素をそのまま放ったらそれだけでもうその日は魔法が使えなくなるくらいの負担がある。
仄葉ちゃん、また、遊びたいよ。
その圧倒的な力で私の身体を詰って♡。
あぁ、思い出したら脳がふわふわに…
「雪凪ちゃん、集中して、ボーっとしてるとやばいよ!
上見て。
遊撃隊を中心に激闘してる。いつ、私たち捕縛バディの出番が来るか分からないから。」
「ゴ、ゴメン、藍琉ちゃん」
そう、今は超攻撃で一気に削って地面に落として捕縛しよう作戦(私の中でのネーミング)の実行中。
なんの因果なのかは分からないけど、捕縛バディは2Aの手芸部コンビになった。
海璃和ちゃん、楓ちゃんの無線によると、仄葉ちゃんは楯を持っているらしい。
だから、悪魔の魔法使いと異能の魔法少女が戦っているとは思えないくらい物理的に重い音が聞こえる。
仄葉ちゃんの高度は落ちていない。
海璃和ちゃんはグリフォンさんと空中戦を展開して、一部のメンバーは、巫禾々(ふわわ)ちゃんの召喚獣に乗って空中戦に参戦している。
海璃和ちゃんは生成異能をフル活用して、グリフォンさんに乗ってなくてもある程度の空中機動が出来る小さめのユニットを装備して戦ってる。
巫禾々ちゃんも、仄葉ちゃんの襲来は急ではあったモノの、ここ最近のガチャ運が良かったのか、飛べる系の召喚獣が多くて彼らを保持し続けていたから、めっちゃ活躍している。
本人は「これが定めというモノか、、、ふわわの溢れんばかりの人望に召喚獣は応えてくれた、、、」といつもの中二病を発揮していたけど。
しかし、それでも仄葉ちゃんの高度は落ちない。
傍でLM隊が超火力ビーム魔法を合同で実行しようとしている。
マナ検知的には、仄葉ちゃんを結構削れそうと期待を持てる程度の力を検知している。
『今から10カウントで超火力ビーム魔法発射します!視界がホワイトアウトするかもなので直視しない様お願いします!!!』
メンバーの無線。
仄葉ちゃんに直撃する様子を見るために、眼球の目の前にサングラス的な効果を持つ魔法の膜を生成。
『4』
『3』
海璃和ちゃんが一気に距離を取る。
『2』
『1』
極太ビーム魔法が仄葉ちゃんを包む。
流石の光の量で、ビーム魔法の中の仄葉ちゃんは見えない。
『発射終了』
3秒後に終了の合図。
仄葉ちゃんは、無傷。
でも、オド検知に映る仄葉ちゃんの力ははっきり削れてる。
流石にあの規模は全力で防御魔法しないと耐えられないのね。
LM隊の方にもオド検知を向けてみるけど、同じ魔法を打てるほどのオドの状態のメンバーは居なさそう。
仄葉ちゃんの怯ませとオド負荷掛けは成功してると思う。
となると、ビーム魔法に参加してないはずの咲ちゃんの残りの全力と召喚剣で叩き落すステップ。
楓ちゃんのあまりにも人外な力で、上空に咲ちゃんが瞬間転移。
マナ検知には咲ちゃんの全力が映る。
バギィィィィン
凄い音・・・
落ちてくる!!!
「藍琉ちゃん!!!!」
「分かってる」
私たちの番。
そのまま地面にめり込むんじゃないかって思うくらいの衝撃で仄葉ちゃんが地面に墜落。
動かない。
その間に藍琉ちゃんがスライムドームを構成する。
私も捕縛のための魔法を編む。
スライムドームの完成と同時に仄葉ちゃんが動く影が見える。
『研究所から魔力消耗弾を発射します。』
マナ検知に強力な反応が映る。
私も編めた!
出来たのは、透明化を付与した三つ撚りロープの魔法。
仄葉ちゃんはもうスライムドームの中に入ってて、視覚的にはほぼ見えないけど、私にかかればちょちょいのちょい。
ツタ植物が電柱とかに巻きつくアレと同じ仕掛けをロープに付与したから、地面からロープを生やすようにすれば、お、手応えあり。
簀巻きに出来たんじゃないかな。
「藍琉ちゃん、仄葉ちゃんの簀巻きできた。」
「簀巻きはやりすぎかも?でもナイス!」
「へへっ、じゃあ無線するね。」
「うん、お願い。」
『矢室、灯紫川、仄葉さんの捕獲に成功しました。スライムドームは空気抜きのため、まだゆっくりと収縮中です。』
『宮椋だ。ありがとう。』
救助団のみんなから緊張が解けるのを感じる。
私も安心したいけど、私が気を緩めすぎるとせっかく簀巻きにした仄葉ちゃんが解放されちゃう。
はぁ♡簀巻き仄葉ちゃんを直視したい♡
そして、魔力消耗弾もやっと到達。
無音でスライムドームに近づき、何もないかのように透過して、スライムドームの中に入っていく。
スライムドームの干渉があるからマナ検知・オド検知で仄葉ちゃんが消耗したかは判別できない。
これは流石に上手くいったんじゃないかな。
序盤は全然仄葉ちゃん優勢な流れだったけど、なんとか抑えられたのかな。
仄葉ちゃん得意のデバフ魔法すらあまりなかったけど。
「ふぅ、」
!?
