【第三章 第一話 お食事会】
【カルロ・モレッティ視点】
チャオ~! 母さん! なんやかんやでドイツのすっごく偉い部隊、シュミート大佐率いる特務機関の警護ぶになっちゃった!
俺がしたことはなんだと思う?
去年の東部前線では塹壕の中で毎日ご飯のことしか考えなかったよ。十五万人の天使の軍勢を前にアランと一緒に急いで食事をかき集めて荷物を持ったね。そしたらクレーターの中へ走れって空から雷落ちてきて、そっちに走ったら念力の障壁があった。人一人は通れる隙間があって身を隠したよ。
ヘビモスの足音がして、ペネロペ様が右足失ってゴロゴロと来たときは……さすがに死ぬんだなって思ったなぁ。そしたらシュミート中佐が突然泣きそうな顔になって、背中からバサッ! って天使の翼を開いたんだ。胸に両手を当てて電気ビリビリしたらペネロペ様の右足が再生!
ここから一気にヘビモスを倒す作戦開始。俺はアランとブジョワ大尉を運んで茂みに隠れた。
ヘビモスがビリビリになった姿を俺は見たよ。あの時は雄叫びあげすぎて喉が枯れた。
次にやったことは……正直思い出したくないなぁ、ドーヴァー海峡での《アイギス》との戦いは。だって首を切ったはずのアイギスが不死身で、悪魔の姿になって、シェルピェン様が……あぁ……うん。その後のヨハネのブチギレについては語れる! 海のそこからブワワワ! って青い炎が爆発して、アイギス相手に一騎討ち! シェルピェン様のこと大好きだったんだね。
まぁ数日後にみんなの前でふられてたけどね!
さてさてお次の任務はなんですか?
答えは! かっけぇ軍服を着る!
俺みたいな能力階級『Ⅲ(三)』でもここまでのぼれることができるんですなぁ~。運がいいのかな? それとも悪運? どちらにせよ母さん、俺はドイツで元気にやってます!」
ふぅ。書き終わった。無事にイタリアまで届いたらいいな。
俺は立ち上がりルカを探した。アイツにこっそり預ければ確実に届けてくれる、グリフォンなのにもはや伝書バトだ。まぁルカは戦いも痛いのも嫌だから空飛ぶ通信兵が丁度いいんだろうね。
廊下を歩いているとドイツ人ばっかりだ。なのに、何故か皆一歩引いて遠ざかる。俺からしたら歩きやすいから、いいか! こういうのはね気にしたら敗けだよ。
「あ、ルカ~チャオ~」
「チャオ~」
ルカと雑な敬礼を交わして、俺は手紙を差し出した。誰にもばれないようにスッと。サッと受け取ってくれたルカは頷いてくれる。今回も送り届けてくれるらしい、グラッツェ。
俺達は共に地下室へ進む。俺達以外誰も居なくなってから、俺はルカの黒い目を見た。
「なぁルカ、シェルピェン様の『血清』結果って……」
ルカは一言で教えてくれる。
「目を失った一般人が元通りになった」
「すげぇね?!」
すごい! すごい! 万能薬ではありませんか!
だが、喜んでいたのは俺だけだった。
ルカは冷たい目線を遠くへ送る。
「だからシェルピェン様は永遠にこの地下に囚われる」
それは……それは。
「それはダメだ……」
「だがそうするしかなかったんだ。けど、どうか不死ってことだけは頼むからバレないよう誤魔化せ」
「もちろん。俺嘘下手くそだけど、舌を抜かれても美人だけは守るよ。命を救われたし」
「それでこそだ」
俺はルカと拳をぶつけ合う。同じイタリアの男として、これだけは超えてはならない一線だ。
とある鉄の扉を過ぎ去る途中。
──ガンッッ!!
中で『人工能力者』が暴れていた。ヨハネの血清で作られた能力者が苦しそうに暴れている音だ。
俺は見ないフリして扉を過ぎ去る。
「カルロ」
俺の名前を呼ばれた。顔をあげ、ルカの横顔を見る。
「俺は、ヨハネを守るために犠牲者を無視する」
あぁ……うん。
俺はバカだけどなんとなくわかる。犠牲者がいること、犠牲者を作らなくてはならないこと、シュミート中佐がどうにか誤魔化していること、全部わかっている。
俺達がするべきことは信じてここにいることだけなんだ。
俺達はいつもの部屋へ訪れた。今日の警備はペネロペ様、この奥にシェルピェン様とヨハネ達が居る。俺たちは同じイタリア人である彼女へ挨拶。
「チャオ!」
「チャオ!」
「チャオ!」
ここがドイツ人だらけの地下だとは思えない挨拶をした。
軽い挨拶をするとペネロペは扉を叩く。内側からしか開けられない扉だ。
ぎぃぃぃ、と鉄の扉が開かれると。
ふわっ! と漂うのはお肉のいい香り!
部屋の奥へ進むと、机の上にはビーフシチューやらワインやらライ麦パンやらプレッツェルやら数多のパン。ドイツってパンの種類が豊富すぎるよね!
本日も集まったのは十人。
時間を空けて毎食十人ずつ、四日ローテーションでこんなにも豪華な食事をいただけるなんて!