か、身体が重くなった!?
スカートの裾が太ももにふわりと張り付くような感じもした。
「藍琉ちゃん、こ、これって・・・」
「う、うん、絶対仄葉ちゃんの重力魔法。」
気張ってた私たちはなんとか立ち続けているけど、周りの一部のメンバーには安心感で力が抜けたからか、倒れたまま立ち上がれない人もいる。
「結構なっ、倍率っ」
『広範囲の重力操作がされました、皆さん落ち着いてください、動くと体力を消耗するので、なにか大きなアクションがあるまで、静かに耐えてください!』
無線。
結構しんどいことを言ってくれる。
私たち捕縛バディは魔法の保持もしなきゃいけないのに。
特に私、そんなにオド容量大きくない。
藍琉ちゃんは異能由来の魔法だから1日1時間の制限がある代わりに自由に扱えるけど。
今の簀巻きの状態を私は多分1時間保持できない。
簀巻きにしなくても1時間持たないと思う。
まあ、1時間も状況が変わらないなんてことはないと思うけど、、、
・・・
おでこに脂汗が出てくるのが分かる。
・・・
なんだろう、この時間。
無線もないし、ロープ魔法にも大きな反応はない。
ロープ魔法越しに、仄葉ちゃんの鼓動を感じる。
特別焦ったような心拍数ではなさそう。
一方、私の心臓の鼓動は早くなる。
多分、重力が上がったから心臓が血流回すために心拍数を上げたんだ。
いや、単に緊張と焦りから来る、シンプルな心拍数上昇かもしれない。
両方かもしれない。
これ、どちらにせよ、長く続くと普通に辛いよ?
・・・
・・・
・・・
何分経ったかな。
もう軽いジョギングを始めたくらいの心臓のバクバクさなんだけど。
救助団活動始まってから運動するように頑張って、始まる前よりかなり体力付いたけど、これ続くの!?
「スーッ、フーッ」
深呼吸、深呼吸。
「雪凪ちゃん、、、大丈夫?いや、私も大丈夫じゃないんだけど。。。」
「じゃない。あまり、話したく、ない。」
「そ、そうだね、ゴメン。」
いや、ゴメン、心配だよね。
でも、今は集中切らさないようにしないと。
『陽田楓です、今、仄葉ちゃんの中の悪魔から私の中の悪魔に交信がありました、、、仄葉ちゃんに戦闘の意思はないです。こんな姿で、でももう戻れないとも。このままで話し合いが出来ないかと言っています。出来るならすぐに重力魔法を解除する、とも。』
?!
仄葉、ちゃん?!
よ、良かった、、、じゃあ簀巻き解除してあげないと、、、簀巻きを直に見れないのは残念だけど、
「藍琉ちゃんっ、解除しよっ、仄葉ちゃんっ、戦う意思ないって!」
「落ち着いて、雪凪ちゃん。私も信じたいけど、勝手に動いちゃだめ。」
「で、でもっ!!!」
「仄葉ちゃんの方から、重力魔法を解除するけどこのままで話し合いってことは、スライムと簀巻きを解除すると仄葉ちゃんは都合が悪いんだよ。多分、私たちを安心させるために、言ってると思うよ。」
「藍琉ちゃんが言うなら···」
で、でも、その言葉だけで信頼出来るじゃんっ!
どよどよしてないで決断してよ、博士。
なんで娘の言葉を一番に信じないのっ?!
“わかった、私が行く。交信で回答してくれ”って言うだけだよ?!
何と仄葉ちゃんを天秤に掛けて迷ってるの?!?!
天秤に掛かるものもう無くなったじゃん!!!
事実、私たちの命は、誰一人失われてないし!!
怪我とか気絶の子はいるけど。
今だって、もっと重力の掛ける比率大きくしてたら、皆致命傷だったかもしれないのに、いい感じのデバフくらいの比率になってる。
それに、仄葉ちゃんは攻撃をいなしてばっかりだった。
もう答え、出てるじゃん。
「雪凪ちゃん、何かしようとしてないっ?!顔に出てるよ、我慢して。」
!!
「だ、だって、、、」
···
「博士、回答、遅いじゃん」