俺は浮き足で椅子に座り込んだ。
「ふううぅっっおれここの席~!」
そんな俺をお食事中のヨハネが「フッ」鼻で笑ったなフランス貴族め。
俺は食卓の中央にある鍋に両手を伸ばし再加熱。
「なんだですかフランス貴族」
「いえ、なにも」
「本日もお上品にワインですか! いいご身分ですねぇ~!」
「享受を受けている側が何を言ってんだか」
「いつもありがとうございます!」
四日に一度は食える最高の食事。これがあるからきっと百二十人全員が大佐を慕うんだろうなって。やっぱり心を救うのは美味しい食事だよ!
俺は暖め直したシチューをお皿に乗せた。
「はいルカ」
「グラッツェ」
次に俺の分を用意する。
神への祈りを一秒だけ捧げてからスプーンを手に取った。
シチューを一口。アッッッハぼーの! ぼーの! ぼーの! 赤身のお肉がホロホロのぼーの!
そんな俺の隣でルカはヨハネに聞いていた。
「……今日もシェルピェン様はお休み中?」
ヨハネの低い声がグラスを振動させた。
「体が小さいからたくさん眠るしかないんだろうね」
シェルピェン様は見た目が十二歳、身長は百五十センチ。なのに軍のお上はヨハネと同じ量の血液をぶんどっていくから……最近ほとんど眠っているらしい。起きたらすぐ食事を取ってまた眠って、血を抜いて、眠って、食べて、血を抜いて。そんな暮らしが戦争が終わるまで永遠に続いちゃいけない。太陽の光と海の青にはさまれて銀色の髪をキラキラさせるべきだ。
俺は豚の血のソーセージを一口。独特な生臭さと重たさがあるから一口で満足できる、俺もここで栄養を蓄えておいていつでも動けるようにしたい、能力を使うとすっごく疲れるから。
シェルピェン様一人じゃ十人前なんて食べられないから俺も食べるけど、本来これを食べるべきは彼女だ。余らせるよりはいいけどさぁ、なんかさぁ、ね。
ヨハネがガタッ! と立ち上がる。どうしたのかとヨハネの視線の先を見れば、あ、シェルピェン様!
ヨハネはすぐに念力で椅子を引いていた。シェルピェン様は「おはようございます」と一言だけいって、ぼんやりとした目線ですぐに食事を見る。彼女はヨハネに感謝をして、神への祈りもしっかりと捧げて、ようやくフォークを手に取った。
まず食べたのは血のソーセージ。ルカも立ち上がり「卵いります?」とシェルピェン様に声をかけ、食事の準備をするため別の部屋へ向かった。
シェルピェン様は無言でソーセージを食べていると机にレバーのワイン煮と目玉焼きが置かれる。彼女はレバーを頬張りながら味のついていない目玉焼きを食べ、ようやくパンを手に取った。
まるで体で血を作るためだけのつまらない食事。けれどこれをしないと本当に死んでしまうんだ。
ヨハネが声をかける。
「シェル、ココア飲む?」
シェルピェン様はココアが大好きだ。
「……ううん、大丈夫」
ココアよりも食事を優先していた。
この前まで食後のココアでほわっと頬を緩めていたのに、彼女の体が食わないと死ぬって叫んでいるんだろう。
急いで食事を食べた彼女はまた部屋へ向かう。揺れる銀色の髪はいつ見ても神々しいのに、なんだか、今にも溶けて消えてしまいそうに見えた。
ルカが声を震わせながらヨハネの隣に並ぶ。
「なぁ、あれ限界だろ、なぁ?」
「だとしても、ノルマをこなさないと次はもっと残酷になるだろうね。純血思想のドイツ人よりはヴェークの方が何倍もマシだ」
「だとしてもお前あんなん見て」
ひっくい、ひっくい声がした。
「なにも思わないとでも?」
そうだよな。お前大好きだもんねシェルピェン様のこと。好きな子には笑っててほしいよね。
俺は気持ちだけはわかるから、気持ちしかわからないから、俺も立ち上がってヨハネの背中を。
──バンッ!!! と叩いた。
「いッ?!」
ヨハネはなんだと机に手をついて俺を見上げる。腹立つぐらい顔がいいなお前な。
「好きな子の前では不安だけは見せるな、って俺のパパは言ってたよ。おどおどして泣いててもいいから不安だけはやめろみっともないってキンタマ蹴られたね」
ルカがヒッと震え出した。
「こえぇ親父!」
「ちょー怖い! やだ! 帰ってきてほしくなかった仕事から! でもちょー愛妻家!」
「だとしてもキンタマはやべぇってそれ何歳の話?」
「十歳?」
「ひぃぃいぃいい」
親父はかなり無口でかなりぶっきらぼうで、イタリア人じゃなくてドイツ人かってぐらい几帳面な親父だった。そんな親父だからこそママはとーっても優しくて、俺がキンタマ蹴られた時は親父にブチギレてたね。孫の顔見れなくなったらどうすんだって胸ぐら掴んでた。
俺はヨハネへお伝えしてあげた。
「食事の時間を少しでも明るくしてあげなよ、せっかく美味しいんだから」
「……その通りだねイタリア男」
「そうだろおフランス貴族」
ヨハネは『誰も俺に近づくな』オーラ全開の美人なんだから、お前からいかないと女の子は振り向けないって。とにかく、ヨハネの心が前を向いたのでよしとする。俺が明るくシェルピェン様と関わっても意味ない、お前が関わらないと。
ルカから聞かれた。
「なぁカルロ玉って無事?」
「なんかさぁ片方さぁ潰れてるって軍医が」
「ギャッッははははは!!」
「フッ」
ヨハネがくすっと笑ってくれた。
「事実です」
「フハッ残弾残り一」




